雨を降らせるとされる竜王。空海の雨乞いに現れたと伝えられる。
善女竜王とはどんな仏か
善女竜王をひとことで言えば雨をもたらす竜王です。
空海が神泉苑で雨を祈ったとき、この竜王が現れて雨が降ったと伝えられます。以後、雨を求める修法の本尊とされてきました。日照りが人の命に直結した時代、切実に呼ばれた尊格です。
出自には諸説があります。八大竜王のうち娑竭羅竜王の娘とする説がありますが、別の竜とする説もあり、決着していません。名も「善女」と「善如」の二通りが行われてきました。
姿は唐風の衣をまとった女性で、頭上に小さな竜を戴きます。竜そのものの姿ではなく、人の姿に竜を添えるのが定まった形です。
善女竜王の読み方と梵名
読みは「ぜんにょりゅうおう」です。
「善女」と「善如」の二通りの書き方が古くから行われてきました。どちらが本来かは決着しておらず、寺や書物によって使い分けられています。
「竜王」は、竜のなかで王とされる者を指します。八大竜王のように、複数体をまとめて数える呼び方もあります。
善女竜王(ぜんにょりゅうおう)
もっとも広く使われる形。
善如竜王(ぜんにょりゅうおう)
字を替えた形。
善女龍王(ぜんにょりゅうおう)
「竜」を旧い字で書いた形。
善女(ぜんにょ)
「竜王」を略した形。
善女竜王の見分け方(印相・持ち物・姿)
唐風の衣をまとった女性が、頭上に小さな竜を戴く姿が決め手です。
姿 ─ 人の姿に竜を添える
竜そのものの姿では表されません。 唐風の衣をまとった女性の姿で立ちます。
頭上、あるいは背後に小さな竜を配し、それが竜王であることの標になります。
人の姿に竜を添えるという表し方は、清瀧権現とも共通します。 竜を人の形に翻す作法が、日本で定まっていたことがうかがえます。
持ち物 ─ 宝珠
手に宝珠を持つ作例があります。願いをかなえるとされる玉です。
何も持たず、合掌するか衣の端を握る形もあります。
武器は持ちません。 守る役ではなく、恵みを与える役に置かれているためです。
役目 ─ 雨を降らせる
雨を求める修法の本尊とされてきました。竜は水をつかさどるものとされ、雨と直に結びつきます。
日照りが飢えに直結した時代、この尊格に祈ることは国の大事でした。
仏像のなかで、これほど実務的な役目を負った尊格は多くありません。
出自 ─ 諸説がある
八大竜王のうち娑竭羅竜王の娘とする説があります。法華経に出てくる竜女と重ねる見方もあります。
一方で、まったく別の竜とする説もあります。
どれが本来かは決着していません。 名の書き方が二通りあることも、この揺れと無関係ではないでしょう。
善女竜王のご利益
雨乞い
雨を降らせるとされることによる。
五穀豊穣
雨が作物を育てることによる。
水難除け
水をつかさどるとされることによる。
願いの成就
宝珠を持つ姿によるとされる。
善女竜王に会える寺
善女竜王の像は、真言の教えを伝える寺に伝わることが多いものです。雨乞いの修法と結びついてきたためです。
文化庁の国指定文化財等データベースで所有者が寺であることを確かめられたのは、奈良の法隆寺の一件です。木造善女竜王立像一躯が重要文化財に指定されています。
竜王を丸彫りの像として伝える例は、そう多くありません。 大阪の孝恩寺には木造難陀竜王立像と木造跋難陀竜王立像がそれぞれ重要文化財として伝わりますが、これらは別の竜王です。
なお、絵として伝わる善女竜王もあります。像に会えなくても、絵であれば目にする機会があるかもしれません。
法隆寺(ほうりゅうじ)
重要文化財
善女竜王の名を持つ、数少ない国指定の彫刻です。文化庁の国指定文化財等データベースでは、所有者が法隆寺と記されています。
立像一躯で、員数も一躯です。
竜王を丸彫りの像として伝える例は、そう多くありません。 拝観できる時期は寺の案内で確かめてください。
所在地は寺の公式の案内で確かめた。
善女竜王をめぐる仏のつながり
善女竜王の位階と、似た仏との違い
善女竜王は天部の位に置かれます。竜王として水と雨を受け持ちます。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。善女竜王は天部です。
天部のなかでは、竜王の組に入ります。八大竜王、難陀竜王、跋難陀竜王などと同じ列です。
そのなかで善女竜王は、日本での物語を持つ数少ない一体です。 神泉苑の雨乞いという場面があることで、ほかの竜王より名がよく知られています。
八大竜王 ─ 組と、そこから出た一体
善女竜王を、八大竜王のうち娑竭羅竜王の娘とする説があります。ただし別の竜とする説もあり、決着していません。
見分けは姿です。八大竜王は男性の姿で表されることが多く、善女竜王は女性の姿です。
大阪の孝恩寺には難陀・跋難陀の二竜王の像が重要文化財として伝わります。
清瀧権現 ─ どちらも竜が人の姿をとる
どちらも竜でありながら、女性の人の姿で表されます。 頭上や背に竜を伴う点も共通します。
見分けは伝えです。清瀧権現は唐の青龍寺から渡ったとされ、醍醐寺で重んじられました。善女竜王は神泉苑の雨乞いに現れたとされます。
どちらも雨を求める祈りの相手とされました。
善女竜王についてよくある質問
善女竜王とはどういう尊格ですか。
雨を降らせるとされる竜王です。空海が神泉苑で雨を祈ったとき現れたと伝えられ、以後、雨を求める修法の本尊とされてきました。
「善女」と「善如」はどちらが正しいですか。
どちらの書き方も古くから行われてきました。どちらが本来かは決着しておらず、寺や書物によって使い分けられています。
善女竜王の像はどこで見られますか。
奈良の法隆寺に、重要文化財の木造善女竜王立像一躯が伝わります。文化庁の国指定文化財等データベースで所有者が確かめられます。
どう見分けますか。
唐風の衣をまとった女性の姿で、頭上に小さな竜を戴きます。竜そのものの姿では表されません。
八大竜王の一員ですか。
娑竭羅竜王の娘とする説がありますが、別の竜とする説もあり、決着していません。
善女竜王と併せて覚えたい言葉・用語
請雨経法(しょううきょうほう)
雨を求めて行う密教の修法。
竜王(りゅうおう)
竜のなかで王とされる者。水と雨をつかさどる。
宝珠(ほうじゅ)
願いをかなえるとされる玉。如意宝珠ともいう。