水をつかさどり、仏の教えを守るとされる蛇形の尊格。八部衆の一員。
竜とはどんな仏か
竜の読み方と梵名
読みは「りゅう」です。「たつ」と読むのは日本の言葉としての読み方で、仏の名としては使いません。
梵名ナーガを意味で訳したものです。ナーガはインドの蛇で、頭に複数の首を持つ大蛇として描かれます。
文化財の名称では龍の字が使われることが多く、いっぽう本文では竜と書き分けられます。同じものを指しているので、字の違いで別の尊格と思わないでください。
竜(りゅう)
新しい字体で書いた形。
龍(りゅう)
古い字体。文化財の名称に多い。
竜衆(りゅうしゅう)
八部衆の一員としての呼び方。
竜王(りゅうおう)
尊格として敬って呼ぶ形。
ナーガ(Naga)
意味は「蛇」。インドで蛇を指す語。読みは「なーが」。
竜の見分け方(印相・持ち物・姿)
頭の上に小さな蛇か竜がのっていれば竜王です。体は人の形をしています。
頭 ─ 蛇をのせる
人の姿に彫られた竜王は、頭の上に小さな蛇、または竜の頭をのせます。
これが竜であることのいちばん確かな目印です。冠のように見えますが、よく見ると鱗と目があります。
蛇の数は一つのこともあれば、三つ、五つ、九つと増えることもあります。
身なり ─ 甲か唐風の衣
甲を着けた武人の姿と、唐風の衣をまとった官人の姿の二通りがあります。
武人の姿では剣や鉾を持ち、官人の姿では笏や宝珠を持ちます。
如来や菩薩のような装身具は着けません。 天部の決まりに従います。
蛇そのものの形
人の形をとらず、蛇そのものとして彫られる場合もあります。
倶利伽羅の剣に巻きついて剣を呑もうとする竜、堂の天井に描かれる竜、梵鐘の吊り手にあたる竜頭などがそれです。
人の形で探していると、こちらを見落とします。 堂に入ったら天井と鐘も見上げてください。
並び ─ 八部衆と二十八部衆
八部衆として並ぶときは、二番目に置かれます。
奈良の興福寺には天平時代の乾漆八部衆立像(国宝、八躯)が伝わり、そのうちの一躯が竜にあたるとされます。ただし文化庁の国指定文化財等データベースの名称は「八部衆立像」でまとめられており、個々の名は記されていません。
京都の妙法院の二十八部衆にも、竜にあたる像が含まれます。
竜のご利益
雨を呼ぶ
水をつかさどるとされることによる。
水の災いを退ける
川と海を治めるとされることによる。
教えを守る
八部衆として仏法を守る役につくことによる。
竜に会える寺
「竜」という名だけで国の指定を受けた像はありません。会えるのは竜王という形をとった像です。
大阪の孝恩寺、奈良の法隆寺に重要文化財の竜王像が伝わります。ここに挙げたのは、所有者が寺であることを文化庁の国指定文化財等データベースで確かめられたものだけです。
八部衆や二十八部衆の一員としては、奈良の興福寺、京都の妙法院で会えます。ただし指定名称はまとめた形なので、どの像が竜かは堂の説明で確かめてください。
孝恩寺(こうおんじ)
重要文化財
孝恩寺の住所:大阪府(文化庁の国指定文化財等データベースで所有者を確認。詳しい住所は公式の情報を確かめられませんでした)
像:木造難陀竜王立像 一躯/木造跋難陀竜王立像 一躯/いずれも重要文化財
この像に結び付く願い:雨を呼ぶ
兄弟の竜王が二躯そろって伝わる、数少ない例です。
文化庁の国指定文化財等データベースでは、どちらも所有者が孝恩寺と記されています。
二躯を並べて見ると、頭にのせた蛇の形の違いが分かります。
難陀と跋難陀は経典で兄弟とされる。
法隆寺(ほうりゅうじ)
重要文化財
善女竜王は、雨を呼ぶ相手として広く信仰されてきた竜王です。
文化庁の国指定文化財等データベースでは、所有者が法隆寺と記されています。
竜王の像で国の指定を受けたものは多くありません。
所在地は寺の公式サイトで確かめた。
竜をめぐる仏のつながり
竜の位階と、似た仏との違い
竜は天部の位に置かれます。八部衆の二番目です。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。竜は天部です。
天部のなかでは、もとインドの神格で、仏に従う側にまわった組に入ります。夜叉・乾闥婆・阿修羅・迦楼羅などと同じ立場です。
八部衆のうち、日本で単独の像が多く残っているのは竜と阿修羅と迦楼羅です。
八部衆 ─ 全体と一員
竜は八部衆の二番目です。
見分けは並びです。八部衆は八躯そろって並び、竜はそのうちの一躯です。単独で祀られる場合は竜王という名になります。
難陀竜王 ─ 種類と個体
難陀竜王は、竜のなかの一人に名を与えたものです。
竜は種類の名、難陀竜王は個体の名にあたります。像として彫られるときは、どちらも頭に蛇をのせた人の姿になります。
摩睺羅伽 ─ どちらも蛇に由来する
どちらももとは蛇の尊格です。八部衆のなかで二つ並んでいます。
見分けは頭です。摩睺羅伽は蛇の顔そのものを持つか、頭に蛇を巻きます。竜は頭の上に小さな蛇をのせます。 摩睺羅伽は腹ばいの蛇、竜は水の蛇という違いで語られます。
竜についてよくある質問
竜とはどんな尊格ですか。
もとはインドで蛇を神格化した尊格で、水と雨をつかさどるとされました。仏教に取り込まれ、八部衆の二番目として教えを守る役につきます。
竜の読み方は。
「りゅう」です。梵名ナーガを意味で訳した名で、ナーガはインドの蛇を指します。文化財の名称では「龍」の字が使われます。
竜はどう見分けますか。
人の姿に彫られた場合は、頭の上に小さな蛇か竜の頭がのっています。蛇そのものの形では、剣に巻きついたり天井に描かれたりします。
竜王と竜は違いますか。
竜は種類の名、竜王はそのなかの個体に与えられた名です。難陀竜王・跋難陀竜王・善女竜王などがあります。
竜の像はどこで見られますか。
大阪の孝恩寺に難陀・跋難陀竜王の重要文化財の二躯、奈良の法隆寺に善女竜王の重要文化財の立像が伝わります。
竜と併せて覚えたい言葉・用語
八部衆(はちぶしゅう)
仏法を守る八種の尊格。竜は二番目。
竜頭(りゅうず)
梵鐘の吊り手にあたる竜の彫り物。
倶利伽羅(くりから)
剣に巻きつく竜。不動明王を表す形のひとつ。