出家しないまま深い境地に達したとされる、病の床に座る長者。
維摩居士とはどんな仏か
維摩居士をひとことで言えば出家しない仏教者です。『維摩経』に説かれる人物で、居士とは在家のまま道を求める人をいいます。
家に留まったまま、仏の弟子たちより深い境地に達していたとされます。病と称して床に伏し、見舞いに訪れた文殊菩薩と問答を交わす場面がよく知られます。
最後に「不二の法門とは何か」と問われ、ひとことも答えずに黙りました。 この沈黙が答えだったと語られます。維摩の一黙、雷のごとしといいます。
像は僧でも仏でもない俗人の身なりで、脇息にもたれて座ります。奈良の法華寺と興福寺東金堂の二躯が、いずれも国宝です。
維摩居士の読み方と梵名
読みは「ゆいまこじ」です。「いまこじ」ではありません。
梵名ヴィマラキールティを音で写して「維摩詰」とし、それを縮めて「維摩」となりました。意味で訳すと「浄名」です。
居士は「こじ」と読みます。出家せずに家に留まったまま道を求める男性をいい、戒名の末尾に付く「居士」も同じ語です。
維摩居士(ゆいまこじ)
もっとも広く使われる形。
維摩詰(ゆいまきつ)
音を写した長い形。
浄名(じょうみょう)
意味で訳した形。
ヴィマラキールティ(Vimalakirti)
意味は「汚れなき名声」。読みは「う゛ぃまらきーるてぃ」。
維摩居士の見分け方(印相・持ち物・姿)
頭巾をかぶり、脇息にもたれて座る老人。僧でも仏でもない身なりが決め手です。
身なり ─ 俗人の姿
袈裟をまとわず、頭も丸めません。 頭巾をかぶり、ゆったりした衣を着ます。
在家のまま道を求めた人だからです。仏像のなかで、俗人の身なりで彫られる例はごくわずかです。
冠も瓔珞も着けません。菩薩とはここで分かれます。
姿勢 ─ 脇息にもたれる
脇息にひじを預け、片膝を立てて座るのが定型です。病の床にある姿を表しています。
背をまるめ、うつむき加減になる作例もあります。
如来や菩薩のように背筋を伸ばして座ることはありません。
持ち物 ─ 払子
手に払子を持つ作例が多く見られます。獣の毛を束ねた道具で、講義をする人が持ちます。
経巻を持つ形もあります。武器も法具も持ちません。
顔は年を重ねた男性で、髭をたくわえることがあります。
維摩居士のご利益
病を癒す
病の床に座る姿によることによる。
家にいながら道を求める
在家のまま境地に達したとされることによる。
迷いを断つ
不二の法門を沈黙で示したという話による。
維摩居士に会える寺
維摩居士の像は、奈良の古い寺に集まっています。国宝は二躯とも奈良にあります。
滋賀の延暦寺にも重要文化財の坐像が伝わります。
ここに挙げたのは、所有者が寺であることを文化庁の国指定文化財等データベースで確かめられたものだけです。東金堂は常時公開されていますが、堂によっては公開が限られる場合があります。
興福寺 東金堂(こうふくじ とうこんどう)
国宝
文化庁の国指定文化財等データベースでは、作者が定慶と記されています。 作者の名が指定名称に入る像は多くありません。
東金堂に安置され、向かい合って文殊菩薩坐像が置かれます。問答の場面が、そのまま堂の中に再現されています。
所在地は寺の公式サイトで確かめた。
法華寺(ほっけじ)
国宝
法華寺の住所:奈良県(文化庁の国指定文化財等データベースで所有者を確認。詳しい住所は公式の情報を確かめられませんでした)
像:木造維摩居士坐像 一躯/国宝
この像に結び付く願い:家にいながら道を求める
文化庁の国指定文化財等データベースでは、所有者が光明宗法華寺と記されています。
維摩居士の像で国宝に指定されているのは、この像と興福寺東金堂の像の二躯です。
光明皇后ゆかりの寺。
維摩居士をめぐる仏のつながり
維摩居士の位階と、似た仏との違い
維摩居士は羅漢と高僧の組に置かれます。出家していない点で、羅漢のなかでも特殊です。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。維摩居士はそのどれにも属しません。
僧でもありません。出家せずに家に留まったまま祀られている、きわめてまれな例です。
文殊菩薩 ─ 問答の相手
『維摩経』では、この二人が向かい合って問答します。興福寺東金堂では、実際に向かい合って安置されています。
見分けは容易です。文殊菩薩は宝冠をかぶり獅子に乗り、維摩居士は頭巾をかぶって脇息にもたれます。
賓頭盧 ─ どちらも座る老人
どちらも老いた姿で座ります。
見分けは身なりです。賓頭盧は頭を丸めた僧、維摩居士は頭巾をかぶった俗人です。置かれる場所も、賓頭盧は堂の外、維摩居士は堂の中です。
達磨 ─ どちらも衣を頭にかける
どちらも頭に衣や頭巾をかけた姿で座ります。
見分けは姿勢です。達磨は正面を向いて座り、維摩居士は脇息にもたれて体を傾けます。 達磨は手を隠し、維摩居士は払子を持ちます。
維摩居士についてよくある質問
維摩居士とはどんな人ですか。
『維摩経』に説かれる人物で、出家せず家に留まったまま深い境地に達したとされます。居士とは在家のまま道を求める人をいいます。
維摩居士の読み方は。
「ゆいまこじ」です。梵名ヴィマラキールティを音で写した「維摩詰」を縮めた形です。
維摩居士はどう見分けますか。
頭巾をかぶり、脇息にもたれて片膝を立てて座ります。袈裟をまとわず頭も丸めていないので、僧の像とはすぐ区別がつきます。
沈黙の話とは何ですか。
文殊菩薩に「不二の法門とは何か」と問われ、ひとことも答えずに黙ったという話です。この沈黙が答えだったと語られます。
維摩居士の像はどこで見られますか。
奈良の興福寺東金堂の定慶作の像と、法華寺の像がいずれも国宝です。滋賀の延暦寺にも重要文化財の坐像が伝わります。
維摩居士と併せて覚えたい言葉・用語
居士(こじ)
出家せずに道を求める男性。
脇息(きょうそく)
座ったときにひじを預ける台。
払子(ほっす)
獣の毛を束ねた道具。講義をする人が持つ。
不二(ふに)
二つに分けられないこと。維摩経の主題。