獅子に乗り、供の者を連れて海を渡る文殊菩薩の群像。
渡海文殊とはどんな仏か
渡海文殊の読み方と梵名
読みは「とかいもんじゅ」です。「渡海」は海を渡ることをいいます。
文化財の指定名称では「渡海」の語は使われず、「木造騎獅文殊菩薩及脇侍像」のように、獅子に乗る点と脇侍がいる点で記されます。
「文殊」は梵名マンジュシュリーの前半を音で写したものです。「文殊師利」と長く書く形もあります。
渡海文殊(とかいもんじゅ)
もっとも広く使われる形。
渡海文殊群像(とかいもんじゅぐんぞう)
群像であることを添えた形。
文殊五尊(もんじゅごそん)
五躯一組であることを示す形。
騎獅文殊(きしもんじゅ)
獅子に乗る点を示す形。指定名称に使われる。
マンジュシュリー(Manjusri)
意味は「うるわしき吉祥」。「マンジュ」がうるわしい、「シュリー」がめでたさを意味する。読みは「まんじゅしゅりー」。
渡海文殊の見分け方(印相・持ち物・姿)
獅子に乗る文殊と、まわりの供の者たち。 群れで一組になっているかどうかが決め手です。
中尊 ─ 獅子に乗る文殊
文殊菩薩が獅子の背に据えられた蓮華座に座ります。右手に剣、左手に経巻を持つのが決まりです。
剣は迷いを断ち、経巻は智慧を表します。 文殊が智慧の菩薩と呼ばれる理由が、この二つに表れています。
宝冠をかぶり、髪を結い分ける形が多く見られます。
供 ─ 四人の脇侍
獅子の手綱を引くのが優填王、経巻を持つ若い姿が善財童子、老人の姿が最勝老人、僧の姿が仏陀波利三蔵とされます。
四人がそろって五躯一組になる形が、渡海文殊のもっとも整った姿です。
寺によっては供が二人だけの場合もあります。
員数 ─ 三躯と五躯
岩手の大長寿院に伝わるのは五躯一組、京都の智恩寺に伝わるのは三躯一組です。
三躯の場合は、指定名称に善財童子と優填王の名だけが記されます。供が二人ということです。
員数を確かめると、どこまでそろっているかが分かります。
渡海文殊のご利益
智慧を得る
文殊が智慧を受け持つ菩薩であることによる。
学びの成就
経巻を持つ姿によることによる。
旅の安全
海を渡る一行を表すことによる。
渡海文殊に会える寺
渡海文殊の群像は各地に伝わりますが、国の指定名称に「渡海」という語は使われません。 「騎獅文殊菩薩及脇侍像」のように、獅子と脇侍で記されます。
ここに挙げたのは、所有者が寺であることを文化庁の国指定文化財等データベースで確かめられたものだけです。
員数が五躯か三躯かで、供の人数が変わります。訪ねるときは、何人そろっているかを数えてみてください。
大長寿院(だいちょうじゅいん)
重要文化財
大長寿院の住所:岩手県(文化庁の国指定文化財等データベースで所有者を確認。詳しい住所は公式の情報を確かめられませんでした)
像:木造騎獅文殊菩薩及脇侍像(経蔵安置)五躯/重要文化財
この像に結び付く願い:智慧を得る
五躯そろって指定された、まとまりのよい作例です。経蔵に安置されると指定名称に記されています。
文化庁の国指定文化財等データベースでは、所有者が大長寿院と記されています。
員数は五躯。脇侍が四人そろう。
智恩寺(ちおんじ)
重要文化財
智恩寺の住所:京都府(文化庁の国指定文化財等データベースで所有者を確認。詳しい住所は公式の情報を確かめられませんでした)
像:木造文殊菩薩脇士善財童子優填王像 三躯/重要文化財
この像に結び付く願い:学びの成就
供が二人の三躯一組です。指定名称に善財童子と優填王の名が記されています。
文化庁の国指定文化財等データベースでは、所有者が智恩寺と記されています。
員数は三躯。五躯の作例とは組み方が違う。
渡海文殊をめぐる仏のつながり
渡海文殊の位階と、似た仏との違い
渡海文殊は菩薩の位に置かれます。文殊菩薩を中尊とする群像です。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。中尊の文殊菩薩は菩薩にあたります。
ただし脇侍のうち優填王と最勝老人は人であり、位階に入りません。 位階の違う者が一組に並ぶ点が、この群像のおもしろいところです。
文殊菩薩 ─ 単独の像と、群像
渡海文殊の中尊は文殊菩薩そのものです。文殊菩薩には別に記事があります。
単独で祀られる場合は、獅子に乗る姿だけで供を伴いません。供がそろっていれば渡海文殊です。
善財童子 ─ 脇侍として並ぶ
善財童子は渡海文殊の脇侍の一人で、別に記事があります。
若い姿で合掌するか経巻を持ち、文殊のほうを振り返る形に造られることが多くあります。一行のなかでもっとも小さく彫られます。
渡海文殊についてよくある質問
渡海文殊とは何ですか。
文殊菩薩が獅子に乗り、供の者を従えて海を渡る場面を表した群像です。中国の五台山へ向かう道行きになぞらえられます。
供の者は誰ですか。
獅子の手綱を引く優填王、経巻を持つ善財童子、老いた姿の最勝老人、僧形の仏陀波利三蔵とされます。
文殊菩薩の記事とどう違いますか。
こちらは群像としての形を扱います。尊格としての文殊菩薩には別に記事があります。
員数が違うのはなぜですか。
供が四人そろえば五躯、二人であれば三躯になります。寺によって組み方が違います。
渡海文殊はどこで見られますか。
岩手の大長寿院に五躯一組、京都の智恩寺に三躯一組の重要文化財が伝わります。
渡海文殊と併せて覚えたい言葉・用語
脇侍(きょうじ)
中尊の左右に添えて置かれる像。
騎獅(きし)
獅子に乗ること。文殊菩薩の決まった形。
経蔵(きょうぞう)
経典を納めておく建物。