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天部

荼枳尼天(だきにてん)とはどんな仏か|見分け方・ご利益・会える寺

荼枳尼天  / ダキニテン

福徳 インド由来

白い狐に乗り、稲束を担ぐ天部。稲荷と重ねて祀られた。

荼枳尼天とはどんな仏か

荼枳尼天はひとことで言えば寺で祀られる稲荷です。

インドでは人の心臓を食らう鬼神とされていました。大日如来に諭され、人の死を六か月前に知り、その心臓を得ることを許される代わりに仏法を守ると誓ったと説かれます。改心の条件が生々しい、めずらしい経緯を持つ仏です。

日本では姿が大きく変わりました。白い狐にまたがり、稲束を担ぎ、宝珠や剣を持つ天女の姿になります。狐と稲を伴うことから神道の稲荷信仰と重なり、寺でありながら「稲荷」を名のる例が生まれました。

愛知県の豊川稲荷がその代表です。寺の公式サイトは、正式名を「妙嚴寺」といい、曹洞宗の寺であること、祀るのは鎮守の豊川吒枳尼真天であることを明記しています。「狐を祀った神社」ではないと、寺自身が繰り返し説明しています。

荼枳尼天の読み方と梵名

読みは「だきにてん」です。梵名のダーキニーを音で写したのが「荼枳尼」で、字そのものに意味はありません。

豊川稲荷では「吒枳尼真天」と書きます。寺ごとに表記が違うため、参拝する寺の書き方に合わせるのが礼儀とされます。

荼枳尼天(だきにてん)

もっとも広く使われる形。

吒枳尼真天(だきにしんてん)

豊川稲荷が用いる表記。

豊川吒枳尼真天(とよかわだきにしんてん)

豊川稲荷の鎮守としての正式な呼び方。

陀枳尼天(だきにてん)

別表記。

飯縄権現(いづなごんげん)

狐に乗る姿で表される別の尊格。混同されることがある。

ダーキニー(Dakini)

意味は「空を行く者」。読みは「だーきにー」。「荼枳尼」はこれを音で写したもの。

荼枳尼天の見分け方(印相・持ち物・姿)

荼枳尼天の見分けは、白い狐に乗っているかどうかで行います。ただし多くが秘仏で、像そのものを見る機会は限られます。

乗り物 ─ 白い狐

白い狐の背にまたがるのが、日本の荼枳尼天の定型です。

狐に乗る尊格はほかに飯縄権現がありますが、こちらは烏天狗の顔をした忿怒の姿で、天女の姿の荼枳尼天とは容易に分かれます。

インドの経典にこの姿は説かれていません。日本で稲荷信仰と結びつくなかで生まれた形です。

持ち物 ─ 稲束と宝珠と剣

肩に稲束を担ぎ、手に如意宝珠や剣を持ちます。

豊川稲荷の説明では、寒巌禅師の前に現れた霊神は「稲束を荷い、手に宝珠を捧げ、白狐に跨って」いたと記されます。稲束・宝珠・白狐の三点がそろえば荼枳尼天と考えて差し支えありません。

稲束が「稲荷」の名と結びついたことは想像に難くありません。

姿 ─ 天女の形

天女の衣をまとった女性の姿で表されます。忿怒の相はとりません。

インドでの鬼神としての姿は、日本ではほとんど造られませんでした。改心する前と後で、姿が完全に入れ替わった仏です。

見られるかどうか ─ 秘仏が多い

荼枳尼天の像は、厨子に納められた秘仏であることがほとんどです。

豊川稲荷でも、本殿に祀られる吒枳尼真天の像は公開されていません。

「会いに行けるが、姿は見られない」という仏があることは、覚えておく価値があります。参拝はできても、像を拝観できるとは限りません。

荼枳尼天のご利益

商売繁盛

稲荷信仰と結びついたことによる。

五穀豊穣

稲束を担ぐ姿による。

福徳・財運

手に持つ如意宝珠による。

家内安全

鎮守として祀られることによる。

荼枳尼天に会える寺

荼枳尼天を祀る寺は、「稲荷」の名を持ちながら寺であるという共通点を持ちます。豊川稲荷のほか、岡山の最上稲荷などが知られます。

文化庁の国指定文化財等データベースで「荼枳尼天」を彫刻の分野で検索しても、該当する国宝・重要文化財は見つかりませんでした。この仏の像に指定文化財が少ないのは、多くが秘仏として扱われてきたことと無関係ではないと考えられますが、理由を断定できる資料は確かめられませんでした。

この欄には、寺の公式サイトで祀っていることを確かめられた寺だけを挙げています。

豊川稲荷(圓福山 妙嚴寺)(とよかわいなり みょうごんじ)

曹洞宗の寺院

地図で開く

豊川稲荷(圓福山 妙嚴寺)の住所:愛知県豊川市豊川町1番地

像:豊川吒枳尼真天(鎮守・秘仏)

この像に結び付く願い:商売繁盛・福徳

正式名は妙嚴寺、山号は圓福山、曹洞宗の寺です。寺の公式サイトは「一般的に『稲荷』と呼ばれる場合は、狐を祀った神社を想像される方が多数であると思われますが、当寺でお祀りしておりますのは鎮守・豐川吒枳尼眞天です」と明記しています。

開山の寒巌義尹禅師が宋から帰る船上で、稲束を担ぎ白狐にまたがる霊神を見たことに始まると伝えられます。禅師は帰国後に自らその姿を刻みました。

六代目の弟子である東海義易禅師が嘉吉元年(1441年)にこの地へ寺を開いた際、本尊に千手観世音菩薩を安置し、寒巌禅師自作の吒枳尼真天像を山門の鎮守として祀ったと記されます。

本尊は千手観世音菩薩であり、吒枳尼真天は鎮守にあたる。

荼枳尼天をめぐる仏のつながり

荼枳尼天の位階と、似た仏との違い

荼枳尼天は天部に置かれます。仏教以前のインドの鬼神が、仏法を守る側に回ったものです。

天部のなかでは、改心の経緯がはっきり語られる数少ない尊格です。鬼子母神と同じ系統にあたります。

大日如来に諭されて仏法を守る側に回ったとされ、密教のなかに位置づけられます。

稲荷神(宇迦之御魂神) ─ 仏と神で別のもの

荼枳尼天は仏教の天部、稲荷神は日本神話の神です。別のものです。

狐と稲という共通点から中世に重ねられ、寺で祀る稲荷と神社で祀る稲荷が並び立つことになりました。

寺なら荼枳尼天、神社なら宇迦之御魂神と、場所で分けるのが実際的です。豊川稲荷は寺、伏見稲荷大社は神社です。

飯縄権現 ─ 同じ狐に乗る尊格

飯縄権現も白狐に乗ります。ただし烏天狗のような嘴のある顔で、翼を持ち、剣と羂索を握る忿怒の姿です。

荼枳尼天は天女の姿で、忿怒の相をとりません。顔を見れば容易に分かれます。

鬼子母神 ─ 同じく改心した鬼神

どちらも人を害する鬼神が改心して守護神になったという経緯を持ちます。

持ち物で分かれます。荼枳尼天は稲束と宝珠、鬼子母神はざくろと幼子です。乗り物も違い、荼枳尼天は白狐に乗ります。

荼枳尼天についてよくある質問

荼枳尼天はどんな仏ですか。

インドでは人の心臓を食らう鬼神とされましたが、大日如来に諭されて仏法を守る天部になったと説かれます。日本では白狐に乗り稲束を担ぐ姿で表されます。

豊川稲荷は神社ですか、寺ですか。

寺です。正式名を妙嚴寺といい、曹洞宗の寺院です。祀られているのは鎮守の豊川吒枳尼真天で、狐そのものではありません。

荼枳尼天と稲荷神は同じですか。

別のものです。荼枳尼天は仏教の天部、稲荷神は日本神話の宇迦之御魂神です。狐と稲という共通点から中世に重ねられました。

荼枳尼天の像は見られますか。

ほとんどが厨子に納められた秘仏で、公開されていません。豊川稲荷でも像は公開されていません。

荼枳尼天の国宝や重要文化財はありますか。

文化庁の国指定文化財等データベースを彫刻の分野で検索した範囲では、見つかりませんでした。

荼枳尼天と併せて覚えたい言葉・用語

鎮守(ちんじゅ)

寺や土地を守る神。本尊とは別に祀られる。

秘仏(ひぶつ)

厨子に納めて普段は公開しない像。

稲荷信仰(いなりしんこう)

稲と狐を伴う神への信仰。神社と寺の両方にある。

寒巌義尹(かんがんぎいん)

豊川稲荷の由来に関わる曹洞宗の禅僧。二度中国へ渡った。

如意宝珠(にょいほうじゅ)

思いのままに宝を出すとされる珠。