天に住むとされる女性の姿の総称。舞い、楽を奏でて仏の座を飾る。
天女とはどんな仏か
天女の読み方と梵名
読みは「てんにょ」です。
「天」は仏の世界の位のひとつで、「女」はその姿を示します。一体の名ではなく、姿の分類を表す語です。
飛ぶ姿を強調するときは「飛天」と呼びます。男女を問わず天に住む者を指すときは「天人」です。文化財の名称では「天人」の形が使われることがあります。
天女(てんにょ)
もっとも広く使われる形。
飛天(ひてん)
飛ぶ姿を強調するときの形。
天人(てんにん)
男女を問わず天に住む者を指す形。
奏楽天(そうがくてん)
楽器を奏でる姿を指す形。
アプサラス(Apsaras)
意味は「水に生まれるもの」。インドで天に住むとされた女性の姿。天女に重ねられることがある。読みは「あぷさらす」。
天女の見分け方(印相・持ち物・姿)
天衣が長くひるがえるのが決め手です。地に足を着けず、雲に乗ります。
装い ─ 天衣と瓔珞
天衣という長い布を肩から垂らし、風にひるがえらせます。瓔珞という玉飾りを胸や腕に着けます。
甲冑は着けず、武器も持ちません。菩薩の装いに近い形です。
布が大きく流れる形が、そのまま「飛んでいる」ことの表現になっています。
姿勢 ─ 雲に乗って舞う
地に足を着けません。 雲に乗るか、体を弓なりにそらせて宙に浮きます。
膝を折り、片足を後ろへ跳ね上げる形が多く見られます。
如来や菩薩が静かに座るのに対し、天女は常に動いています。堂のなかで動きを担当するのが天女です。
持ち物 ─ 楽器か花
琵琶・笛・鼓などの楽器を奏でる姿、花を散らす姿、香炉を捧げる姿があります。
仏の説法の場を音と香りで飾るという役目を、そのまま形にしたものです。
何も持たず、合掌するだけの姿もあります。
置かれる場所 ─ 本尊のまわり
光背の縁、天蓋の裏、厨子の扉、須弥壇の側面、堂の壁。いずれも本尊を飾る位置です。
天女だけを安置する堂はありません。本尊があって初めて置かれます。
そのため、拝観のときには見落とされやすい存在です。光背をよく見ると、小さな天女が舞っていることがあります。
天女のご利益
芸事の上達
楽器を奏でる姿によるとされる。
場を清める
花を散らし香を捧げることによる。
美しさ
装いと姿勢によるとされる。
天女に会える寺
天女だけを安置する堂は、日本では確かめられませんでした。
文化庁の国指定文化財等データベースでも、「天女」の名だけを持つ国指定の彫刻は見つかりません。本尊を飾る一部として作られるため、単独で指定される対象になりにくいのです。
近い名としては、重要文化財の銅造摩耶夫人及天人像三躯があります。ただしこれは摩耶夫人の像に天人が添えられた一組で、天女だけの像ではありません。所有者も独立行政法人国立文化財機構で、寺ではありません。博物館に預けられているため、会えるのは展示に出ているときだけです。
天女に会いたければ、寺の本尊のまわりを見るのが確実です。光背の縁、天蓋の裏、厨子の扉。堂の中心ではなく、その周囲に目を向けてください。
天女をめぐる仏のつながり
天女の位階と、似た仏との違い
天女は天部の位に置かれます。ただし一体の名ではなく、姿の呼び名です。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。天女は天部に属する姿を指します。
ここで注意が要ります。天女は本尊になりません。 名を持って独立した尊格になったものは、吉祥天・弁才天・伎芸天・鬼子母神のように、それぞれの名で呼ばれます。
「天女」という言い方が残るのは、名を与えられなかった姿だけです。
吉祥天 ─ 名を持った天女
どちらも唐風の装いをまとった女性の姿です。吉祥天は名を持ち、単独で本尊になります。
見分けは持ち物と位置です。吉祥天は如意宝珠を捧げ、正面を向いて立ちます。天女は雲に乗って舞い、本尊のまわりに置かれます。
堂の中心にいれば吉祥天、周囲を飾っていれば天女と考えてよいでしょう。
伎芸天 ─ 楽器と芸事が重なる
どちらも芸事に関わります。伎芸天は名を持つ一体の尊格で、日本には一躯しかありません。
見分けは位置です。伎芸天は堂に立って拝まれます。天女は本尊のまわりを飾ります。
伎芸天も天女の姿をとりますが、名を得たことで独立した尊格になりました。
天女についてよくある質問
天女は一体の尊格ですか。
違います。天に住むとされる女性の姿をまとめて指す呼び名です。特定の誰かを指す言葉ではありません。
天女と飛天は違いますか。
ほぼ同じものを指しますが、飛ぶ姿を強調するときに「飛天」と呼びます。文化財の名称では「天人」の形も使われます。
天女はどこで見られますか。
本尊の光背の縁、天蓋の裏、厨子の扉、須弥壇の側面などです。天女だけを安置する堂はありません。
天女の像で国指定のものはありますか。
「天女」の名だけを持つ国指定の彫刻は確かめられませんでした。重要文化財の銅造摩耶夫人及天人像がありますが、摩耶夫人に添えられた一組で、所有者は国立文化財機構です。
吉祥天や弁才天は天女ではないのですか。
姿としては天女ですが、名を得て独立した尊格になりました。「天女」という言い方が残るのは、名を与えられなかった姿だけです。
天女と併せて覚えたい言葉・用語
天衣(てんね)
天部や菩薩が肩から垂らす長い布。
瓔珞(ようらく)
玉をつないだ飾り。胸や腕に着ける。
天蓋(てんがい)
本尊の上に吊るす覆い。天女が彫られることがある。