もとはインドの川の女神。琵琶を抱く姿でよく知られる。
弁才天とはどんな仏か
弁才天はひとことで言えば水から生まれた芸能の神です。
もとはインドの川の女神でした。流れる水が音を立てることから、音楽と言葉をつかさどる神へ性格が移り、さらに学問と知恵にまで及びました。仏教に取りこまれて天部となり、日本へ伝わります。
日本での姿は二つに分かれます。琵琶を抱いて弾く二臂の像と、八本の腕に武具を持つ八臂の像です。よく知られているのは前者ですが、経典に説かれる古い形は後者にあたります。
水の神という出自から、祀られる場所も水辺に多く見られます。琵琶湖の竹生島、相模湾の江の島、瀬戸内海の宮島。島に祀られる仏という点で、ほかの天部とはっきり違います。
近世に「才」を「財」と書き替える例が増え、蓄財の神としても信仰されました。七福神の一員でもあります。
弁才天の読み方と梵名
読みは「べんざいてん」です。「弁才天」と「弁財天」は同じ仏で、表記の違いが信仰の変化をそのまま示しています。
梵名のサラスヴァティーは、インドの川の名です。神の名が地名から来ている点で、水との結びつきがはっきりしています。
弁才天(べんざいてん)
経典に沿った表記。「才」は弁舌と芸能の才を指す。
弁財天(べんざいてん)
近世以降に広まった表記。蓄財の信仰と結びついた。
妙音天(みょうおんてん)
音楽の神としての呼び方。
弁天(べんてん)
略した呼び方。「弁天堂」「弁天池」の語に残る。
宇賀弁才天(うがべんざいてん)
頭上に人頭蛇身の宇賀神を戴く、日本で生まれた形。
サラスヴァティー(Sarasvati)
意味は「水を持つもの、川の名」。読みは「さらすゔぁてぃー」。インドの川の名がそのまま女神の名になった。
弁才天の見分け方(印相・持ち物・姿)
弁才天の見分けは、琵琶を持っているか、腕が八本あるかの二択で考えると整理しやすくなります。
二臂像 ─ 琵琶を抱く
腕が二本で、琵琶を抱えて撥で弾く姿です。日本でもっとも広く知られた形にあたります。
天女の衣をまとい、宝冠をかぶり、静かな表情をします。武器はいっさい持ちません。
この形は近世以降に広まりました。江の島や宮島の弁天像はこの姿です。
八臂像 ─ 武器を持つ
腕が八本で、弓・矢・刀・矛・斧・長杵・鉄輪・羂索を持ちます。
経典に説かれる本来の形はこちらで、日本でも古い像は八臂です。琵琶は持ちません。
「弁才天は琵琶を持つ」と覚えていると、八臂像を見たときに判じられなくなります。腕が八本ある天女は弁才天と覚えておくと確実です。
頭上 ─ 宇賀神を戴く形
頭上に、人の頭と蛇の体を持つ宇賀神を戴く像があります。これを宇賀弁才天といいます。
日本で生まれた形で、インドの経典には出てきません。日本の蛇神信仰と弁才天が結びついたものです。
蛇はもともと水に住むものとされ、水の女神である弁才天と重ねられました。弁天堂の近くに白蛇を祀る例が多いのは、このためです。
祀られる場所 ─ 水辺と島
弁才天の像は、水辺に祀られることが際立って多い仏です。
琵琶湖の竹生島、相模湾の江の島、瀬戸内海の宮島。池の中の小島に弁天堂を建てる形も各地に見られます。
どこに置かれているかが、その仏の性格を語る例として、弁才天はもっともわかりやすい仏です。
弁才天のご利益
芸能上達
音楽と言葉をつかさどることによる。
学問成就
弁舌と知恵をつかさどることによる。
財運・蓄財
「弁財天」の表記とともに近世に広まった信仰。
水にまつわる守護
もとが川の女神であることによる。
弁才天に会える寺
弁才天は、寺だけでなく神社にも祀られます。 明治の神仏分離で、弁才天を祀っていた堂が神社に変わった例が多いためです。江の島の江島神社、広島の厳島神社がその代表にあたります。
文化庁の国指定文化財等データベースで確かめると、重要文化財の木造弁才天坐像の所有者には鶴岡八幡宮(神奈川県)や白雲神社(京都府)が並びます。いずれも神社なので、この「会える寺」の欄には入れていません。
寺の欄が一件だけなのは、確かめられた寺がそれだけだったからです。関係の薄い寺で欄を埋めることはしていません。
宝厳寺(竹生島)(ほうごんじ)
西国三十三所 第三十番札所
琵琶湖に浮かぶ竹生島にある寺です。寺の公式サイトは、聖武天皇が夢のお告げで「その島は弁才天の聖地であるから寺院を建立せよ」と告げられたのが始まりだと記します。
島へは長浜・彦根・今津の各港から船で渡ります。歩いて行けない仏であることが、水の神という性格をそのまま示しています。
境内の唐門は国宝、観音堂と舟廊下は重要文化財です。
寺は「辯天様の幸せ願いダルマ」を授与している。
弁才天をめぐる仏のつながり
弁才天の位階と、似た仏との違い
弁才天は天部に置かれます。仏教以前のインドの神が、仏法を守る側に回ったものです。
吉祥天 ─ 琵琶か、宝珠か
どちらも天女の姿で、宝冠をかぶります。混同されやすい二体です。
手を見ます。琵琶を抱いていれば弁才天、掌に如意宝珠を載せていれば吉祥天です。
八臂の弁才天は武器を持つので、こちらは吉祥天と間違えようがありません。
技芸天 ─ 腕の数と持ち物
技芸天も芸能をつかさどる女性の天部です。
弁才天は琵琶か武器を持ちますが、技芸天は持ちません。天衣をひるがえして立つ姿で、秋篠寺の像が知られます。
宇賀弁才天 ─ 同じ仏の、日本で生まれた形
頭上に人頭蛇身の宇賀神を戴く形です。別の仏ではありません。
インドの経典には出てこず、日本の蛇神信仰と結びついて生まれました。頭の上に蛇がとぐろを巻いていれば宇賀弁才天です。
弁才天についてよくある質問
弁才天と弁財天はどう違うのですか。
同じ仏です。「弁才天」が経典に沿った表記で、「弁財天」は蓄財の信仰と結びついて近世に広まった表記です。
弁才天はなぜ水辺に祀られるのですか。
もとがインドの川の女神だからです。梵名のサラスヴァティーは、インドの川の名がそのまま女神の名になったものです。
弁才天の腕は何本ですか。
二本と八本の二通りがあります。琵琶を抱く二臂像が広く知られますが、経典に説かれる古い形は武器を持つ八臂像です。
弁才天は寺と神社のどちらに祀られていますか。
両方にあります。明治の神仏分離で、弁才天を祀っていた堂が神社に変わった例が多く、江の島の江島神社や広島の厳島神社がその例です。
宇賀弁才天とは何ですか。
頭上に人の頭と蛇の体を持つ宇賀神を戴く形です。インドの経典には出てこず、日本の蛇神信仰と結びついて生まれました。
弁才天と併せて覚えたい言葉・用語
宇賀神(うがじん)
人の頭と蛇の体を持つ日本の神。弁才天の頭上に戴かれる。
八臂(はっぴ)
腕が八本あること。経典に説かれる弁才天の本来の形。
天女(てんにょ)
天に住む女性の姿の存在。弁才天や吉祥天がこの姿をとる。
神仏分離(しんぶつぶんり)
明治初年に神社と寺を分けた政策。弁天堂が神社になる例が相次いだ。
七福神(しちふくじん)
福をもたらす七体の神。弁才天はそのなかで唯一の女性。