密教でいちばん上に置かれる、宇宙そのものを表す仏。
大日如来とはどんな仏か
大日如来は、密教で宇宙の真理そのものを仏の姿に表した如来です。梵名はマハーヴァイローチャナ。「大いなる、あまねく照らすもの」という意味から、日本では「大日」と訳されました。
釈迦如来のような歴史上の生涯を持つ仏ではありません。『大日経』や『金剛頂経』では、悟りの智慧と慈悲が世界のあらゆるところに働くことを、大日如来を中心とする仏の世界として説きます。「宇宙そのもの」という説明は、この教えを短く言い表したものです。
像には金剛界と胎蔵界の二つの代表的な姿があります。宝冠と装身具を着け、金剛界像は智拳印、胎蔵界像は法界定印を結ぶのが基本です。ただし、破損・後世の補修・地域ごとの造像による例外があるため、冠や手の形だけで断定はできません。
日本では平安時代初め、空海らによって密教が本格的に伝えられました。東寺講堂では、中心の大日如来と諸仏を立体的に配置し、経典と曼荼羅が説く世界を堂内に表しています。
大日如来の読み方と梵名
読みは「だいにちにょらい」です。「大日」は、梵名マハーヴァイローチャナの意味を漢訳した呼び名で、「摩訶毘盧遮那」は音を写した表記です。
「毘盧遮那仏」と語源上のつながりはありますが、経典・教理・日本での造像をすべて同一視することはできません。仏像を見分けるときは、呼称だけでなく、宝冠・装身具・印相・安置された群像を合わせて確認します。
大日如来(だいにちにょらい)
もっとも広く使われる形。
摩訶毘盧遮那(まかびるしゃな)
梵名を音で写した形。「大いなる、あまねく照らすもの」を意味する。
大毘盧遮那仏(だいびるしゃなぶつ)
経典の題に用いられる形。大日経の正式名にこの語が入る。
金剛界大日如来(こんごうかいだいにちにょらい)
智拳印を結ぶ姿。金剛界曼荼羅の中尊。
胎蔵界大日如来(たいぞうかいだいにちにょらい)
法界定印を結ぶ姿。胎蔵界曼荼羅の中尊。
マハーヴァイローチャナ(Mahavairocana)
意味は「大いなる、あまねく照らすもの」。読みは「まはーゔぁいろーちゃな」。「毘盧遮那」はこの後半を音で写したもの。
大日如来の物語
毘盧遮那から大日へ ─ 光で表された仏の智慧
「ヴァイローチャナ」は光があまねく照らすことに結び付く名です。華厳経では毘盧遮那仏が広大な仏の世界の中心として説かれ、密教経典ではマハーヴァイローチャナ、すなわち大日如来が教えを説く中心となります。
これは一人の人物が別人に変わったという物語ではありません。仏の智慧が世界全体に行き渡るという考えが、経典と時代によって異なる名と造形で表された流れです。
胎蔵界と金剛界 ─ 二幅の曼荼羅が一つの世界を示す
日本の密教では、胎蔵界曼荼羅と金剛界曼荼羅を対にして用います。胎蔵界は仏の慈悲が衆生を包み育てる働き、金剛界は壊れない智慧の働きを表すものとして説明されます。
大日如来は両方の中心に置かれますが、像の手の形は同じではありません。胎蔵界像の法界定印と、金剛界像の智拳印を見比べると、曼荼羅の違いを立体の仏像から読み取れます。
大日如来の見分け方(印相・持ち物・姿)
大日如来は、如来でありながら宝冠や装身具を着けることが多い点に特徴があります。冠と印相は有力な手がかりですが、一点だけで断定せず、寺院の記録や像の来歴も確認します。
装身具 ─ 冠をかぶった如来は大日如来
如来は装身具を着けないのが決まりです。粗末な衣を一枚まとうだけで、冠も首飾りも着けません。
ところが大日如来だけは、宝冠をかぶり、瓔珞を胸に垂らし、腕釧と臂釧を腕に着け、条帛を斜めにかけます。菩薩と同じ、王族の身なりです。
これは大日如来の荘厳な智慧を表す姿と説明されます。宝冠に加えて智拳印または法界定印を確認すると、見分けの精度が上がります。
印相 ─ 二つの手の形で、二つの世界を表す
大日如来の手の形は二種類あり、どちらを結ぶかで表す世界が変わります。
智拳印は、左手の人差し指を立て、それを右手で握りこむ形です。仏の智慧が人を包むことを表し、金剛界の大日如来がこれを結びます。
法界定印は、両手を腹の前で重ね、親指の先を合わせて輪をつくる形です。胎蔵界の大日如来がこれを結びます。
法界定印は指の輪をつくるので阿弥陀定印と紛らわしいのですが、大日如来は冠をかぶっているので、そこで区別がつきます。
持ち物 ─ 何も持たない
大日如来は持ち物を持ちません。両手は印を結ぶことに使われます。
持ち物が無い代わりに、印そのものが持ち物の役目を果たしていると考えるとわかりやすくなります。智拳印は五智を、法界定印は禅定を表します。
大日如来のご利益
所願成就
あらゆる仏の根源とされることから、願いごと全般を受けると説かれる。
厄除け・災難除け
光があまねく照らして闇を除くという性格による。
智慧を開く
智拳印が仏の智慧を表すことから、学業や判断力にご利益があるとされる。
未年・申年の守り本尊
干支ごとに守り本尊を割り当てる習わしのなかで、未年と申年に当てられている。
大日如来が守り本尊(ついてる人)の人
十二支ごとに守り本尊を割り当てる一般的な対応では、大日如来は未年・申年生まれの守り本尊とされています。「大日如来がついてる人」という検索は、多くの場合、この未・申の対応を調べる意図です。
ただし、これは経典に生年別の守護仏が定められているという意味ではありません。十二支守り本尊としての信仰と、『大日経』『金剛頂経』に説かれる大日如来の教理は分けて理解します。
対象となる生まれ年 ─ 未年・申年
一般的な十二支守り本尊の対応表では、未年と申年の二支に大日如来が割り当てられます。自分の干支から守り本尊を探す場合は、この対応を使います。
「ついてる」とはどういう意味?
特定の仏が人に客観的に付着しているという意味ではなく、生まれ年に応じて礼拝する仏を示す信仰上の言い方です。参拝や授与品の案内は寺院ごとに異なるため、各寺の公式情報も確認してください。
大日如来に会える寺
大日如来を本尊とする寺は、真言宗と天台宗の寺に多く見られます。ただし本堂ではなく多宝塔や大師堂に置かれることも多く、拝観の順路から外れている場合があります。
ここに挙げたのは、その寺が所有していることを文化庁の国指定文化財等データベース、または寺の公式サイトで確かめられた像だけです。
円成寺(えんじょうじ)
国宝
運慶が二十代のときに造ったことが、像の中に納められていた銘からわかっている坐像です。安元二年(1176年)に完成しました。
運慶の作と確かめられている像のなかでもっとも古く、若い日の運慶がどこから出発したのかを見られる像として知られます。智拳印を結びます。
均整のとれた身体つきと、張りのある頬に、のちの運慶らしさの芽が見えます。
多宝塔に安置されている。
大日如来をめぐる仏のつながり
大日如来の位階と、似た仏との違い
大日如来は如来に分類され、真言密教では教えの中心となる仏です。単純な順位表ではなく、どの経典と教えの体系で語られているかを見る必要があります。
仏教全体に共通する一列の序列があるわけではありません。釈迦如来は歴史上この世界で教えを説いた仏、大日如来は密教で法そのものを表す中心仏として理解されます。
「釈迦より上か下か」ではなく、役割と教理が異なると捉えるほうが正確です。真言宗寺院で大日如来が本尊や曼荼羅の中心に置かれるのは、この密教上の位置付けによります。
毘盧遮那仏 ─ 同じ梵名から分かれた二つの仏
梵名はどちらもマハーヴァイローチャナに由来し、もとは同じ仏です。
しかし日本では造り分けられました。冠と装身具を着けるのが大日如来、着けないのが毘盧遮那仏です。奈良の大仏は毘盧遮那仏で、頭に冠はありません。
両者を同じ仏とする説明も、別の仏とする説明も成り立ちます。像を見るうえでは、装身具の有無で分けるのが実際的です。
阿弥陀如来 ─ 同じ指の輪でも、冠の有無が分ける
胎蔵界の大日如来が結ぶ法界定印は、両手を重ねて親指で輪をつくります。阿弥陀定印とよく似ています。
分けるのは冠です。 冠をかぶっていれば大日如来、何も着けていなければ阿弥陀如来です。
菩薩 ─ 身なりが同じでも、位階は上
大日如来の身なりは菩薩とほとんど同じです。冠をかぶり、飾りを着けています。
しかし位階は如来で、菩薩より上です。手の形で分けます。 智拳印を結んでいれば大日如来です。菩薩は蓮華や水瓶や宝珠を持ち、印だけを結ぶことは多くありません。
大日如来についてよくある質問
大日如来はどんな仏ですか。
密教で宇宙の真理と、あまねく働く仏の智慧を表す中心的な如来です。『大日経』『金剛頂経』と、両界曼荼羅の理解が基本になります。
大日如来はなぜ冠をかぶっているのですか。
密教の中心仏にふさわしい荘厳な姿として、宝冠と装身具を着けます。冠だけで断定せず、智拳印・法界定印や寺院の記録も確認します。
金剛界と胎蔵界は何が違うのですか。
密教が世界を見る二つの見方で、それぞれ曼荼羅が別にあります。像では手の形が違い、智拳印なら金剛界、法界定印なら胎蔵界の大日如来です。
大日如来と毘盧遮那仏は同じ仏ですか。
名称には語源上のつながりがありますが、依拠する経典や教理、像の姿は同一ではありません。日本の造像では、大日如来は宝冠と装身具を着ける姿が代表的です。
大日如来の像はどこで見られますか。
奈良の円成寺に運慶作の国宝坐像、京都の東寺講堂に立体曼荼羅の中心となる重要文化財の坐像があります。
大日如来が守り本尊なのは何年生まれですか。
一般的な十二支守り本尊では、未年・申年生まれに対応します。ただし経典が生年別の守護を定めたものではなく、十二支守り本尊として広まった信仰です。
大日如来と併せて覚えたい言葉・用語
智拳印(ちけんいん)
左手の人差し指を立て、右手で握りこむ手の形。金剛界の大日如来が結ぶ。
法界定印(ほっかいじょういん)
両手を重ねて親指の先を合わせる手の形。胎蔵界の大日如来が結ぶ。
曼荼羅(まんだら)
仏の世界を図に表したもの。密教では金剛界と胎蔵界の二つを対にする。
立体曼荼羅(りったいまんだら)
曼荼羅を平面ではなく仏像を並べて立体で表したもの。東寺講堂が最初の例。
瓔珞(ようらく)
玉を連ねた首飾り。菩薩と大日如来が着ける。
五智如来(ごちにょらい)
大日如来を中心に、阿閦・宝生・阿弥陀・不空成就の四如来を四方に配した五体一組。
大日如来の参考資料
この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。