薬王菩薩の弟。兄とともに良薬を施したと説かれる。
薬上菩薩とはどんな仏か
薬上菩薩をひとことで言えば薬王菩薩の弟です。二体で一組をなします。
由来は兄弟の話です。星宿光と電光明という二人が、多くの人に良薬を施しました。その功徳によって、兄の星宿光が薬王菩薩、弟の電光明が薬上菩薩になったと説かれます。
「薬王」が薬の王、「薬上」が薬のうえに立つ者という意味で、どちらも同じ働きを持ちながら、名の格で兄弟の順が示されています。
この菩薩の特徴は、単独では見分けがつかないことです。姿も持ち物も兄とほとんど同じに造られ、区別する目印がありません。日光菩薩と月光菩薩が日輪と月輪で分かれるのに対し、薬王・薬上にはそれがないのです。
そのため文化財の名称も「木造薬王薬上菩薩立像 二躯」のように、二体まとめて登録されます。組でなければ成り立たない菩薩だといえます。
薬上菩薩の読み方と梵名
読みは「やくじょうぼさつ」です。「やくじょう」を「やくしょう」と読む例もあります。
「薬上」の「上」は、うえに立つという意味です。兄の「薬王」に対して、格をひとつ下げた名になっています。
兄弟を名の格で示すというのは、仏の名づけとしてはめずらしい形です。
薬上菩薩(やくじょうぼさつ)
もっとも広く使われる形。
薬上菩薩摩訶薩(やくじょうぼさつまかさつ)
経典に見える正式な形。
電光明(でんこうみょう)
前世での名。
薬王薬上(やくおうやくじょう)
二体をまとめて呼ぶ形。文化財の名称に使われる。
バイシャジヤサムドガタ(Bhaisajyasamudgata)
意味は「薬から生じたもの」。「バイシャジヤ」が薬を指す。読みは「ばいしゃじやさむどがた」。
薬上菩薩の見分け方(印相・持ち物・姿)
薬上菩薩には、これといった目印がありません。兄の薬王菩薩と並んで初めて名が定まります。
持ち物 ─ 決まった形がない
薬上菩薩の持ち物には、はっきりした決まりがありません。
蓮華を持つ形、印を結ぶだけの形など、作例によってさまざまです。兄の薬王菩薩とも共通しており、持ち物で分けることはできません。
これは、この菩薩が組の一方としてのみ意味を持つことによります。
見分け方 ─ 立ち位置で決まる
薬王菩薩と薬上菩薩は、姿がほとんど同じに造られます。
堂の中でどちら側に立っているかで名が決まるというのが実情です。中尊から見て左が薬王、右が薬上とするのが基本ですが、絶対の決まりではありません。
像が一体だけ残った場合、それが薬王なのか薬上なのかは、もはや確かめようがありません。
立ち位置 ─ 釈迦如来の脇に立つ
姿 ─ 菩薩の決まりに従う
宝冠をかぶり、瓔珞・腕釧・臂釧を着け、条帛を斜めにかけます。菩薩の一般的な決まりに従います。
立像が多く、蓮華座を踏んで立ちます。顔つきは穏やかです。
装身具に特別な飾りはなく、ここでも見分けの手がかりは得られません。
薬上菩薩のご利益
病気平癒
良薬を施したという由来による。
心の病を除く
体だけでなく心の苦しみも癒すとされる。
兄弟の和合
兄弟としての由来にちなむ。
長寿
薬にちなむご利益として祈られる。
薬上菩薩に会える寺
薬上菩薩は、薬王菩薩と二体そろって伝わるのがふつうです。単独で祀られる例はほとんどありません。
文化庁の国指定文化財等データベースで確かめられた彫刻は、奈良の興福寺の二躯だけでした。所有者は興福寺です。
「薬上菩薩」だけを名に掲げた国指定の像は見あたりません。 検索して出てくるのは、いずれも「薬王薬上菩薩」という二体まとめた名称のものです。
興福寺(こうふくじ)
重要文化財
薬王菩薩と薬上菩薩が二躯そろって伝わります。
文化庁の国指定文化財等データベースでは、二躯ひとまとまりで重要文化財に登録され、所有者は興福寺と記されています。
薬上菩薩を単独で登録した国指定の彫刻は確かめられず、この二躯一組がほぼ唯一の会える場所です。
所有者は文化庁の国指定文化財等データベースで確認した。
薬上菩薩をめぐる仏のつながり
薬上菩薩の位階と、似た仏との違い
薬上菩薩は菩薩の位に置かれます。薬王菩薩と二体で一組をなします。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。薬上菩薩は菩薩です。
菩薩のなかでは、二体一組を本領とする菩薩にあたります。観音・勢至、日光・月光と同じ性格です。
ただし観音・勢至や日光・月光には見分けの目印があるのに対し、薬王・薬上には目印がありません。この点でさらに一歩踏みこんだ「組でしか成り立たない」菩薩です。
薬王菩薩 ─ 対になる兄
兄弟とされます。兄が薬王菩薩、弟が薬上菩薩です。
姿はほとんど同じに造られ、持ち物にも決まった違いがありません。立つ位置以外で分ける手がかりがありません。
文化財の名称も「薬王薬上菩薩立像」と二体まとめて登録されます。
月光菩薩 ─ 二体一組どうし
どちらも二体一組で如来の脇に立ちます。仕える相手が違います。
薬上菩薩は釈迦如来、月光菩薩は薬師如来の脇にひかえます。
見分けは持ち物です。月光菩薩は月輪を掲げます。薬上菩薩には決まった持ち物がありません。
普賢菩薩 ─ 釈迦如来の脇侍を分け合う
どちらも釈迦如来の脇侍を務めます。組み合わせが違います。
普賢菩薩は文殊菩薩と組み、薬上菩薩は薬王菩薩と組みます。日本では文殊・普賢の組み合わせが優勢です。
見分けは乗り物です。普賢菩薩は白象に乗ります。 薬上菩薩は蓮華座に立ちます。
薬上菩薩についてよくある質問
薬上菩薩とはどんな仏ですか。
薬王菩薩の弟にあたる菩薩です。兄とともに多くの人に良薬を施した功徳によって菩薩になったと説かれます。
薬上菩薩の読み方は。
「やくじょうぼさつ」です。「やくしょうぼさつ」と読む例もあります。
薬王菩薩と薬上菩薩はどう見分けますか。
姿にも持ち物にも決まった違いがなく、立つ位置以外で分ける手がかりがありません。像が一体だけ残った場合、どちらか確かめようがありません。
薬上菩薩は誰の脇侍ですか。
釈迦如来です。薬王菩薩と二体で左右に立ちます。ただし日本では文殊菩薩と普賢菩薩の組み合わせのほうが広まりました。
薬上菩薩の像はどこで見られますか。
奈良の興福寺に、薬王菩薩とそろった重要文化財の立像があります。確かめられたかぎり、国指定の彫刻はこの一件です。
薬上菩薩と併せて覚えたい言葉・用語
電光明(でんこうみょう)
薬上菩薩の前世での名。兄は星宿光。
脇侍(きょうじ)
中尊の左右にひかえる仏。
三尊像(さんぞんぞう)
中尊と両脇侍の三体で組む像。
瓔珞(ようらく)
珠を連ねた首飾り。菩薩や天部が着ける。