薬を施し、自らの身を燃やして供養したと説かれる菩薩。
薬王菩薩とはどんな仏か
薬王菩薩をひとことで言えば薬を施した菩薩です。薬上菩薩と二体で一組をなします。
由来は兄弟の話です。星宿光と電光明という二人の兄弟が、多くの人に良薬を施しました。その功徳によって兄が薬王菩薩、弟が薬上菩薩になったと説かれます。病を治す働きが、人としての行いから始まっている点が、ほかの仏と違います。
法華経には、この菩薩の激しい前世が語られます。仏を供養するため、体に香油を塗って火をつけ、千二百年のあいだ燃え続けたというのです。焼身供養と呼ばれます。
火が消えたあと生まれ変わり、今度は両腕を焼いて供養した。その献身の重さを、法華経は「もっともすぐれた布施」と称えます。
釈迦如来の脇侍として左右に立つ形があります。文殊菩薩と普賢菩薩の組み合わせほど広まりませんでしたが、奈良の興福寺には二躯そろった重要文化財の立像が伝わります。
薬王菩薩の読み方と梵名
読みは「やくおうぼさつ」です。
名は梵名バイシャジヤラージャを意味で訳したものです。「バイシャジヤ」が薬、「ラージャ」が王を指します。
同じ「バイシャジヤ」の語は、薬師如来の梵名バイシャジヤグルにも入っています。どちらも薬に関わる仏ですが、位階は如来と菩薩で分かれます。
薬王菩薩(やくおうぼさつ)
もっとも広く使われる形。
薬王菩薩摩訶薩(やくおうぼさつまかさつ)
経典に見える正式な形。
星宿光(しょうしゅくこう)
前世での名。
一切衆生喜見菩薩(いっさいしゅじょうきけんぼさつ)
法華経で焼身供養を行ったときの名。
バイシャジヤラージャ(Bhaisajyaraja)
意味は「薬の王」。「バイシャジヤ」が薬、「ラージャ」が王を指す。読みは「ばいしゃじやらーじゃ」。
薬王菩薩の見分け方(印相・持ち物・姿)
薬王菩薩には、これといった目立つ持ち物がありません。薬上菩薩と並んで初めて見分けがつく仏です。
持ち物 ─ 決まった形がない
薬王菩薩の持ち物には、はっきりした決まりがありません。
蓮華を持つ形、薬壺を持つ形、印を結ぶだけの形など、作例によってさまざまです。持ち物だけで薬王菩薩と判じることはできません。
これは、この菩薩が単独ではなくつねに二体一組で表されることによります。組の一方として意味を持つ仏なのです。
見分け方 ─ 二体そろって初めて分かる
立ち位置 ─ 釈迦如来の脇に立つ
釈迦如来の脇侍として左右に立つ形があります。
釈迦如来の脇侍といえば文殊菩薩と普賢菩薩が知られますが、薬王・薬上の組み合わせも古くから行われました。
日本では文殊・普賢の組み合わせが優勢で、薬王・薬上の三尊像は数が限られます。
姿 ─ 菩薩の決まりに従う
宝冠をかぶり、瓔珞・腕釧・臂釧を着け、条帛を斜めにかけます。菩薩の一般的な決まりに従います。
立像が多く、蓮華座を踏んで立ちます。体を軽くひねる三曲法の姿勢をとることもあります。
顔つきは穏やかで、焼身供養の激しさを思わせるところはありません。
薬王菩薩のご利益
病気平癒
良薬を施したという由来による。
心の病を除く
体だけでなく心の苦しみも癒すとされる。
法華経の功徳
法華経に焼身供養の場面が説かれることによる。
長寿
薬にちなむご利益として祈られる。
薬王菩薩に会える寺
薬王菩薩は、薬上菩薩と二体そろって伝わるのがふつうです。単独で祀られる例はほとんどありません。
文化庁の国指定文化財等データベースで確かめられた彫刻は、奈良の興福寺の二躯だけでした。所有者は興福寺です。
同じ病を受け持つ仏として薬師如来がありますが、そちらは全国に数えきれないほどの像があります。 薬王・薬上の像がこれほど少ないのは、薬師如来に信仰が集まったためだと考えられます。
薬王菩薩をめぐる仏のつながり
薬王菩薩の位階と、似た仏との違い
薬王菩薩は菩薩の位に置かれます。薬上菩薩と二体で一組をなします。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。薬王菩薩は菩薩です。
菩薩のなかでは、二体一組を本領とする菩薩にあたります。日光菩薩と月光菩薩、観音菩薩と勢至菩薩と同じ性格です。
釈迦如来の脇侍を務める組み合わせのひとつに数えられます。
薬上菩薩 ─ 対になる弟
兄弟とされます。兄が薬王菩薩、弟が薬上菩薩です。
姿はほとんど同じに造られ、持ち物にも決まった違いがありません。立つ位置以外で分ける手がかりがない、珍しい組み合わせです。
文化財の名称も「薬王薬上菩薩立像」と二体まとめて登録されます。
薬師如来 ─ 同じ病を受け持つ
どちらも病を除く働きを持ちます。梵名にも同じ「薬」の語が入ります。
位階が違います。 薬師如来は如来、薬王菩薩は菩薩です。
見分けは装身具です。薬師如来は冠も瓔珞も着けず、左手に薬壺を持ちます。薬王菩薩は宝冠と瓔珞を着けます。
文殊菩薩 ─ 釈迦如来の脇侍を分け合う
どちらも釈迦如来の脇侍を務めます。組み合わせが違います。
文殊菩薩は普賢菩薩と組み、薬王菩薩は薬上菩薩と組みます。日本では文殊・普賢の組み合わせが優勢です。
見分けは乗り物です。文殊菩薩は獅子に乗ります。薬王菩薩は蓮華座に立ちます。
薬王菩薩についてよくある質問
薬王菩薩とはどんな仏ですか。
多くの人に良薬を施した功徳によって菩薩になったとされる仏です。弟の薬上菩薩と二体で一組をなします。
薬王菩薩と薬上菩薩はどう見分けますか。
姿にも持ち物にも決まった違いがなく、立つ位置以外で分ける手がかりがありません。文化財の名称も二体まとめて登録されます。
焼身供養とは何ですか。
法華経に説かれる場面です。薬王菩薩は前世で体に香油を塗って火をつけ、千二百年のあいだ燃え続けて仏を供養したと語られます。
薬王菩薩と薬師如来は同じですか。
別の仏です。梵名に同じ「薬」の語が入りますが、薬師如来は如来、薬王菩薩は菩薩で位階が違います。
薬王菩薩の像はどこで見られますか。
奈良の興福寺に、薬上菩薩とそろった重要文化財の立像があります。確かめられたかぎり、国指定の彫刻はこの一件です。
薬王菩薩と併せて覚えたい言葉・用語
焼身供養(しょうしんくよう)
自らの身を燃やして仏に捧げること。法華経に説かれる。
薬上菩薩(やくじょうぼさつ)
薬王菩薩の弟とされる菩薩。二体で一組をなす。
脇侍(きょうじ)
中尊の左右にひかえる仏。
条帛(じょうはく)
菩薩が上半身に斜めにかける細長い布。