実在した人物を仏の姿にうつした、仏像のはじまりにあたる仏。
釈迦如来とはどんな仏か
釈迦如来は、仏教の開祖である歴史上の釈迦を、悟りを完成した仏として表した尊像です。「釈迦」は釈迦族、「牟尼」は聖者を意味し、釈迦牟尼は「釈迦族の聖者」という呼び名です。
釈迦の生没年には複数説があります。国立国会図書館のレファレンス資料は、紀元前5世紀前後を中心とする説を紹介しており、一つの西暦年へ固定できません。生涯も、史実として確かめられる範囲と、経典・仏伝が伝える誕生や成道の物語を分けて読む必要があります。
釈迦を人の姿で表す仏像は、インド周辺で仏教美術が展開する中で成立しました。日本では飛鳥時代以降に重要な作例が残り、法隆寺金堂の釈迦三尊像は光背銘から623年の造立と分かります。
通常の釈迦如来像だけでなく、誕生直後を表す誕生仏、苦行を終えて山を出る姿、初めて説法する場面、入滅時の涅槃像・涅槃図があります。釈迦如来は一つの決まった立像だけでなく、生涯のどの場面を表したかによって姿が変わる仏です。
釈迦如来の読み方と梵名
読みは「しゃかにょらい」です。「釈迦」は梵名シャーキヤ(釈迦族)を音で写したもので、字そのものに意味はありません。
「牟尼」は聖者を意味するムニの音写です。あわせて「釈迦族の聖者」となります。出家する前の名はゴータマ・シッダールタと伝えられます。
釈迦如来(しゃかにょらい)
もっとも広く使われる形。
釈迦牟尼仏(しゃかむにぶつ)
「釈迦族の聖者」を意味する。正式に近い呼び方。
釈尊(しゃくそん)
「釈迦世尊」の略。人物として語るときに用いる。
能仁(のうにん)
「釈迦」を意味で訳した古い漢訳。
誕生仏(たんじょうぶつ)
生まれた直後に天地を指す姿を表した小像。灌仏会に用いる。
涅槃仏(ねはんぶつ)
亡くなるときの、横たわった姿の像。
シャーキヤムニ(Sakyamuni)
意味は「釈迦族の聖者」。読みは「しゃーきやむに」。「釈迦牟尼」はこれを音で写したもの。
ゴータマ・シッダールタ(Gautama Siddhartha)
意味は「出家する前の姓と名」。読みは「ごーたま・しっだーるた」。
釈迦如来の物語
誕生 ─ 史実と仏伝を分けて読む
釈迦は、現在のインドとネパールの国境に近い地域で、釈迦族の家に生まれた歴史上の人物です。一方、誕生直後に七歩歩き、右手で天、左手で地を指したという場面は、後世の仏伝が伝える宗教的物語です。
日本の花祭りで甘茶をかける誕生仏は、この場面を小さな立像にしたものです。像を見るときは、人物の生涯を写実的に再現したものではなく、釈迦の特別な誕生を示す図像として理解します。
出家と成道 ─ 苦行ではなく中道へ
仏伝では、王族の暮らしを離れた釈迦は老い・病・死の苦しみを考え、出家して修行へ入ります。厳しい苦行を続けた後、それだけでは悟りに至れないと判断し、極端な快楽と苦行の双方を離れる中道を選びます。
菩提樹の下で瞑想し、誘惑を退けて悟りを開いた場面が成道です。右手を下げて地に触れる触地印は、大地を悟りの証人とした場面に結び付けて説明されます。釈迦如来像の手の形は、教義だけでなく生涯の一場面を示す場合があります。
初転法輪 ─ 悟りを言葉にして伝える
涅槃 ─ 横たわる像が表す最期
釈迦は伝道の旅の途中で入滅したと伝えられます。右脇を下にして横たわる姿を中心に、弟子・菩薩・動物が嘆く場面を描くのが仏涅槃図です。
涅槃は単なる死亡の別名ではなく、煩悩の火が消えた境地を指します。日本では釈迦の入滅日とされる2月15日に涅槃会を行い、涅槃図を掛ける寺があります。通常の坐像・立像と涅槃像は姿が大きく違いますが、いずれも釈迦の別の段階を表しています。
釈迦如来の見分け方(印相・持ち物・姿)
釈迦如来像は、装身具を着けず、衲衣をまとい、手に持物を持たない姿が基本です。ただし印相・脇侍・生涯場面によって複数の形式があるため、一つの特徴だけで断定しません。
印相 ─ 施無畏印と与願印
右手を胸の高さに上げて掌を正面に向ける施無畏印、左手を下げて掌を正面に向ける与願印。この組み合わせがもっとも多い形です。
「恐れなくてよい」「願いをかなえよう」という二つの意味が、左右の手に分かれています。
このほか、右手の指先を地に触れる触地印があります。悟りの直前、誘惑を退けたときに大地を証人として呼んだ場面を表します。座禅を組む姿では、両手を膝の上で重ねる禅定印を結びます。指で輪をつくらないことが、阿弥陀如来との分かれ目です。
持ち物と装身具 ─ どちらも無い
釈迦如来は持ち物を持たず、装身具も着けません。衣一枚だけです。
衣は捨てられた布を継ぎ合わせた糞掃衣を模したもので、これを右肩を出して着る偏袒右肩、両肩を覆う通肩の二通りに着けます。
王子の身分を捨てた人であることが、身なりにそのまま表れています。
姿 ─ 三十二の相
仏の体には三十二の特徴があるとされ、像にもそれが表れます。
頭頂の盛り上がりが肉髻、粒状の巻き毛が螺髪、眉間の毛の渦が白毫、手足の指のあいだの水かきが縵網相、足裏の輪の文様が千輻輪相です。
これらは如来に共通するので釈迦如来だけの目印にはなりませんが、如来か菩薩かを分けるには確実に効きます。
脇侍 ─ 文殊菩薩と普賢菩薩
釈迦如来の左右には、文殊菩薩と普賢菩薩が立ちます。あわせて釈迦三尊と呼びます。
向かって左に獅子に乗る文殊、右に象に乗る普賢が置かれます。獅子と象が見えたら、中央は釈迦如来です。
ただし法隆寺金堂の釈迦三尊像のように、脇侍の名が伝わらない古い作例もあります。禅宗の寺では、脇に迦葉と阿難という二人の弟子を置く形が多く見られます。
釈迦如来のご利益
所願成就
仏教を開いた仏であることから、願いごと全般を受けるとされる。
悟りへの導き
教えそのものを説いた仏であることによる。
厄除け
悟りの前に魔の誘惑を退けた故事による。
学業成就
脇侍の文殊菩薩とあわせて信仰されることが多い。
釈迦如来に会える寺
釈迦如来は、禅宗(臨済宗・曹洞宗・黄檗宗)の寺で本尊とされることが多い仏です。「釈迦堂」の名を持つ堂は、いずれもこの仏を祀ります。
ここに挙げたのは、その寺が所有していることを文化庁の国指定文化財等データベースで確かめられた像だけです。
法隆寺 金堂(ほうりゅうじ こんどう)
国宝/世界遺産
光背銘によって623年の造立と作者の名を確認できる釈迦三尊像です。作者は止利(鞍作止利)と記されます。
聖徳太子が亡くなった翌年にあたる推古三十一年(623年)、太子の等身の像として造られたと光背の銘に記されます。
杏仁形の目、口の両端をわずかに上げた古式の微笑、左右にひろがる衣の襞。飛鳥時代の様式がそろって残る像です。
同じ金堂の銅造薬師如来坐像、木造四天王立像も国宝。
清凉寺(嵯峨釈迦堂)(せいりょうじ)
国宝
宋から渡ってきた像です。奝然という僧が中国で写させ、日本へ持ち帰りました。
渦を巻く独特の髪、体に貼りつくような衣の襞は、それまでの日本の仏像と大きく違います。この姿が清凉寺式釈迦如来と呼ばれ、各地で写されました。
国の指定は「像内納入品一切」を含めた形で行われており、像の中に多くのものが納められていることがわかっています。生身の釈迦を写そうとした像だと説明されます。
像内納入品も国宝に指定されている。
蟹満寺(かにまんじ)
国宝
奈良時代に位置付けられる大型の銅造坐像です。文化遺産オンラインは国宝指定を、木津川市は所在地と寺の来歴を案内しています。
かつては他所から移された可能性も論じられましたが、木津川市は平成17年の調査を踏まえ、白鳳期の創建以来の旧仏とする説明を掲載しています。制作年代・伝来の細部には研究の蓄積があるため、古い紹介文の「由来不明」だけで説明しないよう注意が必要です。
寺の名は、蟹が娘を救ったという説話に由来する。
釈迦如来をめぐる仏のつながり
釈迦如来の位階と、似た仏との違い
釈迦如来は如来に分類されます。如来は悟りを完成した仏を表します。
日本の仏像案内では、尊像を如来・菩薩・明王・天部などに分けます。これは像の性格を理解するための分類で、宗派をまたぐ単純な強さの順位ではありません。
釈迦如来は歴史上の釈迦にさかのぼる尊像です。阿弥陀如来・薬師如来・大日如来などは、それぞれ異なる経典と教義の中で位置付けられるため、釈迦如来との上下関係だけで説明しません。
阿弥陀如来 ─ 指で輪をつくるかどうか
見た目がもっとも近く、間違えやすい相手です。
代表的な像では、阿弥陀如来は親指と他の指で輪をつくり、釈迦如来は施無畏印・与願印を結びます。ただし例外があるため、脇侍と寺の案内も確認します。文殊・普賢なら釈迦三尊、観音・勢至なら阿弥陀三尊が基本です。
薬師如来 ─ 左手に薬壺があるか
薬師如来は左手に薬壺を持ちます。釈迦如来は何も持ちません。
ただし古い薬師如来には薬壺の無い像もあります。その場合は、周囲に十二神将が並んでいるかどうかで判じます。
釈迦(人物としての釈迦) ─ 人としての生涯と、仏としての像
「釈迦」と言うとき、歴史上の人物を指す場合と、仏として拝む像を指す場合があります。
生涯の場面を表した像は別に名を持ちます。生まれた直後の姿が誕生仏、断食したときの姿が釈迦苦行像、亡くなるときの姿が涅槃仏です。釈迦如来像は、そのなかで「悟りを開いたあとの姿」にあたります。
釈迦如来についてよくある質問
釈迦如来はどんな仏ですか。
仏教の開祖である歴史上の釈迦を、悟りを完成した仏として表した如来です。誕生仏・通常の如来像・涅槃像など、生涯の場面によって異なる姿があります。
釈迦如来と阿弥陀如来はどう見分けますか。
代表的な像では、指で輪をつくる印相が阿弥陀如来、右手を上げて掌を見せ左手を下げる施無畏印・与願印が釈迦如来の手がかりです。例外もあるため、脇侍と寺の案内を合わせて確認します。
釈迦如来はなぜ飾りを着けていないのですか。
悟りを完成した如来の姿として、出家者の衣をまとい装身具を控える図像が基本だからです。王族の装身具を着ける菩薩像との見分けにも使われますが、例外的な如来像もあります。
涅槃仏も釈迦如来ですか。
そうです。横たわった姿は釈迦の入滅を表します。日本の涅槃像・涅槃図では、右脇を下にして横たわる姿が一般的です。
釈迦三尊の脇侍は誰ですか。
獅子に乗る文殊菩薩と、象に乗る普賢菩薩です。禅宗の寺では、弟子の迦葉と阿難を脇に置く形も多く見られます。
釈迦如来と併せて覚えたい言葉・用語
触地印(そくちいん)
右手の指先で地に触れる手の形。悟りの直前、大地を証人として呼んだ場面を表す。
糞掃衣(ふんぞうえ)
捨てられた布を継ぎ合わせて作った衣。如来の衣はこれを模す。
肉髻(にっけい)
如来の頭頂にある盛り上がり。智慧が満ちていることを表す。
涅槃(ねはん)
煩悩の火が消えた状態。転じて釈迦が亡くなることを指す。
灌仏会(かんぶつえ)
四月八日に釈迦の誕生を祝う法会。誕生仏に甘茶を注ぐ。
清凉寺式(せいりょうじしき)
清凉寺の釈迦如来立像を写した像の様式。渦巻く髪と細かい衣の襞が特徴。
釈迦如来の参考資料
この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。