薬師如来の右にひかえ、月の光で夜を照らす菩薩。
月光菩薩とはどんな仏か
月光菩薩をひとことで言えば薬師如来の夜担当です。日光菩薩と二体で、薬師如来の脇にひかえます。
正式には月光遍照菩薩といいます。日光菩薩が日の光で照らすのに対し、こちらは月の光で照らします。
日と月では、光の質が違うとされます。日の光は強く熱を持ち、闇を追い払います。月の光は静かで冷たく、熱を冷まします。病に苦しむ者の熱を鎮め、心を和らげる働きが月光菩薩に割り当てられているのは、この違いによります。
日光菩薩と同じく、生い立ちについての伝えを持ちません。役目だけがあって物語が無い菩薩です。
像は薬師三尊の一部として造られるのがほとんどですが、片方を失って月光菩薩だけが残った例もあります。高知の最御崎寺の立像がそれで、単独で重要文化財に指定されています。
月光菩薩の読み方と梵名
読みは「がっこうぼさつ」です。「げっこうぼさつ」と読む例もあり、どちらも通ります。
名は梵名チャンドラプラバを意味で訳したものです。「チャンドラ」が月、「プラバ」が光を指します。
なお十二天のひとつに月天があり、こちらも月を表します。月光菩薩は薬師如来の脇侍、月天は方角を守る天部で、位階も役目も別のものです。
月光菩薩(がっこうぼさつ)
もっとも広く使われる形。
月光遍照菩薩(がっこうへんじょうぼさつ)
正式な形。
月浄菩薩(がつじょうぼさつ)
古い訳に見える形。
げっこうぼさつ(げっこうぼさつ)
「げっこう」と読む例もある。
チャンドラプラバ(Candraprabha)
意味は「月の光」。「チャンドラ」が月、「プラバ」が光を指す。読みは「ちゃんどらぷらば」。
月光菩薩の見分け方(印相・持ち物・姿)
月光菩薩の見分けは、手か冠にある月輪にあります。日光菩薩とほとんど同じ姿に造られるため、この一点が頼りになります。
持ち物 ─ 月輪を掲げる
手のひらに載せるか、蓮華の上に置く形で、月輪という丸い盤を掲げます。
月輪は月をかたどったもので、白く塗られ、中に兎や蟇を描くことがあります。中国で月に住むとされた生きものです。
日光菩薩の日輪と形がよく似ています。 中に何が描かれているかを見るのが、いちばん確かな分け方です。
宝冠 ─ 正面に月輪を戴く
立ち位置 ─ 向かって左が基本
薬師三尊では、中尊から見て右が月光菩薩とするのが基本です。参拝する側から見ると、向かって左になります。
ただし作例によって入れ替わることがあり、絶対の決まりではありません。
位置で決めつけず、盤の中の絵を確かめるのが確実です。
片方だけ残る例
日光と月光は二体一組で造られますが、火災や移動で片方を失った例が各地にあります。
高知の最御崎寺には、月光菩薩だけが単独で重要文化財に指定された立像が伝わります。日光菩薩を失って残った像です。
このように片方だけが残った場合、日輪か月輪かで名が決まります。盤が失われていれば、名も定まりません。
月光菩薩のご利益
病気平癒
薬師如来の働きを助けることによる。
熱を冷ます
月の光が熱を持たないことにちなむ。
心の安らぎ
静かな光にたとえられる。
安眠
夜を受け持つことによる。
月光菩薩に会える寺
月光菩薩は、薬師三尊の一員として会うのがふつうです。薬師如来を本尊とする堂であれば、両脇にこの二体が立っています。
滋賀・兵庫・京都には「木造日光月光菩薩立像」の名で登録された重要文化財が数多くあり、それだけ薬師信仰が広かったことがわかります。
ここに挙げたのは、所有者が寺であることを文化庁の国指定文化財等データベースで確かめられたものだけです。
最御崎寺(ほつみさきじ)
重要文化財
月光菩薩だけが単独で重要文化財に指定された、珍しい例です。
文化庁の国指定文化財等データベースでは、所有者が最御崎寺と記されています。
四国八十八箇所の第二十四番札所で、室戸岬の突端に近い場所にあります。空海が修行したと伝えられる御厨人窟が近くにあります。
所在地は四国八十八ヶ所霊場会の公式サイトで確かめた。
法隆寺(ほうりゅうじ)
重要文化財
日光菩薩と月光菩薩が二躯そろって伝わります。
文化庁の国指定文化財等データベースでは、二躯ひとまとまりで重要文化財に登録され、所有者は法隆寺と記されています。
二体そろっているため、日輪と月輪の違いをその場で見比べられます。
同じ寺には木造善女竜王立像の重要文化財もある。
蓮徳寺(れんとくじ)
重要文化財
文化庁の国指定文化財等データベースで、所有者が蓮徳寺と記されています。
日光と月光をひとまとまりの名称で登録した例です。
拝観の可否は寺に確かめる必要があります。
所有者は文化庁の国指定文化財等データベースで確認した。
月光菩薩をめぐる仏のつながり
月光菩薩の位階と、似た仏との違い
月光菩薩は菩薩の位に置かれます。薬師如来の脇侍を務める二体のうちの一体です。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。月光菩薩は菩薩です。
菩薩のなかでは脇侍を本領とする菩薩にあたり、単独で信仰されることはほとんどありません。薬師三尊という三体一組の枠組みのなかで初めて意味を持つ菩薩です。
日光菩薩 ─ 月輪か日輪か
対になる相手です。盤の中に兎や蟇が描かれていれば月光菩薩、三本足の烏なら日光菩薩です。
色でも分かれます。月輪は白、日輪は赤に塗られます。
彩色が落ちた像では区別がつきません。二体そろっているときは、立つ位置も手がかりになります。
観音菩薩 ─ 冠の飾りで分かれる
十二神将 ─ 同じ薬師如来を囲む
どちらも薬師如来のまわりに配されます。ただし位階が違います。
月光菩薩は菩薩、十二神将は天部です。姿もまったく違い、十二神将は甲冑を着けて武器を構えます。
薬師如来を中心に、脇に日光・月光、周囲に十二神将という配置がひとまとまりです。
月光菩薩についてよくある質問
月光菩薩はどんな仏ですか。
薬師如来の脇にひかえる菩薩です。日光菩薩と二体で対をなし、月の光で夜を照らして苦しむ者の熱を鎮めるとされます。
月光菩薩の読み方は。
「がっこうぼさつ」です。「げっこうぼさつ」と読む例もあり、どちらも通ります。
月光菩薩はどう見分けますか。
手か冠に月輪という白い丸い盤を戴きます。中に兎や蟇が描かれていれば確実です。
月光菩薩だけの像はありますか。
あります。高知の最御崎寺には、月光菩薩だけが単独で重要文化財に指定された立像が伝わります。日光菩薩を失って残った例です。
月光菩薩のご利益は何ですか。
病気平癒が中心です。月の光が熱を持たないことから、熱を冷ます、心を安らげるといった働きも説かれます。
月光菩薩と併せて覚えたい言葉・用語
月輪(がちりん)
月をかたどった丸い盤。月光菩薩が手や冠に戴く。
薬師三尊(やくしさんぞん)
薬師如来と日光菩薩・月光菩薩の三体一組。
四国八十八箇所(しこくはちじゅうはっかしょ)
四国をめぐる八十八の霊場。最御崎寺は第二十四番。
脇侍(きょうじ)
中尊の左右にひかえる仏。三尊像の両脇を務める。