柳の枝を手にし、病を払うとされる観音。
楊柳観音とはどんな仏か
楊柳観音をひとことで言えば柳の枝を持つ観音です。三十三観音の筆頭に置かれます。
「楊柳」は柳のことです。中国には、柳の枝で水をふりかけて病や汚れを払う習わしがありました。その枝を観音が手にしている、という図像です。
病を除く働きから薬王観音とも呼ばれます。千手観音の四十本の手のひとつが柳の枝を持つことからも、柳と病除けの結びつきがわかります。
日本での広まり方には特徴があります。彫刻はきわめて少なく、朝鮮半島から渡ってきた「楊柳観音図」という絵が数多く伝わりました。京都・滋賀・鳥取・徳島・佐賀の寺に、重要文化財の楊柳観音像が絵として残ります。
そのうち一件には、徐九方という画家の名と至治三年という年が書きこまれています。描いた人と描いた年がわかる絵は珍しく、高麗の仏画を知るうえで重んじられています。
楊柳観音の読み方と梵名
読みは「ようりゅうかんのん」です。
「楊柳」は柳のことです。「楊」は枝が立つ柳、「柳」は枝が垂れる柳を指し、あわせて柳全体を表します。
薬王観音という別名もあります。なお法華経に出る薬王菩薩とは別の尊格で、名が似ているだけです。
楊柳観音(ようりゅうかんのん)
もっとも広く使われる形。
楊柳観世音菩薩(ようりゅうかんぜおんぼさつ)
正式な形。
薬王観音(やくおうかんのん)
病を除く働きにちなむ呼び方。
やなぎかんのん(やなぎかんのん)
日ごろの言い方。
アヴァローキテーシュヴァラ(Avalokitesvara)
意味は「観じ、自在なるもの」。観音の原語。楊柳観音は中国で整えられた姿のため、これに対応する固有の梵名は確かめられなかった。読みは「あう゛ぁろーきてーしゅう゛ぁら」。
楊柳観音の見分け方(印相・持ち物・姿)
楊柳観音の見分けは、手に持つ細長い柳の枝にあります。枝を持つ仏はほかにほとんどありません。
持ち物 ─ 柳の枝と水瓶
右手に柳の枝を持ちます。細長い枝で、先に葉を付けた形に彫られます。
左手には水瓶を添えます。枝を水にひたし、それをふりかけて病や汚れを払うという仕草です。
細い枝を持っている仏を見たら、まず楊柳観音です。ただし千手観音の四十本の手のひとつも柳の枝を持つため、腕の数を確かめる必要があります。
姿 ─ 岩の上に座る
絵に描かれるときは、岩の上に片膝を立てて座る姿が多く見られます。
かたわらに水瓶を置き、足もとに善財童子が現れて教えを乞う場面として描かれることもあります。
高麗の仏画では、透けるほど薄い衣を幾重にも重ねて描くのが特徴で、その技法そのものが評価されています。
宝冠 ─ 化仏を戴く
なぜ絵が多いのか
楊柳観音も、白衣観音と同じく彫刻より絵として伝わりました。
高麗から日本へ渡った仏画のなかで、楊柳観音図は数がとくに多いものです。日本に伝わった高麗仏画の代表格といってよいでしょう。
彫刻では、奈良の大安寺の立像が重要文化財に指定されています。彫刻としては数えるほどしか残っていません。
楊柳観音のご利益
病気平癒
柳の枝で病を払うという中国の習わしによる。
厄除け
水をふりかけて汚れを払うことにちなむ。
歯の痛み
柳の枝を歯磨きに用いた習わしと結びついた。
心の安らぎ
くつろいだ姿勢に描かれることによる。
楊柳観音に会える寺
楊柳観音の彫刻は、国指定のものがきわめて少ない仏です。文化庁の国指定文化財等データベースで確かめられたのは、奈良の大安寺の立像だけでした。
一方で絵画は数多く指定されています。京都・滋賀・鳥取・徳島・佐賀の寺に、楊柳観音像が重要文化財として伝わります。
これらの多くは高麗から渡ってきた仏画です。日本の観音信仰の一部が、朝鮮半島の絵によって支えられていたことを示しています。
大安寺(だいあんじ)
重要文化財
楊柳観音の彫刻で、国の指定を受けている数少ない一件です。
文化庁の国指定文化財等データベースで、所有者が大安寺と記されています。
奈良時代には南都七大寺のひとつに数えられた大寺で、いまも奈良時代の木彫が数多く伝わります。絵で知られる楊柳観音を、立体で見られる貴重な場所です。
所有者は文化庁の国指定文化財等データベースで確認した。
楊柳観音をめぐる仏のつながり
楊柳観音の位階と、似た仏との違い
楊柳観音は菩薩の位に置かれます。三十三観音の筆頭です。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。楊柳観音は菩薩です。
観音の枠組みには、密教の六観音・七観音と、より広い三十三観音があります。楊柳観音は三十三観音の第一に置かれます。
三十三観音は観音経の「三十三の姿に変じる」という句から中国で整えられたもので、白衣観音・魚籃観音などが含まれます。
白衣観音 ─ 三十三観音どうし
どちらも三十三観音に数えられ、絵として広まりました。
見分けは持ち物と衣です。楊柳観音は柳の枝を持ち、白衣観音は頭から衣をかぶります。
どちらも岩の上に座る姿で描かれることが多く、遠目には似て見えます。
千手観音 ─ どちらも柳の枝を持つ
千手観音の四十本の手のひとつが、柳の枝を持ちます。持ち物が重なります。
見分けは腕の数です。千手観音は四十二本、楊柳観音は二本です。
千手観音は頭上に十一の小面を戴くことが多く、楊柳観音は戴きません。
薬師如来 ─ どちらも病を受け持つ
病を除くという役目が重なります。薬王観音という別名も、薬師如来の名と紛らわしいものです。
位階が違います。 薬師如来は如来、楊柳観音は菩薩です。
見分けは装身具です。薬師如来は冠も瓔珞も着けず、左手に薬壺を持ちます。楊柳観音は宝冠と瓔珞を着け、柳の枝を持ちます。
楊柳観音についてよくある質問
楊柳観音とはどんな仏ですか。
柳の枝を手にする観音です。三十三観音の筆頭に置かれ、柳の枝で水をふりかけて病を払うとされます。
楊柳観音の読み方は。
「ようりゅうかんのん」です。「楊柳」は柳のことで、薬王観音とも呼ばれます。
楊柳観音はどう見分けますか。
右手に細長い柳の枝を持ち、左手に水瓶を添えます。枝を持つ仏はほかにほとんどないため、これが決め手です。
なぜ楊柳観音は絵が多いのですか。
高麗から日本へ渡った仏画のなかで、楊柳観音図がとくに数多かったためです。京都・滋賀・鳥取・徳島・佐賀の寺に重要文化財として伝わります。
楊柳観音の像はどこで見られますか。
奈良の大安寺に重要文化財の立像があります。彫刻の国指定はこの一件がほぼ唯一です。
楊柳観音と併せて覚えたい言葉・用語
三十三観音(さんじゅうさんかんのん)
観音の三十三の姿を並べた枠組み。楊柳観音はその第一。
高麗仏画(こうらいぶつが)
朝鮮半島の高麗で描かれた仏画。楊柳観音図が数多く日本に伝わる。
水瓶(すいびょう)
水を入れる瓶。楊柳観音は柳の枝とともに持つ。
南都七大寺(なんとしちだいじ)
奈良の七つの大寺。大安寺はそのひとつ。