如意宝珠と法輪を持ち、福徳と智慧によって六道の人々を救うと説かれる変化観音。
如意輪観音とはどんな仏か
如意輪観音はひとことで言えば、如意宝珠と法輪によって福徳と仏の教えをもたらす変化観音です。
名は二つの持ち物から来ています。思いのままに宝を出す如意宝珠と、迷いを砕く法輪。この二つで、財と教えの両方を与えるという意味になります。
もっとも一般的な像は六本の腕を持ち、右の第一手を頬に添え、右膝を立てて座ります。右手を頬へ寄せる印は思惟手と呼ばれ、救済を思惟する姿として説明されます。
ただし、腕が二本の如意輪観音像もあります。また中宮寺の国宝像は、国の指定名が「木造菩薩半跏像(伝如意輪観音)」です。寺に伝わる尊名と、像の形式から研究者が考える尊名は分けて読む必要があります。
六観音では天道に生まれた者を受け持ちます。秘仏とされることが多く、公開の機会は限られます。
如意輪観音の読み方と梵名
読みは「にょいりんかんのん」です。梵名のチンターマニチャクラは、「思いのままの珠(チンターマニ)」と「輪(チャクラ)」を並べた名で、これをそのまま漢字に訳したのが「如意輪」です。
名前が、そのまま持ち物の説明になっています。
如意輪観音(にょいりんかんのん)
もっとも広く使われる形。
如意輪観世音菩薩(にょいりんかんぜおんぼさつ)
寺の由緒書に多い形。
救世菩薩(くせぼさつ)
古い呼び方の一つ。
チンターマニチャクラ(Cintamanicakra)
意味は「如意宝珠と法輪」。読みは「ちんたーまにちゃくら」。「チンターマニ」が如意宝珠、「チャクラ」が輪にあたる。
如意輪観音の物語
如意宝珠と法輪 ─ 名前が示す二つの働き
「如意」は如意宝珠、「輪」は法輪を指します。奈良国立博物館は、如意輪観音が如意宝珠・輪宝・数珠・蓮華などを持つ六臂像を、密教の胎蔵界曼荼羅にも描かれる規範的な姿として紹介しています。
文化遺産オンラインは、如意宝珠を福徳、法輪を智慧に結びつけ、平安時代以降に六観音の一尊として重視されたと説明します。
願いをかなえる珠だけの仏ではなく、福徳と智慧の両方で迷いから救う観音というのが、名に込められた意味です。
六本の手と輪王坐 ─ 一つずつ異なる役目
六臂像では、右手を頬に添え、ほかの手で如意宝珠と数珠を持ちます。左手は岩座に触れ、輪宝と蓮華を持ちます。右膝を立てて体を傾ける座り方を輪王坐と呼びます。
文化遺産オンラインは、六本の手を六道に配し、六道すべてからの救済を表す像として信仰されたと説明しています。
ただし像容は二臂から十二臂まであり、すべての像が六本の手ではありません。六臂の輪王坐は標準形であって、例外を切り捨てる判定式ではないと覚えるのが正確です。
観心寺の秘仏 ─ 年二日だけ開く厨子
大阪府河内長野市の観心寺には、平安時代の国宝・木造如意輪観音坐像が伝わります。日本に残る六臂の如意輪観音彫像のなかでも早い作例です。
河内長野市は、国宝像を毎年4月17日と18日の二日間に限って特別拝観できると案内しています。通常の拝観とは別に、秘仏の厨子が開く二日間です。
国宝像の前には、同じく観心寺に伝わる重要文化財の前立ち像があります。市はこれを、本尊像の試作と伝えられる六臂像として紹介しています。普段に拝める像と、年二日の国宝本尊を区別して計画する必要があります。
如意輪観音の見分け方(印相・持ち物・姿)
如意輪観音は、腕の数・持ち物・座り方を組み合わせて見分けます。姿勢だけで尊名を断定できない像もあります。
姿勢 ─ 頬杖をついて膝を立てる
右の第一手を頬に添え、右膝を立てて左足の甲の上に置きます。この座り方を輪王坐といいます。
六臂の標準像では体を傾け、左右非対称の姿になります。堂の中でこの座り方を見つけたら、次に腕の数と持ち物を確かめます。
頬に手を添えるしぐさが、考えこむ様子を表します。
腕 ─ 六本が基本
腕は六本の像がもっとも一般的です。六本の手を六道に配し、六道の人々を救うことを表すと説明されます。
右の第一手が頬に添えられ、第二手が如意宝珠、第三手が数珠を持ちます。左の第一手は台座を押さえ、第二手が蓮華、第三手が法輪を支えます。
二本の腕で造られる像もあり、その場合は片手に宝珠を持って頬に手を添えます。
持ち物 ─ 宝珠と法輪
六臂の標準像では、名のもとになった如意宝珠と法輪を持ちます。
如意宝珠は先のとがった球形、法輪は輻を持つ車輪の形です。どちらも小さく、遠目には見えにくいので、姿勢で先に判じてから持ち物を確かめるのが早道です。
宝冠には阿弥陀如来の化仏が付き、観音であることを示します。
公開 ─ 寺ごとに条件が違う
如意輪観音像は、いつでも同じ条件で拝観できるとは限りません。
観心寺の国宝像は秘仏で、河内長野市は毎年4月17日・18日の開扉を案内しています。大報恩寺の如意輪観音は六観音像の一躯として霊宝殿に安置され、中宮寺像は寺伝上の尊名を持つ本尊です。
尊名が同じでも、秘仏・一組の像・寺伝上の尊名という違いがあるため、訪問前に公開対象と日時を確かめます。
如意輪観音のご利益
所願成就
如意宝珠が思いのままに宝を出すことによる。
財運・福徳
同じく宝珠による。
安産・子授け
近世以降に加わった信仰。
厄除け
法輪が迷いを砕くことによる。
如意輪観音が守り本尊(ついてる人)の人
一般的な十二支守り本尊の八尊に、如意輪観音は含まれません。そのため「如意輪観音がついてる人」を、特定の生まれ年だけに当てることはできません。
十二支では、千手観音、虚空蔵菩薩、文殊菩薩、普賢菩薩、勢至菩薩、大日如来、不動明王、阿弥陀如来を配する習わしが一般的です。如意輪観音への信仰は、生まれ年ではなく、如意宝珠・法輪が表す福徳と智慧、六観音としての救済に結びつきます。
特定の干支に当てない
如意輪観音を信仰する人はいますが、一般的な十二支守り本尊で「何年生まれの人」と固定する尊ではありません。検索結果で独自の対応表を見た場合は、その寺院や流派独自の案内かを確かめます。
如意輪観音に会える寺
同じ「如意輪観音」でも、観心寺は六臂の秘仏、中宮寺は寺伝上の尊名を持つ二臂の半跏像、大報恩寺は六観音の一組です。尊名だけでなく、腕の数・安置のされ方・公開条件まで比べると違いが分かります。
公開日、拝観料、展示替えは変わるため、訪問前に自治体・博物館・寺院の最新案内を確認してください。
観心寺 金堂(かんしんじ こんどう)
国宝
平安時代の国宝で、日本に残る六臂の如意輪観音彫像の早い作例です。
六本の腕、輪王坐、如意宝珠と法輪を備え、六臂像の標準形を実物で確かめられます。
秘仏のため公開日は限られます。河内長野市は毎年4月17日と18日の二日間に限ると案内しています。時間と料金は訪問前に最新の公表を確認してください。
空海が創建に関わったと伝わる。
中宮寺 本堂(ちゅうぐうじ)
国宝
寺に伝わる呼び名が如意輪観音であるため、国の指定名も「伝如意輪観音」となっています。
ただし姿は六臂の輪王坐ではなく、二本の腕の半跏思惟像です。国の指定名は尊名を断定せず、括弧内に「伝如意輪観音」と記します。
名が揺れていること自体が、この像の歴史を物語ります。
法隆寺の東院伽藍に隣接する。
大報恩寺(千本釈迦堂)(だいほうおんじ)
国宝(六観音菩薩像の一躯として)
六観音がそろって残る一組のうちの一躯です。ほかの五体と並ぶことで、如意輪観音だけが座り方を崩していることがよくわかります。
鎌倉時代の作。
如意輪観音をめぐる仏のつながり
如意輪観音の位階と、似た仏との違い
如意輪観音は菩薩の位に置かれます。観音菩薩の変化身の一つです。
六観音では天道を受け持ちます。天道は六道のなかでもっとも恵まれた世界ですが、それでも迷いの世界であることに変わりはないという考え方から、そこにも観音が必要とされました。
弥勒菩薩(半跏思惟像) ─ 腕の数と、膝の立て方
どちらも頬に指を添えて考えこみます。中宮寺の像のように、名が揺れている例もあります。
六本の腕で如意宝珠と法輪を持ち、輪王坐をとれば如意輪観音の標準像と判断できます。ただし二臂の如意輪観音像もあり、中宮寺像のように指定名が「伝如意輪観音」となる例もあります。腕の数だけで全像の尊名を確定しません。
ほかの観音 ─ 座り方が崩れているか
准胝観音 ─ 腕の数が近い
准胝観音も多くの腕を持ちますが、十八本が基本で、立像または結跏趺坐の坐像です。
如意輪観音の標準像は六本、准胝観音は十八本です。頬に手を添える姿だけでなく、腕の数と持ち物を合わせて見ます。
如意輪観音についてよくある質問
如意輪観音はどんな仏ですか。
如意宝珠と法輪を持ち、頬に手を添えて考えこむ姿の観音です。六観音では天道に生まれた者を受け持ちます。
如意輪観音の見分け方を教えてください。
片膝を立てて頬杖をつく輪王坐の姿勢を見ます。腕は六本が基本で、如意宝珠と法輪を持ちます。
如意輪観音は何を考えているのですか。
頬に手を添える右手は思惟手と呼ばれ、救済を思惟する姿として説明されます。具体的な一つの問いを考えている場面が経典に書かれている、という意味ではありません。
如意輪観音と弥勒菩薩の半跏思惟像はどう見分けますか。
六臂像では、六本の腕、如意宝珠と法輪、輪王坐を組み合わせて見ます。ただし二臂の如意輪観音像もあり、中宮寺像の指定名も「伝如意輪観音」なので、腕の数だけで全例を断定できません。
観心寺の如意輪観音はいつ見られますか。
秘仏です。河内長野市は毎年4月17日・18日の二日間に限って特別拝観できると案内しています。時間と料金は訪問前に最新情報を確認してください。
如意輪観音が守り本尊なのは何年生まれですか。
一般的な十二支守り本尊の八尊に如意輪観音は含まれないため、特定の生まれ年には当てません。
如意輪観音と併せて覚えたい言葉・用語
輪王坐(りんのうざ)
片膝を立て、その膝に肘を掛けるように座る姿勢。如意輪観音がとる。
如意宝珠(にょいほうじゅ)
思いのままに宝を出すとされる珠。
法輪(ほうりん)
輻を持つ車輪の形をした法具。仏の教えが進むことを表す。
天道(てんどう)
六道のうちもっとも恵まれた世界。それでも迷いの世界とされる。
開帳(かいちょう)
秘仏の厨子を開いて公開すること。
如意輪観音の参考資料
この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。