顔が一つ、腕が二本。観音のもとの姿にあたる。
聖観音とはどんな仏か
聖観音をひとことで言えば変化していない観音です。顔が一つ、腕が二本の、もっとも素直な形をしています。
観音菩薩は相手に応じて姿を変える仏です。頭が十一に分かれれば十一面観音、腕が千本に増えれば千手観音、馬の頭を戴けば馬頭観音になります。それらに変化する前の、もとの姿が聖観音です。
「聖」の字は「正しい」「本来の」という意味で使われています。聖人という意味ではなく、「変化身に対するもとの身」を指す言葉です。
日本の仏像で数がもっとも多いのが観音であり、そのなかで聖観音はさらに多数を占めます。文化庁の国指定文化財等データベースで彫刻を検索すると、北は岩手から南は九州まで、木造聖観音立像の名が並びます。
ただし数が多いぶん、所有者が寺でないものも混じります。東京にある重要文化財の木造聖観音立像は、遊園地を運営する会社が所有しています。会いに行くときは、所有者を確かめる必要があります。
聖観音の読み方と梵名
読みは「しょうかんのん」です。「せいかんのん」ではありません。
「聖」を「しょう」と読むのは呉音という古い読み方によります。聖徳太子を「しょうとくたいし」と読むのと同じです。
正観音と書く例もあり、読みは変わりません。「本来の姿の観音」という意味で、どちらの字でも通ります。
聖観音(しょうかんのん)
もっとも広く使われる形。
聖観世音菩薩(しょうかんぜおんぼさつ)
正式な形。
正観音(しょうかんのん)
「正しい」の字を当てた形。意味は同じ。
聖観自在菩薩(しょうかんじざいぼさつ)
玄奘の訳にもとづく形。
アーリヤ・アヴァローキテーシュヴァラ(Arya Avalokitesvara)
意味は「尊い観自在」。「アーリヤ」が尊い、「アヴァローキテーシュヴァラ」が観音の原語。読みは「あーりや・あう゛ぁろーきてーしゅう゛ぁら」。
聖観音の見分け方(印相・持ち物・姿)
聖観音の見分けは、宝冠の正面を見ることに尽きます。ほかの菩薩と姿がよく似ているため、頭の飾りが決め手になります。
宝冠 ─ 小さな阿弥陀如来を戴く
宝冠の正面に、小さな阿弥陀如来の像を戴きます。これを化仏といいます。
観音菩薩が阿弥陀如来の脇侍であることを示すしるしで、化仏を戴いていれば観音と判じてよい、いちばん確かな目印です。
化仏は数センチほどの小さなもので、遠目には気づきにくいことがあります。像の前に立ったら、まず頭の正面を見上げるのが手順です。
持ち物 ─ 蓮のつぼみと水瓶
左手に未開敷蓮華、つまりまだ開ききらない蓮のつぼみを持つ形が多く見られます。
つぼみは、まだ悟りに至っていない人のたとえです。観音がその花を開かせるという意味が込められています。
もう一方の手に水瓶を持つ例、あるいは施無畏印を結ぶ例もあります。持ち物より、まず冠の化仏を確かめるほうが確実です。
顔と腕 ─ 一面二臂
顔は一つ、腕は二本です。これを一面二臂といいます。
十一面観音は頭上に十一の小面を戴き、千手観音は四十二本の腕を持ちます。如意輪観音は六本の腕で頬に指を添えます。それらの目立つ特徴が何も無いのが聖観音です。
つまり聖観音の見分けは、「何も余分が無い観音」を探すことになります。
姿勢 ─ 立像が多い
聖観音は立った姿で造られることが多い仏です。文化財の名称も「木造聖観音立像」の形が目立ちます。
坐った像もあり、滋賀の満月寺や香川の願興寺には重要文化財の坐像が伝わります。
台座は蓮華座で、光背は円形か舟形が用いられます。装身具は菩薩の決まりに従い、瓔珞と条帛を着けます。
聖観音のご利益
現世利益
観音経に、名を称えれば火にも水にも害されないと説かれる。
厄除け
苦しみを取り除く働きによる。
安産
子を求める者に子を与えると観音経に説かれる。
極楽往生
阿弥陀如来の脇侍として迎えに来ることによる。
聖観音に会える寺
聖観音の国指定の彫刻は全国に数多くあります。ここに挙げたのは、所有者が寺であることを文化庁の国指定文化財等データベースで確かめられたものだけです。
注意が要るのは、所有者が寺でない像が混じることです。東京にある重要文化財の木造聖観音立像は、遊園地を運営する会社が所有しています。国指定であることと、寺で拝めることは別の話です。
近所の寺の観音堂に祀られている像が聖観音かどうかは、冠の正面に小さな仏が載っているかどうかで確かめられます。
東慶寺(とうけいじ)
重要文化財
文化庁の国指定文化財等データベースで、所有者が東慶寺と記されている重要文化財の立像です。
もとは鎌倉の別の寺にあった像が、廃寺のさいに移されたと伝えられます。
鎌倉で聖観音の重要文化財に会える数少ない寺です。
所在地は公式サイトで確かめた。
満月寺(まんげつじ)
重要文化財
琵琶湖に張り出した堂で知られる寺です。文化庁の国指定文化財等データベースで、所有者が満月寺と記されています。
聖観音は立像が多いなかで、坐った姿の重要文化財という点が目を引きます。
拝観の可否は寺に確かめる必要があります。
所有者は文化庁の国指定文化財等データベースで確認した。
願興寺(がんこうじ)
重要文化財
乾漆という技法で造られた坐像です。麻布を漆で貼り重ねて形をつくります。
奈良時代に盛んだった技法で、平安時代以降は木彫に取って代わられました。乾漆の聖観音は数がきわめて少ないものです。
文化庁の国指定文化財等データベースで、所有者が願興寺と記されています。
所有者は文化庁の国指定文化財等データベースで確認した。
聖観音をめぐる仏のつながり
聖観音の位階と、似た仏との違い
聖観音は菩薩の位に置かれます。観音菩薩のもとの姿にあたります。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。聖観音は菩薩です。
観音菩薩は相手に応じて姿を変えると説かれ、その変化身に十一面・千手・如意輪・馬頭・准胝・不空羂索などがあります。聖観音はそれらの元になる姿で、六観音・七観音の筆頭に置かれます。
六観音では、六道のうち地獄道を受け持つとされます。ただし宗派によって割り当てが違います。
観音菩薩 ─ 全体と、その基本形
観音菩薩は変化身を含めた全体を指す呼び名です。聖観音はそのなかの変化していない基本の姿を指します。
寺の案内板で「観音菩薩」とあるとき、像が一面二臂であれば実際には聖観音です。
文化財の登録名では「聖観音」の形が使われることが多く、堂の呼び名と登録名が食い違うことがあります。
十一面観音 ─ 頭に小面があるかどうか
十一面観音は、本面のほかに頭上へ十一の小さな顔を戴きます。
頭の上に顔が並んでいれば十一面観音、並んでいなければ聖観音です。ひと目で分かれます。
どちらも冠の正面に化仏を戴くので、化仏だけでは区別がつきません。
勢至菩薩 ─ 冠の飾りで分かれる
どちらも阿弥陀如来の脇に立つことがあります。姿もよく似ています。
冠の正面が小さな仏なら聖観音、水瓶なら勢至菩薩です。
三尊像では、向かって右に観音、左に勢至が立ちます。ただし左右の配置は作例によって入れ替わることがあり、位置より冠を見るほうが確実です。
聖観音についてよくある質問
聖観音とは何ですか。
顔が一つ、腕が二本の観音です。十一面や千手のように姿を変える前の、もとの形にあたります。
聖観音の読み方は。
「しょうかんのん」です。「せいかんのん」とは読みません。正観音と書く例もあり、読みは同じです。
聖観音と観音菩薩は違いますか。
観音菩薩は変化身を含めた全体を指す呼び名で、聖観音はそのなかの基本の姿を指します。像が一面二臂であれば聖観音です。
聖観音はどう見分けますか。
宝冠の正面に小さな阿弥陀如来の像を戴きます。頭上に十一の顔も無く、腕も二本なら聖観音です。
聖観音の像はどこで見られますか。
神奈川の東慶寺、滋賀の満月寺、香川の願興寺などに、寺が所有する重要文化財の像があります。国指定の像は全国に数多くありますが、所有者が寺でないものも混じります。
聖観音と併せて覚えたい言葉・用語
化仏(けぶつ)
宝冠の正面に載る小さな仏像。観音であることのしるし。
一面二臂(いちめんにひ)
顔が一つ、腕が二本の形。
未開敷蓮華(みかいふれんげ)
まだ開ききらない蓮のつぼみ。悟りに至る前の人をたとえる。
六観音(ろっかんのん)
六道それぞれを受け持つ六体の観音。聖観音はその筆頭。
呉音(ごおん)
中国から早い時期に伝わった漢字の読み方。仏教語に多く残る。