仏を生む母と呼ばれる観音。三つの目と十八本の腕を持つ。
准胝観音とはどんな仏か
准胝観音をひとことで言えば仏を生む母です。密教では七倶胝仏母と呼ばれ、あらゆる仏がここから生まれると説かれます。「七倶胝」は七千万を意味し、それだけの数の仏を生んだという意味になります。
観音の一種に数えるのがふつうですが、そもそも観音ではないという立場もあります。真言宗では六観音のひとつとし、天台宗では不空羂索観音を入れて准胝を外します。宗派によって数え方が割れる、めずらしい尊格です。
日本での信仰の中心は、京都の醍醐寺でした。西国三十三所の第十一番札所である上醍醐の准胝堂が、この観音を本尊としてきました。
その堂は平成二十年八月の落雷による火災で焼失しています。現在は下醍醐の伽藍にある観音堂に准胝観音を安置し、参拝と納経を受け付けています。
子を授かる願いを聞き届けるとされ、後宮の女性たちの信仰を集めた歴史があります。
准胝観音の読み方と梵名
読みは「じゅんていかんのん」です。「じゅんちかんのん」と読む例もあります。
「准胝」は梵名チュンディーの音を漢字に写したものです。字そのものに意味はありません。
意味で訳した名が仏母で、あらゆる仏を生む母という意味です。「七倶胝仏母」の七倶胝は七千万を指し、それだけの数の仏を生んだことを表します。
准胝観音(じゅんていかんのん)
もっとも広く使われる形。
准胝観世音菩薩(じゅんていかんぜおんぼさつ)
正式な形。
准提観音(じゅんていかんのん)
「提」の字を当てた形。
七倶胝仏母(しちくていぶつも)
密教での呼び方。仏の母という意味。
准胝仏母(じゅんていぶつも)
略した形。
チュンディー(Cundi)
意味は「清らかなもの」。「准胝」はこの音を漢字に写したもの。読みは「ちゅんでぃー」。
准胝観音の見分け方(印相・持ち物・姿)
准胝観音の見分けは、台座を支える二体の竜王にあります。腕の数と合わせて確かめると確実です。
台座 ─ 二体の竜王が支える
顔と腕 ─ 三目十八臂
額に縦の目をひとつ加えた三つの目を持ちます。
腕は十八本が標準です。四臂、六臂、八臂と定めた経典もありますが、日本では十八臂が主流でした。
十八本の手にはそれぞれ持ち物があり、剣・斧・鉞・数珠・水瓶・羂索・法輪・経巻などを握ります。腕が十八本あって足もとに竜がいれば、まず准胝観音です。
宝冠 ─ 化仏を戴かないことがある
ほかの観音は宝冠の正面に小さな阿弥陀如来の像を戴きます。准胝観音はこれを戴かない作例が多くあります。
観音ではないとする立場は、この点も根拠にします。仏母という独立した尊格であって、観音の変化身ではないという見方です。
代わりに宝冠には五仏を並べる形や、飾りだけの形が用いられます。
姿 ─ 女性らしく表される
仏母という名のとおり、女性として表されることが多い尊格です。
顔つきは柔らかく、体つきも丸みを帯びます。ただし腕が十八本あるため、全体としては威圧感のある姿になります。
体の色は白か黄とされ、絵に描かれるときはこの色で塗られます。
准胝観音のご利益
子授け
仏母という名にちなみ、子を授かる願いを受ける。
安産
同じく母としての性格による。
延命
経典に、この尊の真言が寿命を延ばすと説かれる。
悪縁を断つ
西国十一番の御詠歌に「逆縁ももらさで救う」と歌われる。
准胝観音に会える寺
准胝観音の彫刻で、国が指定したものは確かめられませんでした。文化庁の国指定文化財等データベースで見つかるのは、東京にある絹本著色の准胝観音像という絵画が一件だけです。
会いに行ける場所としては、西国三十三所の第十一番札所である醍醐寺が中心になります。ただし本尊の准胝観音は秘仏で、開扉は五月の一週間に限られます。
上醍醐の准胝堂は焼失しており、山上に登っても堂はありません。 訪ねる先は下醍醐の観音堂です。
醍醐寺 観音堂(だいごじ かんのんどう)
西国三十三所 第十一番札所
西国三十三所の第十一番札所です。もとは上醍醐の准胝堂が札所でしたが、平成二十年八月の落雷による火災で堂が焼失しました。
現在は下醍醐の伽藍にある観音堂に准胝観音を安置し、参拝・納経・朱印を受け付けています。
毎年五月十五日から二十一日まで、准胝観音総供養として秘仏が開扉されます。上醍醐へは登山道の危険により、当面のあいだ入山が禁じられています。
同じ寺には木造閻魔天像、木造五大明王像の重要文化財もある。
准胝観音をめぐる仏のつながり
准胝観音の位階と、似た仏との違い
准胝観音は菩薩に分類されます。ただし観音の変化身とみるか、独立した仏母とみるかで立場が分かれます。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。准胝観音は菩薩に置かれます。
観音の変化身とみる場合は、真言宗の六観音のひとつに数えられます。聖観音・千手観音・馬頭観音・十一面観音・如意輪観音とあわせた六体です。
天台宗ではこの位置に不空羂索観音を置き、准胝観音を外します。どちらが正しいという問題ではなく、宗派による数え方の違いです。
不空羂索観音 ─ 六観音の枠を争う
真言宗の六観音には准胝観音が入り、天台宗の六観音には不空羂索観音が入ります。同じ枠を分け合う関係です。
見分けは容易です。不空羂索観音は肩に鹿の皮をかけ、腕は八本が標準です。准胝観音は鹿皮をかけず、腕は十八本、足もとに竜王が現れます。
千手観音 ─ 腕の多さで迷う
どちらも腕を多く持ちます。千手観音は四十二本、准胝観音は十八本が標準です。
千手観音は頭上に十一の小面を戴くことが多く、准胝観音は戴きません。
決定的なのは台座です。足もとに二体の竜王がいれば准胝観音です。
如意輪観音 ─ どちらも女性らしく表される
どちらも柔らかい顔つきで表され、女性の願いを受けてきた点が共通します。
見分けは姿勢です。如意輪観音は右手を頬に添えて考えこみ、右足を立てて座ります。准胝観音は正面を向いて座ります。
腕の数も違い、如意輪観音は六本、准胝観音は十八本が標準です。
准胝観音についてよくある質問
准胝観音とはどんな仏ですか。
密教で仏母と呼ばれ、あらゆる仏を生む母とされる尊格です。観音の一種に数えるのがふつうですが、観音ではないとする立場もあります。
准胝観音の読み方は。
「じゅんていかんのん」です。「准胝」は梵名チュンディーの音を漢字に写したもので、字そのものに意味はありません。
准胝観音はどう見分けますか。
蓮華座の下から二体の竜王が現れて座を支えます。目が三つ、腕が十八本という点と合わせて確かめます。
上醍醐の准胝堂は今もありますか。
ありません。平成二十年八月の落雷による火災で焼失しました。現在は下醍醐の観音堂に准胝観音を安置し、そこで参拝と納経を受け付けています。
准胝観音のご利益は何ですか。
子授けと安産が挙げられます。仏母という名にちなむもので、後宮の女性たちの信仰を集めた歴史があります。
准胝観音と併せて覚えたい言葉・用語
仏母(ぶつも)
あらゆる仏を生む母とされる尊格。准胝観音の別の呼び方。
七倶胝(しちくてい)
七千万を意味する数。准胝観音が生んだ仏の数を表す。
難陀竜王(なんだりゅうおう)
准胝観音の台座を支える竜王のひとつ。八大竜王にも数えられる。
西国三十三所(さいごくさんじゅうさんしょ)
近畿を中心とする三十三か所の観音霊場。准胝堂は第十一番。
秘仏(ひぶつ)
普段は扉を閉じ、決まった日にだけ開けて拝む仏像。