求めるままに願いをかなえるという名を持つ、八本腕の菩薩。
大随求菩薩とはどんな仏か
大随求菩薩をひとことで言えば願いを選ばない菩薩です。名の「随求」は「求めるものに随う」という意味で、願いの中身を問わずかなえると説かれます。
この菩薩の力は、唱えるより身につけることで働くとされます。真言を書いた紙を腕に巻く、あるいは首に掛ける。それだけで火にも水にも毒にも害されないと経典に説かれます。この真言を随求陀羅尼といいます。
日本ではこの教えが早くから受け入れられました。平安時代の遺跡や仏像の中から、随求陀羅尼を刷った紙が実際に見つかっています。印刷された護符としては、日本でもっとも古い部類に入ります。
京都の清水寺には随求堂があり、堂の下の暗闇をめぐって出てくる胎内めぐりで知られます。真っ暗な道を手さぐりで進み、途中で随求石に触れて願いをかけます。
一方で、大随求菩薩の像そのものは数がきわめて少なく、国が指定した彫刻は確かめられませんでした。
大随求菩薩の読み方と梵名
読みは「だいずいぐぼさつ」です。「ずいきゅう」ではありません。
「随求」は「求めるものに随う」という意味です。願いを選ばずかなえるという性格が、そのまま名になっています。
随求陀羅尼という真言の名も、ここから来ています。陀羅尼は長い呪文のことで、意味を訳さず音のまま唱えます。
大随求菩薩(だいずいぐぼさつ)
もっとも広く使われる形。
随求菩薩(ずいぐぼさつ)
略した形。
大随求明王(だいずいぐみょうおう)
明王として扱う例もある。
随求尊(ずいぐそん)
略した呼び方。
マハープラティサラー(Mahapratisara)
意味は「大いなる随い従うもの」。「マハー」が大、「プラティサラー」が随い従うことを指す。読みは「まはーぷらてぃさらー」。
大随求菩薩の見分け方(印相・持ち物・姿)
大随求菩薩の見分けは、八本の腕に握る道具の顔ぶれにあります。ただし日本では作例が少なく、絵で確かめることが多くなります。
腕 ─ 八本に八つの道具
腕は八本が標準です。それぞれに違う道具を握ります。
右の四手には五鈷杵・剣・鉞・三鈷戟、左の四手には蓮華・経巻・羂索・法輪を持つのが基本の形です。経典によって顔ぶれは前後します。
攻める道具と守る道具が混ざるのが特徴で、どんな願いにも応じるという性格を持ち物で表しています。
姿 ─ 黄色に塗られる
体の色は黄とされます。金色に近い色で塗られます。
顔は一つ、穏やかな表情です。腕が八本あるため全体としては強い印象を与えますが、忿怒の相はとりません。
宝冠をかぶり、瓔珞・腕釧・臂釧を着け、蓮華座に座ります。
護符としての形
大随求菩薩は、像より護符として広まりました。
随求陀羅尼を紙に刷り、中央にこの菩薩の姿を小さく描いた形の護符が作られました。それを折りたたんで筒に入れ、腕や首に付けます。
奈良の百万塔陀羅尼と並ぶ古い印刷物として、随求陀羅尼を刷った紙が仏像の胎内から見つかっています。 像を拝むより、身につけて持ち歩く仏でした。
菩薩か明王か
大随求菩薩は、明王として扱われることもあります。大随求明王という呼び方があるのはそのためです。
腕が八本あり、武器を握るという姿は、菩薩より明王に近いものです。一方で顔は穏やかで、忿怒の相をとりません。
どちらの位階にも収まりきらない尊格で、分類は寺や宗派によって揺れます。
大随求菩薩のご利益
所願成就
求めるままにかなえるという名にちなむ。
厄除け
陀羅尼を身につければ害されないと説かれる。
安産
難産の女性が陀羅尼を身につけたという記述による。
延命
毒や火から守るとされることによる。
大随求菩薩に会える寺
大随求菩薩の彫刻で、国が指定したものは確かめられませんでした。 文化庁の国指定文化財等データベースで検索しても、該当がありません。
会いに行ける場所としては、京都の清水寺の随求堂が知られます。ただし本尊は秘仏で、普段は扉が閉じられています。堂の下の胎内めぐりは、像を見ないまま暗闇のなかでこの菩薩に触れる仕掛けです。
そのほか、随求陀羅尼を刷った護符が各地の寺で授けられてきました。像として拝むより、身につけて持ち歩く形で広まった仏です。
清水寺 随求堂(きよみずでら ずいぐどう)
国宝の本堂を持つ寺の塔頭堂宇
大随求菩薩を本尊とする堂です。堂の名がそのままこの菩薩の名になっています。
堂の下をめぐる胎内めぐりで知られます。真っ暗な道を数珠の手すりだけを頼りに進み、途中に置かれた随求石に触れて願いをかけます。
本尊は秘仏で、決まった年に開扉されます。大随求菩薩を寺の名だたる堂の本尊に据えた例は、全国でもここが代表格です。
所在地は公式サイトで確かめた。清水寺の本尊は十一面千手観世音菩薩で、こちらも秘仏。
大随求菩薩をめぐる仏のつながり
大随求菩薩の位階と、似た仏との違い
大随求菩薩は菩薩に分類されます。ただし明王として扱われることもあります。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。大随求菩薩は菩薩に置かれるのがふつうです。
しかし腕が八本あり武器を握る姿は明王に近く、大随求明王という呼び方も行われてきました。
位階の分類に収まりきらない尊格で、どちらとも決めきれません。 同じような例に、密教の陀羅尼から生まれた尊格がいくつかあります。
准胝観音 ─ どちらも陀羅尼から生まれた
どちらも真言や陀羅尼を唱えることで力が働く尊格です。腕を多く持つ点も共通します。
見分けは腕の数です。准胝観音は十八本、大随求菩薩は八本が標準です。
准胝観音は足もとに二体の竜王が現れます。大随求菩薩には竜王が伴いません。
不空羂索観音 ─ 腕の数が近い
虚空蔵菩薩 ─ どちらも求めに応じる
どちらも求める者に与えるという性格を持ちます。虚空蔵菩薩は智慧と福徳、大随求菩薩は願いの中身を問いません。
見分けは腕の数です。虚空蔵菩薩は二本、大随求菩薩は八本です。
虚空蔵菩薩は右手に剣、左手に宝珠を持ちます。
大随求菩薩についてよくある質問
大随求菩薩とはどんな仏ですか。
「求めるものに随う」という名のとおり、願いの中身を問わずかなえると説かれる菩薩です。真言を身につけることで力が働くとされます。
大随求菩薩の読み方は。
「だいずいぐぼさつ」です。「ずいきゅう」とは読みません。
随求陀羅尼とは何ですか。
この菩薩の長い呪文です。紙に書いて腕や首につけると、火にも水にも毒にも害されないと説かれます。平安時代の遺跡から刷った紙が見つかっています。
清水寺の随求堂とは何ですか。
大随求菩薩を本尊とする堂です。堂の下の暗闇をめぐる胎内めぐりで知られ、途中の随求石に触れて願いをかけます。本尊は秘仏です。
大随求菩薩の像はどこで見られますか。
国が指定した彫刻は確かめられませんでした。京都の清水寺随求堂の本尊が知られますが、秘仏で普段は拝めません。
大随求菩薩と併せて覚えたい言葉・用語
随求陀羅尼(ずいぐだらに)
この菩薩の長い呪文。身につけて災いを避ける。
陀羅尼(だらに)
意味を訳さず音のまま唱える長い呪文。
胎内めぐり(たいないめぐり)
堂の下の暗闇をめぐる行。清水寺随求堂のものが知られる。
護符(ごふ)
身につけて災いを避ける札。随求陀羅尼を刷ったものがある。