明王でただひとつ、怒らない顔をする。孔雀に乗る。
孔雀明王とはどんな仏か
孔雀明王をひとことで言えば怒らない明王です。
明王は、言葉で導けない相手を力ずくで従わせるために、怒りの姿をとった仏です。不動明王も降三世明王も、目を見開き牙をむき、火を背負います。そのなかで孔雀明王だけが、穏やかな菩薩の顔をしています。
理由は乗り物にあります。孔雀は毒蛇や毒虫を食べても平気でいる鳥です。毒を食べて生き、しかも美しい羽を持つ。この性質が、煩悩を食べ尽くしても穢れない力の象徴になりました。
怒りで打ち破るのではなく、飲みこんで消してしまう。 孔雀明王の力の働き方は、ほかの明王と根本から違います。
雨乞いと除災の修法である孔雀経法の本尊とされ、国家の大事に修されてきました。空海が唐から持ち帰った修法のひとつです。
和歌山の金剛峯寺の孔雀堂には重要文化財の像があり、快慶の作と伝えられます。
孔雀明王の読み方と梵名
読みは「くじゃくみょうおう」です。
名は梵名マハーマーユーリーを意味で訳したものです。「マーユーリー」は雌の孔雀を指す語で、もともと女性名詞であることから、この尊格は女性として説かれることがあります。
仏母という呼び名も持ちます。あらゆる仏を生む母という意味で、准胝観音と同じ呼び方です。
孔雀明王(くじゃくみょうおう)
もっとも広く使われる形。
仏母大孔雀明王(ぶつもだいくじゃくみょうおう)
正式な形。
孔雀王母菩薩(くじゃくおうもぼさつ)
菩薩として扱う立場での呼び方。
摩訶摩瑜利(まかまゆり)
梵名の音を漢字に写した形。
マハーマーユーリー(Mahamayuri)
意味は「大いなる孔雀」。「マハー」が大、「マーユーリー」が雌の孔雀を指す。読みは「まはーまーゆーりー」。
孔雀明王の見分け方(印相・持ち物・姿)
孔雀明王の見分けは、怒っていない顔と孔雀にあります。この二つがそろえば、ほかに迷う相手はいません。
顔 ─ 明王で唯一の菩薩相
乗り物 ─ 孔雀の背に座る
孔雀の背に座ります。羽を扇のように広げた孔雀の上に、蓮華座を置いてその上に座る形が多く見られます。
鳥に乗る仏はほとんどありません。迦楼羅は鳥そのものの姿ですが、鳥に乗る仏は孔雀明王が代表格です。
孔雀は毒蛇を食べる鳥として、インドで古くから神聖視されてきました。
持ち物 ─ 四本の手に四つの品
腕は四本が標準です。それぞれに決まった持ち物があります。
右の手には開いた蓮華と倶縁果、左の手には吉祥果と孔雀の尾羽を持ちます。
倶縁果はレモンに似た果実、吉祥果はざくろとされます。武器をいっさい持たない明王は、この仏だけです。 剣も杵も羂索も握りません。
色と装い ─ 白い体
体の色は白とされます。清らかさを表す色です。
宝冠をかぶり、瓔珞・腕釧・臂釧を着けます。装いも菩薩の決まりに従います。
背に火焔光背を負う作例もありますが、不動明王のような激しい炎ではなく、穏やかな輪の形をとることが多くあります。
孔雀明王のご利益
雨乞い
孔雀経法が雨を祈る修法とされたことによる。
毒を消す
孔雀が毒蛇を食べることにちなむ。
病気平癒
毒を消す働きが病を除くことに重ねられた。
厄除け
除災の修法の本尊であることによる。
孔雀明王に会える寺
孔雀明王の彫刻は数が少なく、文化庁の国指定文化財等データベースで確かめられたのは和歌山の金剛峯寺孔雀堂の像でした。
孔雀経法は国家の大事に修される修法だったため、修法のたびに掛けられる絵が中心となり、堂に据える像は多く造られませんでした。
「孔雀堂」という名の堂を持つ寺があれば、そこは孔雀明王を祀ってきた場所です。 名前が手がかりになる、めずらしい仏です。
金剛峯寺 孔雀堂(こんごうぶじ くじゃくどう)
重要文化財
孔雀明王を本尊とする堂です。堂の名がそのままこの明王の名になっています。
文化庁の国指定文化財等データベースでは、所有者が宗教法人金剛峯寺と記されています。
快慶の作と伝えられます。孔雀明王の彫刻で国の指定を受けたものは数が少なく、この像が代表格です。
同じ寺には国宝の木造八大童子立像、重要文化財の木造執金剛神立像・深沙大将立像もある。所在地は公式サイトで確かめた。
孔雀明王をめぐる仏のつながり
孔雀明王の位階と、似た仏との違い
孔雀明王は明王の位に置かれます。ただし忿怒の相をとらない、唯一の例外です。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。孔雀明王は明王です。
明王は、大日如来が言葉で導けない相手のためにとった怒りの姿だとされます。その定義から外れるのが孔雀明王で、穏やかな顔をしています。
そのため孔雀王母菩薩として菩薩に数える立場もあります。位階の枠に収まりきらない尊格で、分類は宗派によって揺れます。
不動明王 ─ 怒るか怒らないか
同じ明王でありながら、姿が正反対です。
不動明王は目を見開き牙をむき、剣と羂索を握り、火焔を背負います。 孔雀明王は穏やかな顔で、武器を持たず、孔雀に乗ります。
明王という位階の中身が、この二体でどれだけ幅を持つかがわかります。
迦楼羅 ─ どちらも鳥に関わる
どちらも鳥と結びつきます。迦楼羅は鳥そのものの姿、孔雀明王は孔雀に乗る姿です。
位階も違います。孔雀明王は明王、迦楼羅は天部です。
迦楼羅は蛇を食べる鳥とされ、孔雀も毒蛇を食べます。蛇を食う鳥という共通の性格が、二つの尊格の根にあります。
准胝観音 ─ どちらも仏母と呼ばれる
どちらも「仏母」という呼び名を持ちます。あらゆる仏を生む母という意味です。
見分けは乗り物と腕の数です。孔雀明王は孔雀に乗り腕は四本、准胝観音は蓮華座に座り腕は十八本です。
准胝観音の足もとには二体の竜王が現れます。
孔雀明王についてよくある質問
孔雀明王とはどんな仏ですか。
孔雀に乗る明王です。明王のなかでただひとつ怒りの相をとらず、穏やかな菩薩の顔をしています。
なぜ孔雀明王は怒らないのですか。
孔雀が毒蛇や毒虫を食べても平気でいることにちなみます。怒りで打ち破るのではなく、飲みこんで消してしまう力の働き方によります。
孔雀明王はどう見分けますか。
孔雀の背に座り、穏やかな顔をしています。四本の手に蓮華・倶縁果・吉祥果・孔雀の尾羽を持ち、武器を持ちません。
孔雀経法とは何ですか。
孔雀明王を本尊とする修法です。雨乞いと除災のために行われ、国家の大事に修されてきました。空海が唐から持ち帰った修法のひとつです。
孔雀明王の像はどこで見られますか。
和歌山の金剛峯寺孔雀堂に重要文化財の像があり、快慶の作と伝えられます。孔雀明王の彫刻で国指定のものは数が限られます。
孔雀明王と併せて覚えたい言葉・用語
孔雀経法(くじゃくきょうほう)
孔雀明王を本尊とする修法。雨乞いと除災を祈る。
倶縁果(ぐえんか)
レモンに似た果実。孔雀明王の持ち物のひとつ。
吉祥果(きちじょうか)
ざくろとされる果実。孔雀明王や鬼子母神が持つ。
仏母(ぶつも)
あらゆる仏を生む母とされる呼び名。
快慶(かいけい)
鎌倉時代の仏師。運慶と並ぶ。孔雀明王像の作者と伝えられる。