不動明王の左にひかえる、素直で従順な少年。
矜羯羅童子とはどんな仏か
矜羯羅童子をひとことで言えば素直な少年です。不動明王に従う二童子のうちの一体で、向かって右、不動明王から見て左に立ちます。
この像の面白さは、性格が姿にそのまま出ていることです。合掌した両手のあいだに独鈷杵をはさみ、わずかに首をかしげて不動明王を仰ぎ見ます。顔は柔らかく、逆らう気配がありません。
もう一体の制多迦童子は、まったく逆です。体は赤く、眉を寄せ、口をとがらせ、金剛棒を握って身構えます。
従う心と逆らう心の両方を、不動明王が左右に従えている。 人の心の二面をそのまま像にしたものだといえます。
十五歳ほどの少年の姿で、髪を頭上で束ねます。名の「矜羯羅」は「従順なもの」を意味します。
千葉の新勝寺、和歌山の金剛峯寺に国指定の像が伝わります。
矜羯羅童子の読み方と梵名
読みは「こんがらどうじ」です。
「矜羯羅」は梵名キンカラの音を漢字に写したもので、字そのものに意味はありません。
梵名キンカラは「何をなすべきかと問う者」を指す語で、主人の命令を待つ従者を意味します。従順という性格が、名そのものに込められています。
「こんがらがる」という日ごろの言葉との関係を言う説もありますが、確かなことはわかっていません。
矜羯羅童子(こんがらどうじ)
もっとも広く使われる形。
矜迦羅童子(こんがらどうじ)
「迦」の字を当てた形。
金伽羅童子(こんがらどうじ)
「金伽羅」と書く例もある。
二童子(にどうじ)
制多迦童子とあわせた呼び方。文化財の名称に使われる。
キンカラ(Kimkara)
意味は「何をなすべきかと問うもの」。命令を待つ従者を指す語。読みは「きんから」。
矜羯羅童子の見分け方(印相・持ち物・姿)
矜羯羅童子の見分けは、合掌した手と、赤くない体にあります。もう一体の制多迦童子と並べれば、迷う余地はありません。
手 ─ 合掌して独鈷杵をはさむ
両手を合わせ、その指のあいだに独鈷杵をはさみます。
独鈷杵は両端がとがった短い法具です。合掌した手のあいだから、上下に突き出て見えます。
合掌しながら法具を持つという形は、この童子だけのものです。 制多迦童子は合掌せず、金剛棒と三鈷杵を左右に握ります。
体の色 ─ 白または肉色
体の色は白、あるいは肉色とされます。
制多迦童子が赤であるのと、はっきり対をなします。彩色が残っている像では、この色の違いがいちばんわかりやすい目印になります。
彩色が落ちた像では、手の形で判じることになります。
顔と姿勢 ─ 首をかしげて仰ぎ見る
顔は柔らかく、目を細めます。首をわずかにかしげて、不動明王を仰ぎ見ます。
姿勢はまっすぐで、腰を落としません。制多迦童子が腰を落として身構えるのとは対照的です。
髪は頭上で束ね、少年らしい丸みのある顔つきに彫られます。
立ち位置 ─ 向かって右
不動明王から見て左、参拝する側から見て右に立ちます。
三尊形式では、中央の不動明王が大きく、左右の童子は小さく造られます。大きさの差が、主従の関係を示します。
位置が入れ替わる作例もあるため、手の形と体の色で確かめるのが確実です。
矜羯羅童子のご利益
素直さを得る
従順を体で表した像であることによる。
厄除け
不動明王の眷属として災いを払う。
子どもの成長
少年の姿であることによる。
学業成就
教えに素直に従う姿にちなむ。
矜羯羅童子に会える寺
矜羯羅童子は、不動明王の脇侍として会うのがふつうです。単独で祀られる例はほとんどありません。
文化財の名称も「木造不動明王及二童子像」のように、不動明王とまとめて登録されるのが基本です。矜羯羅童子だけを名に掲げた国指定の像は見あたりません。
ここに挙げたのは、所有者が寺であることを文化庁の国指定文化財等データベースで確かめられたものだけです。
新勝寺(しんしょうじ)
重要文化財
不動明王と矜羯羅・制多迦の二童子がそろう三躯です。
文化庁の国指定文化財等データベースでは、三躯ひとまとまりで重要文化財に登録され、所有者は新勝寺と記されています。
成田山として広く知られる寺で、本尊の不動明王は弘法大師が刻んだと伝えられます。二童子がそろって残る三尊形式の代表例です。
文化庁の国指定文化財等データベースで確かめた。
金剛峯寺 不動堂(こんごうぶじ ふどうどう)
国宝
八大童子のうち六躯が国宝に指定されています。矜羯羅童子はその一躯にあたります。
文化庁の国指定文化財等データベースの名称には「恵光、恵喜、烏倶婆誐、清浄比丘、矜羯羅、制多伽」と六体の名が記されています。所有者は宗教法人金剛峯寺です。
運慶の作とされ、鎌倉彫刻の頂点のひとつに数えられます。
同じ寺には重要文化財の木造孔雀明王像もある。所在地は公式サイトで確かめた。
与田寺(よだじ)
重要文化財
与田寺の住所:香川県(文化庁の国指定文化財等データベースで所有者を確認。詳しい住所は公式の情報を確かめられませんでした)
像:木造不動明王及童子像 二躯/重要文化財
この像に結び付く願い:子どもの成長
不動明王と童子が二躯まとめて重要文化財に登録されています。
文化庁の国指定文化財等データベースで、所有者が与田寺と記されています。
三躯そろわず、不動明王と童子一体だけが残った例です。 二童子のうち片方を失った組み合わせが各地にあります。
所有者は文化庁の国指定文化財等データベースで確認した。
矜羯羅童子をめぐる仏のつながり
矜羯羅童子の位階と、似た仏との違い
矜羯羅童子は明王の枠に置かれます。不動明王に仕える眷属です。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。矜羯羅童子は不動明王の眷属なので、明王の枠に含めて扱われます。
ただし本来は仕える側の存在で、明王そのものではありません。天部に近い性格を持ちます。
眷属を独立した位階として立てないため、仕える相手の枠に入れているというのが実情です。 十二神将が薬師如来の眷属でありながら天部に置かれるのと同じ事情です。
制多迦童子 ─ 対になる相手
不動明王の左右にひかえる二童子です。性格が正反対に造られます。
矜羯羅童子は白い体で合掌し、素直に仰ぎ見ます。制多迦童子は赤い体で金剛棒を握り、不機嫌な顔をします。
体の色と手の形を見れば、迷いようがありません。
八大童子 ─ 二童子はその一部
八大童子には矜羯羅・制多迦の二童子が含まれます。二童子は八大童子の一部にあたります。
八大童子には、ほかに恵光・恵喜・阿耨達・指徳・烏倶婆誐・清浄比丘が加わります。
二童子だけの三尊形式より、八大童子をそろえるほうが格の高い構えとされました。
矜羯羅童子についてよくある質問
矜羯羅童子とはどんな仏ですか。
不動明王に従う二童子のうちの一体です。素直で従順な性格を体で表した像で、合掌して不動明王を仰ぎ見ます。
矜羯羅童子の読み方は。
「こんがらどうじ」です。梵名キンカラの音を漢字に写したもので、「何をなすべきかと問う者」を意味します。
制多迦童子とはどう見分けますか。
体の色と手の形で分かれます。矜羯羅童子は白い体で合掌し、制多迦童子は赤い体で金剛棒を握ります。
矜羯羅童子はどちら側に立ちますか。
不動明王から見て左、参拝する側から見て右に立つのが基本です。ただし入れ替わる作例もあります。
矜羯羅童子の像はどこで見られますか。
千葉の新勝寺に不動明王と二童子の重要文化財、和歌山の金剛峯寺不動堂に国宝の八大童子があります。
矜羯羅童子と併せて覚えたい言葉・用語
独鈷杵(とっこしょ)
両端がとがった短い法具。矜羯羅童子が合掌した手にはさむ。
二童子(にどうじ)
矜羯羅童子と制多迦童子。不動明王の左右にひかえる。
眷属(けんぞく)
主となる仏に仕える者たち。
三尊形式(さんぞんけいしき)
中尊と両脇侍の三体で組む形。