人を食らう鬼神から、仏法を守る側に回った者たち。
夜叉とはどんな仏か
夜叉をひとことで言えば改心した鬼たちです。
もとは森や山に住み、人を襲って食うとされた鬼神でした。仏教に取りこまれ、仏法を守る側に回ります。八部衆の一員に数えられます。
一体の名ではなく、種族の名である点がほかと違います。個人ではなく一族です。毘沙門天の配下として大勢が仕え、十二神将ももとは夜叉の首領たちだったとされます。
名に「夜叉」を含む尊格も数多くあります。金剛夜叉明王、軍荼利夜叉明王などです。いずれも、もと鬼神であった来歴を名に残しています。
姿は忿怒の相で、牙をむき、髪を逆立てます。
怖ろしい者を、怖ろしいまま味方にする。 この考え方が、仏教の護法神の作り方の基本にあります。夜叉はその典型です。
京都の東寺には、木造夜叉神立像二躯が重要文化財として伝わります。
夜叉の読み方と梵名
読みは「やしゃ」です。
「夜叉」は梵名ヤクシャの音を漢字に写したもので、字そのものに意味はありません。「薬叉」と書く例もあります。
女性の夜叉は夜叉女と呼ばれます。日ごろ使う「夜叉のような」という言い回しは、この鬼神の恐ろしさに由来します。 ただし仏教では、すでに仏法を守る側に回った存在です。
夜叉(やしゃ)
もっとも広く使われる形。
夜叉神(やしゃじん)
文化財の名称に使われる形。
薬叉(やくしゃ)
「薬」の字を当てた形。
夜叉女(やしゃにょ)
女性の夜叉を指す呼び方。
ヤクシャ(Yaksa)
意味は「捷疾なるもの」。素早く動く者を指す語。「夜叉」はこの音を漢字に写したもの。読みは「やくしゃ」。
夜叉の見分け方(印相・持ち物・姿)
夜叉の見分けは、忿怒の相と、誰に仕えているかにあります。一族の名であるため、姿は一定しません。
顔 ─ 牙をむき髪を逆立てる
忿怒の相をとります。目を見開き、牙をむき、髪を逆立てます。
ただしこれは明王・四天王・十二神将にも共通する特徴です。顔つきだけで夜叉と判じることはできません。
体つきは筋肉を誇張し、動きの激しい姿勢をとる作例が多く見られます。
一族の名 ─ 個人ではない
夜叉は種族の名です。特定の一体を指しません。
そのため「夜叉」という名の像は少なく、多くは十二神将や八部衆の一員として、あるいは毘沙門天の配下として造られます。
京都の東寺の「木造夜叉神立像」は、夜叉そのものを名に掲げた数少ない例です。
名に残る夜叉
金剛夜叉明王、軍荼利夜叉明王のように、名に「夜叉」を含む尊格があります。
いずれも、もと鬼神であった来歴を名に残したものです。
十二神将も、もとは夜叉の首領たちとされます。仏法を守る武神の多くが、夜叉から出ていることになります。
毘沙門天との関係
夜叉は毘沙門天の配下とされます。
毘沙門天は北方を守る武神で、財宝をつかさどります。その配下として夜叉たちが従うという構えです。
インドでは、夜叉はもともと土地や財宝を守る精霊でした。財宝と結びつく性格が、毘沙門天との関係に残っています。
夜叉のご利益
厄除け
仏法を守る鬼神であることによる。
悪を退ける
もと鬼神であった力にちなむ。
財を守る
インドで財宝を守る精霊とされたことによる。
土地の守り
森や山に住むとされたことによる。
夜叉に会える寺
夜叉は一族の名であるため、「夜叉」という名の像は多くありません。
京都の東寺の木造夜叉神立像が、その数少ない例です。ここに挙げたのは、所有者が寺であることを文化庁の国指定文化財等データベースで確かめられたものだけです。
実際には、十二神将・八部衆・毘沙門天の配下といった形で、各地の寺に数多くの夜叉が立っています。名を掲げていないだけで、会う機会はむしろ多い尊格です。
東寺(とうじ)
重要文化財
夜叉そのものを名に掲げた、数少ない国指定の像です。二躯一組で伝わります。
文化庁の国指定文化財等データベースでは、所有者が宗教法人教王護国寺と記されています。教王護国寺は東寺の正式な寺号です。
同じ寺の講堂には国宝の五大明王像があり、忿怒の相をとる尊格を位階ごとに見比べられます。
同じ寺には国宝の木造兜跋毘沙門天立像もある。
夜叉をめぐる仏のつながり
夜叉の位階と、似た仏との違い
夜叉は天部の位に置かれます。八部衆の一員に数えられます。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。夜叉は天部です。
天部のなかでは、もと悪しき者が転じた組に入ります。阿修羅・荼枳尼天・鬼子母神なども同じ来歴を持ちます。
一体の名ではなく種族の名である点が、ほかの尊格と大きく違います。 十二神将も八部衆の一員も、もとをたどれば夜叉です。
金剛夜叉明王 ─ 名に「夜叉」を含む
金剛夜叉明王は、もと夜叉だったとされます。同じ由来を持ちますが、位階が違います。
夜叉は天部、金剛夜叉明王は明王です。
見分けは目の数です。金剛夜叉明王は正面の顔に五つの目を持ちます。夜叉にそうした決まりはありません。
十二神将 ─ もとは同じ一族
十二神将は、もとは夜叉の首領たちとされます。同じ一族から出た者たちです。
見分けは数と装いです。十二神将は十二体一組で、甲冑を着け、頭上に十二支の動物を戴くことがあります。
十二神将は薬師如来に仕えます。夜叉は毘沙門天の配下とされます。
阿修羅 ─ 八部衆どうし
どちらも八部衆に数えられ、もとは仏教の外にいた者です。
性格が違います。 阿修羅は帝釈天と争い続けた者、夜叉は人を襲って食った者です。
姿も違い、阿修羅は三つの顔と六本の腕を持ちます。夜叉に決まった姿はありません。
夜叉についてよくある質問
夜叉とは何ですか。
もとは人を襲って食うとされた鬼神で、仏教に取りこまれて仏法を守る側に回りました。一体の名ではなく種族の名です。
夜叉はどう見分けますか。
忿怒の相をとりますが、これは明王や四天王とも共通します。一族の名であるため決まった姿がなく、顔つきだけで判じることはできません。
十二神将と夜叉の関係は。
十二神将は、もとは夜叉の首領たちとされます。同じ一族から出た者たちです。
名に「夜叉」を含む仏はいますか。
金剛夜叉明王、軍荼利夜叉明王などがあります。いずれももと鬼神であった来歴を名に残したものです。
夜叉の像はどこで見られますか。
京都の東寺に木造夜叉神立像二躯が重要文化財としてあります。夜叉そのものを名に掲げた数少ない例です。
夜叉と併せて覚えたい言葉・用語
夜叉女(やしゃにょ)
女性の夜叉。十羅刹女もこれにあたる。
八部衆(はちぶしゅう)
仏法を守る八種の者たち。夜叉はその一員。
教王護国寺(きょうおうごこくじ)
東寺の正式な寺号。
護法神(ごほうしん)
仏法を守る神々。天部の別の呼び方。