不動明王の右にひかえる、赤い体の反抗的な少年。
制多迦童子とはどんな仏か
制多迦童子をひとことで言えば不機嫌な少年です。不動明王に従う二童子のうちの一体で、向かって左、不動明王から見て右に立ちます。
体が赤いのがいちばんの目印です。眉を寄せ、口をとがらせ、明らかに不服そうな顔をします。右手に金剛棒、左手に三鈷杵を握り、腰を落として身構えます。
もう一体の矜羯羅童子は、まったく逆です。白い体で合掌し、素直に不動明王を仰ぎ見ます。
従う心と逆らう心の両方を、不動明王が左右に従えている。 人の心には素直な面と反発する面の両方がある。その両方を引き受けるのが不動明王だ、という考え方が、この二体の対比に込められています。
逆らう心を捨てさせるのではなく、そのまま従える。 密教らしい発想がここにも表れています。
千葉の新勝寺、和歌山の金剛峯寺に国指定の像が伝わります。
制多迦童子の読み方と梵名
読みは「せいたかどうじ」です。
「制多迦」は梵名チェータカの音を漢字に写したもので、字そのものに意味はありません。「制吒迦」「制多伽」と書く例もあります。
梵名チェータカは「召し使い」を指す語です。矜羯羅童子の梵名キンカラも従者を意味しており、二体とも「仕える者」という名を持ちます。
背が高いという意味の「せいたか」と結びつける説もありますが、当て字であり関係はありません。
制多迦童子(せいたかどうじ)
もっとも広く使われる形。
制吒迦童子(せいたかどうじ)
「吒」の字を当てた形。
制多伽童子(せいたかどうじ)
文化財の名称にはこの字が使われることがある。
二童子(にどうじ)
矜羯羅童子とあわせた呼び方。
チェータカ(Cetaka)
意味は「召し使い」。仕える者を指す語。読みは「ちぇーたか」。
制多迦童子の見分け方(印相・持ち物・姿)
制多迦童子の見分けは、赤い体と不機嫌な顔にあります。仏像で不服そうな顔をしている少年は、この童子だけです。
体の色 ─ 赤
体の色は赤とされます。彩色が残っている像では、遠目にもはっきりわかります。
矜羯羅童子が白または肉色であるのと、はっきり対をなします。
彩色が落ちた像では、手の形と表情で判じることになります。 赤は怒りと活力を表す色です。
持ち物 ─ 金剛棒と三鈷杵
右手に金剛棒、左手に三鈷杵を握ります。
金剛棒は先が太い棍棒で、打ち据える武器です。三鈷杵は先が三つに分かれた法具です。
矜羯羅童子が合掌するのに対し、制多迦童子は両手に武器を握って構えます。 手を合わせるか、武器を持つか。この違いが二体を分けます。
顔と姿勢 ─ 眉を寄せ、腰を落とす
眉を寄せ、目を見開き、口をとがらせます。明らかに不機嫌な顔です。
腰を落とし、片足を踏み出して身構えます。今にも動き出しそうな姿勢です。
矜羯羅童子がまっすぐ立って首をかしげるのとは対照的です。仏像で不服そうな表情を彫った例は、この童子のほかにほとんどありません。
立ち位置 ─ 向かって左
不動明王から見て右、参拝する側から見て左に立ちます。
三尊形式では、中央の不動明王が大きく、左右の童子は小さく造られます。
位置が入れ替わる作例もあるため、体の色と持ち物で確かめるのが確実です。
制多迦童子のご利益
悪縁を断つ
金剛棒で打ち据える姿にちなむ。
厄除け
不動明王の眷属として災いを払う。
負けない心
反抗的な性格を体で表した像であることによる。
子どもの成長
少年の姿であることによる。
制多迦童子に会える寺
制多迦童子は、不動明王の脇侍として会うのがふつうです。単独で祀られる例はほとんどありません。
文化財の名称も「木造不動明王及二童子像」のように、不動明王とまとめて登録されるのが基本です。制多迦童子だけを名に掲げた国指定の像は見あたりません。
ここに挙げたのは、所有者が寺であることを文化庁の国指定文化財等データベースで確かめられたものだけです。
新勝寺(しんしょうじ)
重要文化財
不動明王と矜羯羅・制多迦の二童子がそろう三躯です。
文化庁の国指定文化財等データベースでは、三躯ひとまとまりで重要文化財に登録され、所有者は新勝寺と記されています。
二体の童子が並ぶことで、赤と白、武器と合掌という対比をその場で確かめられます。
文化庁の国指定文化財等データベースで確かめた。
金剛峯寺 不動堂(こんごうぶじ ふどうどう)
国宝
八大童子のうち六躯が国宝に指定されています。制多迦童子はその一躯にあたります。
文化庁の国指定文化財等データベースの名称にも「制多伽」の名が記されています。所有者は宗教法人金剛峯寺です。
運慶の作とされ、少年たちの顔が一体ずつ彫り分けられています。
所在地は公式サイトで確かめた。
長安寺(ちょうあんじ)
重要文化財
長安寺の住所:大分県(文化庁の国指定文化財等データベースで所有者を確認。詳しい住所は公式の情報を確かめられませんでした)
像:木造太郎天及二童子立像 三躯/重要文化財
この像に結び付く願い:悪縁を断つ
太郎天という珍しい尊格と、二童子がそろう三躯です。
太郎天は九州の一部に伝わる尊格で、不動明王と結びつけられます。二童子はその脇にひかえます。
文化庁の国指定文化財等データベースで、所有者が長安寺と記されています。不動明王ではない中尊に二童子が付く、めずらしい例です。
所有者は文化庁の国指定文化財等データベースで確認した。
制多迦童子をめぐる仏のつながり
制多迦童子の位階と、似た仏との違い
制多迦童子は明王の枠に置かれます。不動明王に仕える眷属です。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。制多迦童子は不動明王の眷属なので、明王の枠に含めて扱われます。
ただし本来は仕える側の存在で、明王そのものではありません。眷属を独立した位階として立てないため、仕える相手の枠に入れているというのが実情です。
同じ事情の尊格に、矜羯羅童子と八大童子があります。
矜羯羅童子 ─ 対になる相手
不動明王の左右にひかえる二童子です。性格が正反対に造られます。
制多迦童子は赤い体で金剛棒を握り、不機嫌な顔をします。矜羯羅童子は白い体で合掌し、素直に仰ぎ見ます。
体の色と手の形を見れば、迷いようがありません。
不動明王 ─ 主と従
制多迦童子は不動明王に仕えます。主と従の関係です。
見分けは大きさです。三尊形式では不動明王が大きく、童子は小さく造られます。
不動明王は剣と羂索を持ち、背に火焔を負います。制多迦童子は金剛棒と三鈷杵を握り、火は背負いません。
金剛力士 ─ どちらも怒りを表に出す
どちらも眉を寄せ、力を込めた表情をします。ただし年齢と役目が違います。
金剛力士は筋肉を誇張した大人の姿で、寺の門を守ります。制多迦童子は少年の姿で、不動明王の脇にひかえます。
金剛力士は天部、制多迦童子は明王の眷属です。
制多迦童子についてよくある質問
制多迦童子とはどんな仏ですか。
不動明王に従う二童子のうちの一体です。赤い体で不機嫌な顔をし、金剛棒と三鈷杵を握って身構えます。
制多迦童子の読み方は。
「せいたかどうじ」です。梵名チェータカの音を漢字に写したもので、「召し使い」を意味します。
なぜ不機嫌な顔をしているのですか。
素直な矜羯羅童子と対をなすためです。人の心には従う面と逆らう面の両方がある。その両方を不動明王が引き受けるという考え方が込められています。
矜羯羅童子とはどう見分けますか。
体の色と手の形で分かれます。制多迦童子は赤い体で武器を握り、矜羯羅童子は白い体で合掌します。
制多迦童子の像はどこで見られますか。
千葉の新勝寺に不動明王と二童子の重要文化財、和歌山の金剛峯寺不動堂に国宝の八大童子があります。
制多迦童子と併せて覚えたい言葉・用語
金剛棒(こんごうぼう)
先が太い棍棒。制多迦童子が右手に握る。
三鈷杵(さんこしょ)
先が三つに分かれた密教の法具。
太郎天(たろうてん)
九州の一部に伝わる尊格。不動明王と結びつけられる。
眷属(けんぞく)
主となる仏に仕える者たち。