十二天の一員として西北を守る尊格。風をはらんだ袋を抱える。
風天とはどんな仏か
風天をひとことで言えば風そのものの尊格です。十二天では西北を受け持ちます。
梵名ヴァーユは、インドで風をつかさどった古い尊格です。目に見えないものを尊格として立てた、早い例のひとつにあたります。
姿の目印ははっきりしています。風をはらんだ袋を抱えるか、風になびく幢幡を掲げます。 髭をたくわえた老人の姿で表されることが多く、衣が大きく翻ります。
動きを彫刻や絵に写した数少ない例です。 静かに立つ尊格が多いなかで、風天だけは常に何かが吹いている姿で表されます。
風天の読み方と梵名
読みは「ふうてん」です。「ふてん」と読む場合もあります。
「風天」は梵名ヴァーユを意味で訳した形で、音で写した形が「縛庾」です。
「風神」とも呼ばれますが、この語は風にまつわる対象を広く指すため、十二天の風天だけを指す言葉ではありません。 雷神と対になって描かれる風神とも、由来をたどれば重なる部分があります。
風天(ふうてん)
もっとも広く使われる形。
風天(ふてん)
短く読む形。
縛庾(ばゆ)
梵名の音を漢字に写した形。
風神(ふうじん)
性格で呼んだ形。厳密には同じではない。
ヴァーユ(Vayu)
意味は「風」。インドで風をつかさどった古い尊格。息そのものを指す語でもある。読みは「う゛ぁーゆ」。
風天の見分け方(印相・持ち物・姿)
風をはらんだ袋が決め手です。袋を抱えていれば風天と考えてよいでしょう。
持ち物 ─ 風袋
風をはらんで膨らんだ袋を抱えます。 袋の口から風が吹き出す形に描かれます。
目に見えない風を、袋という入れ物によって目に見えるようにした工夫です。
屏風や絵に描かれる風神が袋を担ぐ姿も、この形につながっています。
持ち物 ─ 幢幡
袋のかわりに、風になびく幢幡という旗を掲げる形もあります。
旗がたなびく向きで、風が吹いていることを示します。袋よりも古い形と考えられています。
どちらの持ち物であっても、衣と天衣が大きく翻る点は共通します。
姿 ─ 髭の老人
髭をたくわえた老人の姿で表されることが多く、火天と似た印象になります。
見分けは持ち物と火焔です。火天は背に炎を負い、火炉を持ちます。風天は炎を負わず、袋か旗を持ちます。
甲冑を着けることはなく、唐風の衣をまといます。
性格 ─ 恵みと災いの両方
風は作物を実らせもすれば、家を倒しもします。この両面が、そのまま尊格の性格になっています。
順風を願う祈りにも、暴風を鎮める祈りにも名が出ます。
恵みと災いを同じ一体が受け持つという点で、水天や火天とも共通する性格です。
風天のご利益
風難除け
暴風を鎮めるとされることによる。
航海の順風
風をつかさどるとされることによる。
西北の守り
十二天のうち西北を受け持つことによる。
道場の清め
灌頂の儀式で場を囲むことによる。
風天に会える寺
風天の像を安置する寺は確かめられませんでした。
文化庁の国指定文化財等データベースには、重要文化財の木造十二天面七面が登録されています。梵天・帝釈天・多聞天・風天・日天・火天・自在天の七面で、そのなかに風天が含まれます。
ただしこれは面であって、丸彫りの像ではありません。 所有者も独立行政法人国立文化財機構で、寺ではありません。博物館に預けられているため、会えるのは展示に出ているときだけです。
絵であれば、国宝の絹本著色十二天像が奈良の西大寺と京都の東寺(教王護国寺)に伝わり、その一員として風天が描かれます。
袋を担ぐ姿だけを見たいのであれば、風神雷神を描いた作品のほうが目にする機会は多いでしょう。ただしそれらは十二天の風天とは別に育った表し方です。
風天をめぐる仏のつながり
風天の位階と、似た仏との違い
風天は天部の位に置かれます。十二天の一員として西北を受け持ちます。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。風天は天部です。
天部のなかでは、火天・水天・地天とともに自然そのものを受け持つ組にあたります。目に見えないものを尊格として立て、袋という道具で形にした点が、風天の面白さです。
火天 ─ どちらも髭の老人の姿
どちらも髭をたくわえた老人として彫られます。 十二天のなかで紛らわしい組み合わせです。
見分けは火焔と持ち物です。火天は背に炎を負い、三角の火炉を持ちます。風天は炎を負わず、袋か旗を持ちます。
方角も違います。火天は東南、風天は西北です。
水天 ─ 自然を受け持つ者どうし
どちらも自然そのものを受け持ちます。水天は水、風天は風です。
見分けは乗り物と持ち物です。水天は亀に乗って剣と羂索を持ちます。風天は乗り物を持たず、袋を抱えます。
どちらも恵みと災いの両面を持つ点で似ています。
十二天 ─ 組と、その一員
風天は十二天の一員です。四方の四体に四隅の四体を加えた八方天のうち、西北を受け持ちます。
十二天として掛けるときは十二体そろって意味を持ちます。風天は、面として現存する七面のなかに含まれる数少ない一体です。
風天についてよくある質問
風天はどう見分けますか。
風をはらんだ袋を抱えるか、なびく幢幡を掲げます。髭の老人の姿で、衣が大きく翻ります。
風天と風神は同じものですか。
由来をたどれば重なりますが、同じではありません。「風神」は風にまつわる対象を広く指す語で、十二天の風天だけを指すわけではありません。
風天の像はどこで見られますか。
寺が持つ国指定の彫刻は確かめられませんでした。重要文化財の木造十二天面に風天の面がありますが、これは面で、所有者は国立文化財機構です。
火天と見分けがつきません。
どちらも髭の老人ですが、火天は背に火焔を負い火炉を持ちます。風天は炎を負わず、袋か旗を持ちます。
風天に祈ると何を願うのですか。
暴風を鎮めること、航海に順風を得ることです。恵みと災いの両面を受け持つ尊格とされます。
風天と併せて覚えたい言葉・用語
幢幡(どうばん)
長い竿に付けた旗。堂内の荘厳にも使われる。
天衣(てんね)
天部や菩薩が肩から垂らす長い布。
八方天(はっぽうてん)
十二天から上下と日月を除いた八体。四方と四隅を守る。