十二天の一員として東北を守る尊格。大自在天と同じものとみる説がある。
伊舎那天とはどんな仏か
伊舎那天の読み方と梵名
読みは「いしゃなてん」です。
「伊舎那」は梵名イーシャーナの音を漢字に写したもので、字そのものに意味はありません。
同じ梵名から「自在天」という意味の訳も生まれています。 そのため文化財の名称に「自在天」とあるとき、伊舎那天を指す場合と大自在天を指す場合の両方があります。
伊舎那天(いしゃなてん)
もっとも広く使われる形。
伊沙那天(いしゃなてん)
字を替えた形。
自在天(じざいてん)
文化財の名称に見える形。大自在天と重なる。
伊舎那(いしゃな)
「天」を略した形。
イーシャーナ(Isana)
意味は「支配する者」。インドで最高の位にあったとされる尊格の別名。大自在天と同じ語から出る。読みは「いーしゃーな」。
伊舎那天の見分け方(印相・持ち物・姿)
三叉の戟と髑髏の杯、そして牛。この三つがそろえば伊舎那天です。
持ち物 ─ 三叉戟
先が三つに分かれた戟を持ちます。十二天のなかで三叉戟を持つのはこの一体だけです。
もとインドで最高の位にあったとされる尊格の持ち物が、そのまま受け継がれています。
もう一方の手には、血を満たしたとされる髑髏の杯を持ちます。
乗り物 ─ 牛
牛にまたがります。 焔摩天の水牛と紛らわしいところです。
見分けは顔と持ち物です。焔摩天は静かな顔で人頭幢を持ちます。伊舎那天は忿怒の相で三叉戟を持ちます。
乗り物だけで判じると、この二体は取り違えます。
顔 ─ 十二天でもっとも険しい
髪を逆立て、眉をひそめ、牙をむいた忿怒の相に彫られることが多いものです。
十二天の多くは静かな顔をしています。険しい顔をするのは伊舎那天と羅刹天です。
忌まれる方角である艮を守るという役目に、この顔が結びついていると考えられます。
方角 ─ 艮を守る
東北は艮といい、災いの入り口として忌まれてきました。
十二天では、そこを伊舎那天が受け持ちます。もっとも荒い一体を、もっとも警戒される方角に置く配置です。
方角の性格が、そこに立つ尊格の姿を決めた例といえます。
伊舎那天のご利益
鬼門の守り
東北の艮を受け持つことによる。
除災
忿怒の相で災いを退けるとされる。
悪を退ける
三叉戟を構えることによる。
道場の清め
灌頂の儀式で場を囲むことによる。
伊舎那天に会える寺
伊舎那天の像を安置する寺は確かめられませんでした。
文化庁の国指定文化財等データベースにある重要文化財の木造十二天面七面には、「自在天」の面が含まれます。梵天・帝釈天・多聞天・風天・日天・火天・自在天の七面です。
ただしこれは面であって、丸彫りの像ではありません。 所有者も独立行政法人国立文化財機構で、寺ではありません。博物館に預けられているため、会えるのは展示に出ているときだけです。
なお、この「自在天」が伊舎那天を指すのか大自在天を指すのかは、名称だけでは判じられません。二つの尊格を同じものとみる説と、別とみる説の両方があるためです。
絵であれば、国宝の絹本著色十二天像が奈良の西大寺と京都の東寺(教王護国寺)に伝わり、その一員として伊舎那天が描かれます。
伊舎那天をめぐる仏のつながり
伊舎那天の位階と、似た仏との違い
伊舎那天は天部の位に置かれます。十二天の一員として東北を受け持ちます。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。伊舎那天は天部です。
天部のなかでは、インドで最高の位にあったとされる尊格が、仏を守る側に回った典型にあたります。かつて最上位にいた者が、十二天の一員という持ち場に収まっている点が、この組み合わせの面白さです。
大自在天 ─ 同じものとみる説がある
梵名が同じ語から出ています。 そのため同一とみる説があります。
ただし十二天の列では、伊舎那天を東北に置き、大自在天を別に立てる場合もあります。どちらが正しいかは決着していません。
見分けの手がかりは並びです。十二天のなかで東北の位置にあれば伊舎那天として扱われます。
焔摩天 ─ どちらも牛に乗る
牛に乗る点が共通します。 十二天のなかで紛らわしい組み合わせです。
見分けは顔と持ち物です。焔摩天は静かな顔で人頭幢を持ち、南方に置かれます。伊舎那天は忿怒の相で三叉戟を持ち、東北に置かれます。
十二天の絵では、方角の位置を確かめるのがいちばん確実です。
降三世明王 ─ 大自在天との関わり
降三世明王は、大自在天とその妃を踏みつける姿で表されます。
伊舎那天を大自在天と同じとみる立場に立てば、十二天の一員として道場を守る一方で、明王に踏まれる側でもあることになります。
同じ尊格が、守る側にも従わされる側にも置かれる。 仏教が外の尊格を取り込むときの手つきが、ここに表れています。
伊舎那天についてよくある質問
伊舎那天はどう見分けますか。
三叉の戟を持ち、髑髏の杯を手にし、牛にまたがります。髪を逆立てた忿怒の相に彫られることが多い尊格です。
大自在天と同じものですか。
梵名が同じ語から出るため同一とみる説がありますが、十二天の列で別々に扱う場合もあり、決着していません。
なぜ東北を守るのですか。
東北は艮といい、災いの入り口として忌まれてきた方角です。十二天のうちもっとも荒い一体を、そこに置いた配置と考えられます。
伊舎那天の像はどこで見られますか。
寺が持つ国指定の彫刻は確かめられませんでした。重要文化財の木造十二天面に「自在天」の面がありますが、面であり、所有者は国立文化財機構です。
焔摩天と見分けがつきません。
どちらも牛に乗りますが、焔摩天は静かな顔で人頭幢を持ちます。伊舎那天は忿怒の相で三叉戟を持ちます。
伊舎那天と併せて覚えたい言葉・用語
艮(うしとら)
東北の方角。災いの入り口として忌まれてきた。
三叉戟(さんさげき)
先が三つに分かれた矛。伊舎那天の持ち物。
忿怒相(ふんぬそう)
眉をひそめ牙をむいた恐ろしい顔つき。