十二天の一員として南を守る尊格。閻魔王とは名の出どころが同じでも姿が違う。
焔摩天とはどんな仏か
焔摩天の読み方と梵名
読みは「えんまてん」です。「閻魔天」と書いても同じものを指します。
「焔」は炎を表す字です。ただし火をつかさどるのは火天で、焔摩天ではありません。字面から役目を推し量ると誤ります。
同じ梵名ヤマから、日本では焔摩天と閻魔王という二つの尊格が別々に育ちました。 名の出どころが同じでも、姿も役目も違います。
焔摩天(えんまてん)
もっとも広く使われる形。
閻魔天(えんまてん)
閻魔の字を当てた形。
夜摩天(やまてん)
梵名の音に近づけた形。
琰魔天(えんまてん)
古い経典に見える形。
ヤマ(Yama)
意味は「抑制するもの」。インドで死者の世界を治める者とされた。閻魔王も同じ語から生まれている。読みは「やま」。
焔摩天の見分け方(印相・持ち物・姿)
水牛に乗り、人の頭を先に付けた杖を持つ姿が決め手です。この二つがそろえば焔摩天です。
乗り物 ─ 水牛
持ち物 ─ 人頭幢
長い杖の先に、人の頭を彫り付けたものを持ちます。人頭幢、または檀拏幢と呼びます。
死者の世界を治める者であることを示す標です。杖の先の顔は目を閉じ、静かな表情に作られます。
もう一方の手は膝に置くか、印を結びます。武器は持ちません。
顔 ─ 忿怒ではない
焔摩天は恐ろしい顔に彫られません。 眉をひそめず、口も開かず、天冠をいただいた静かな顔をしています。
十二天のうち、険しい顔をするのは伊舎那天や羅刹天です。焔摩天はその組に入りません。
閻魔王の像が目を見開いて口を開くのと、ここではっきり分かれます。
装い ─ 唐風の衣
甲冑は着けません。唐風のゆったりした衣をまとい、天衣を垂らします。
十二天のうち甲冑を着けるのは毘沙門天と羅刹天で、焔摩天は着けない側です。
裾が水牛の背にかかる形に彫られ、絵ではその流れが見どころになります。
焔摩天のご利益
延命
寿命をつかさどるとされることによる。
除災
焔摩天供が災いを除く修法であることによる。
南方の守り
十二天のうち南を受け持つことによる。
道場の清め
灌頂の儀式で場を囲むことによる。
焔摩天に会える寺
焔摩天の像を安置する寺は確かめられませんでした。
文化庁の国指定文化財等データベースを調べても、焔摩天の名を持つ国指定の彫刻は見つかりません。十二天は儀式のたびに掛け替える絵として伝わったため、そもそも丸彫りの像が作られにくい尊格です。
会いたければ、絵を訪ねることになります。国宝の絹本著色十二天像が、奈良の西大寺と京都の東寺(教王護国寺)に伝わります。いずれも十二幅または屏風の一員としてで、焔摩天だけを掛ける形ではありません。公開は限られた期間にかぎられます。
なお、閻魔王の像なら各地の寺にあります。ただし別の尊格ですから、焔摩天に会ったことにはなりません。
焔摩天をめぐる仏のつながり
焔摩天の位階と、似た仏との違い
焔摩天は天部の位に置かれます。十二天の一員として南方を受け持ちます。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。焔摩天は天部です。
天部のなかでは、方角を分担する組に属します。十二天は、単独で広く信仰される帝釈天や毘沙門天と、焔摩天のように組のなかでしか名の出ない尊格が、同じ列に並ぶ組み合わせです。
閻魔 ─ 同じ梵名から分かれた二つ
どちらも梵名ヤマから生まれました。閻魔王は十王の第五で、死者を裁きます。焔摩天は十二天の一員で、南方を守ります。
見分けは姿です。閻魔王は中国の官人の服で笏を持ち、目を見開きます。焔摩天は水牛に乗り、人頭幢を持ち、静かな顔をします。
同じ名から出た二つが、日本ではまったく別の像として彫られました。
十二天 ─ 組と、その一員
焔摩天は十二天の一員です。十二天は方角と要素を十二体で分ける組み合わせで、東の帝釈天、西の水天、北の毘沙門天と並んで、南を焔摩天が受け持ちます。
十二天として掛けられるときは十二体そろって意味を持ちます。焔摩天だけを本尊とする修法もあり、そのときは一体で扱われます。
大威徳明王 ─ どちらも水牛に乗る
水牛に乗る点が共通します。 見間違えやすい組み合わせです。
見分けは顔と腕の数です。大威徳明王は六つの顔・六本の腕・六本の足を持ち、忿怒の相をとります。焔摩天は顔も腕も一つずつで、静かな顔です。
大威徳明王の梵名ヤマーンタカは「ヤマを終わらせる者」を意味します。焔摩天を退ける力として説かれたものです。
焔摩天についてよくある質問
焔摩天と閻魔王は同じものですか。
梵名はどちらもヤマで出どころは同じですが、日本では別の尊格として扱われます。焔摩天は十二天の一員で南方を守り、閻魔王は十王の第五として死者を裁きます。
焔摩天はどう見分けますか。
水牛に乗り、人の頭を先に付けた杖(人頭幢)を持ちます。顔は静かで、恐ろしい相には彫られません。
焔摩天の像はどこで見られますか。
文化庁の国指定文化財等データベースでは、焔摩天の名を持つ国指定の彫刻は確かめられませんでした。十二天は絵として伝わることがほとんどです。
なぜ十二天は絵ばかりなのですか。
灌頂という儀式のたびに道場の周囲へ掛け、終われば片づけるためです。持ち運べることが必要で、十二体分の丸彫りを並べ替えるのは現実的ではありませんでした。
焔摩天に祈ると何を願うのですか。
寿命を延ばすこと、災いを除くことです。裁かれる相手ではなく、寿命を預ける相手として向き合います。
焔摩天と併せて覚えたい言葉・用語
人頭幢(にんずどう)
人の頭を先に付けた杖。檀拏幢ともいう。
灌頂(かんじょう)
密教で頭に水を注ぐ儀式。十二天の絵を掛けて場を囲む。
天冠(てんかん)
天部や菩薩が頭にいただく冠。