須弥山の頂に住み、仏法を守る天の主。白象に乗る。
帝釈天とはどんな仏か
帝釈天はひとことで言えば天界の王です。
もとはインドの雷神で、雷を武器に敵を打ち破る戦の神でした。仏教に取りこまれて、須弥山の頂にある宮殿に住み、四天王を配下として指揮する立場になりました。
釈迦が悟りを開いたとき、梵天とともに教えを説くよう願ったと伝えられます。以後、梵天と一対で釈迦如来の左右に立つ形が定まりました。
この仏でよく語られるのが阿修羅との争いです。阿修羅の娘をめぐって、あるいは領地をめぐって、絶えず戦い続けたとされます。その戦いの場を修羅場と呼びます。同じ仏法の守り手でありながら、敵同士だったという関係です。
東京の柴又題経寺が「帝釈天」の通称で広く知られますが、寺に伝わる本尊は板に彫ったもので、立体の像ではありません。
帝釈天の読み方と梵名
読みは「たいしゃくてん」です。「帝」は主を意味する漢語、「釈」は梵名シャクラを音で写したもの、「天」は天部を指します。三つの由来の違う要素が一つの名になっている、めずらしい構成です。
もとの梵名はインドラで、インド神話の雷神にあたります。
帝釈天(たいしゃくてん)
もっとも広く使われる形。
釈提桓因(しゃくだいかんいん)
梵名を音で写した形。
天帝釈(てんたいしゃく)
古い漢訳の一つ。
因陀羅(いんだら)
もとの梵名インドラを音で写した形。十二神将の因達羅とは別。
インドラ(Indra)
意味は「インドの雷神の名」。読みは「いんどら」。「因陀羅」はこれを音で写したもの。
シャクラ(Sakra)
意味は「能力ある者」。読みは「しゃくら」。「釈」の字はここから来ている。
帝釈天の見分け方(印相・持ち物・姿)
帝釈天の見分けは、梵天と分けられるかにかかっています。日本では二体が一対で置かれ、姿がよく似ています。
乗り物 ─ 白象に乗る
白い象の背に座る形が、帝釈天のもっとも分かりやすい姿です。
東寺講堂の像がその代表で、片足を垂らして象の背に腰かける半跏の姿勢をとります。国宝に指定されています。
象に乗る仏はほかに普賢菩薩がいますが、普賢は菩薩の身なりで合掌し、帝釈天は甲冑を着けて武器を持つので、間違えることはありません。
持ち物 ─ 金剛杵
手に金剛杵を握ります。もとの雷神が持っていた雷の武器が、密教の法具に置き換わったものです。
蓮華を持つ像、何も持たない像もあります。持ち物が定まっていないため、これだけで判じるのは難しいところです。
姿 ─ 二通りの装い
日本の帝釈天像には、大きく二つの装いがあります。
一つは唐の官人のような衣をまとって立つ姿。東大寺法華堂と唐招提寺金堂の像がこれにあたり、どちらも国宝です。
もう一つは甲冑を着けて象に乗る姿。東寺講堂の像がこれです。
同じ仏でも、寺と時代によって装いがまるで違うという点を、この仏はよく示しています。
一対の構え ─ 梵天と並ぶ
帝釈天は梵天と一対で置かれます。釈迦如来の左右、あるいは堂の両端に配されます。
二体の見分けは難しく、古くから名が入れ替わって伝わった例があります。東大寺法華堂と唐招提寺金堂の像は、どちらも顔が一つで腕が二本の立像で、どちらがどちらか議論が続いています。
見分けの目安は、梵天が四つの顔を持つこと、帝釈天が武器を持つことですが、日本の古い像では必ずしも当てはまりません。
帝釈天のご利益
厄除け・災難除け
仏法を守る天の主であることによる。
勝負運
もとが雷を武器とする戦の神であることによる。
病気平癒
柴又題経寺の庚申信仰と結びついて広まった。
帝釈天に会える寺
帝釈天は、多くの場合梵天と一対で堂に置かれます。単独で本尊とされる例は多くありません。
東京の柴又題経寺は「帝釈天」の通称で広く知られますが、本尊は板に彫った板本尊で、立体の仏像ではありません。この欄には像が確かめられた寺だけを挙げています。
東寺(教王護国寺)講堂(とうじ こうどう)
国宝/世界遺産
立体曼荼羅の東西の端に、梵天と帝釈天が置かれます。二躯まとめて国宝です。
帝釈天は白象に乗り、片足を垂らした半跏の姿勢をとります。甲冑を着け、金剛杵を握ります。
梵天は四つの顔を持ち、鵞鳥の上の蓮華座に座ります。一対を並べて見比べられる、数少ない場所です。
東寺の帝釈天像は、その端正な顔立ちで知られる。
東大寺 法華堂(三月堂)(とうだいじ ほっけどう)
国宝/世界遺産
本尊の不空羂索観音の左右に立つ二躯です。乾漆で造られ、二躯まとめて国宝に指定されています。
どちらも顔が一つ、腕が二本で、唐の官人のような衣をまといます。どちらが梵天でどちらが帝釈天かは、確定していません。
東大寺の公式の説明でも、堂内に現存する仏像として梵天・帝釈天像が挙げられています。
同じ堂の不空羂索観音立像、金剛力士立像、四天王立像、執金剛神立像もすべて国宝。
帝釈天をめぐる仏のつながり
帝釈天の位階と、似た仏との違い
帝釈天は天部に置かれます。天部のなかでは、梵天と並んで最上位にあたります。
須弥山の頂に住み、その中腹にいる四天王を配下として指揮します。天部のなかに上下の関係があることを示す、わかりやすい例です。
仏法を守る側でありながら、まだ悟りを開いていない存在とされます。天部はすべてそうで、そこが如来・菩薩との決定的な違いです。
梵天 ─ 顔が四つあるか
一対で置かれる相手です。姿がよく似ています。
顔の数が目安になります。梵天は四つの顔を持ち、帝釈天は一つです。ただし日本の古い像では両方とも顔が一つのことがあり、この見分けが効かない場合があります。
東大寺法華堂と唐招提寺金堂の像は、どちらがどちらか確定していません。
阿修羅 ─ 戦った相手
帝釈天が絶えず争った相手が阿修羅です。どちらも仏法を守る天部でありながら敵同士でした。
姿は違い、阿修羅は三つの顔と六本の腕を持ちます。帝釈天は顔が一つ、腕が二本です。
普賢菩薩 ─ 象に乗る二体
どちらも白象に乗ります。
身なりで分かれます。普賢菩薩は宝冠と瓔珞を着けて合掌し、帝釈天は甲冑または官人の衣をまとって武器を持ちます。位階も違い、普賢は菩薩、帝釈天は天部です。
帝釈天についてよくある質問
帝釈天はどんな仏ですか。
須弥山の頂に住み、四天王を配下として仏法を守る天部です。もとはインドの雷神インドラでした。
帝釈天と梵天はどう見分けますか。
梵天が四つの顔を持ち、帝釈天が一つというのが目安です。ただし日本の古い像は両方とも顔が一つのことがあり、東大寺法華堂の二躯はどちらがどちらか確定していません。
柴又の帝釈天には像がありますか。
柴又題経寺の本尊は板に彫った板本尊で、立体の仏像ではありません。
帝釈天と阿修羅の関係を教えてください。
絶えず争い続けた敵同士です。その戦いの場を修羅場と呼びます。どちらも仏法を守る天部でありながら対立していました。
帝釈天の国宝の像はどこにありますか。
京都の東寺講堂、奈良の東大寺法華堂、唐招提寺金堂に、いずれも梵天と一対で国宝の像があります。
帝釈天と併せて覚えたい言葉・用語
須弥山(しゅみせん)
仏教の世界観で中心にそびえる山。頂に帝釈天、中腹に四天王が住む。
金剛杵(こんごうしょ)
密教の法具。もとは雷を表す武器だった。
半跏(はんか)
片足を垂らして腰かける姿勢。
板本尊(いたほんぞん)
板に彫った本尊。立体の像ではない。
天部(てんぶ)
インドの神々が仏法を守る側に回ったもの。位階では明王の下。