十二天の一員として東南を守る尊格。護摩の火を受け取る相手とされる。
火天とはどんな仏か
火天をひとことで言えば火そのものの尊格です。十二天では東南を受け持ちます。
梵名アグニは、インドできわめて古い尊格です。供え物を火に投じると、その煙が天へ届くと考えられました。火は、人と天のあいだを取り次ぐものだったのです。
姿は天部らしくありません。髭を長く垂らした仙人の姿で、背に火焔を負い、三角の火炉や水瓶、数珠を持ちます。 若く整えられることはなく、老いた行者として彫られます。
この尊格が特別なのは、護摩との関わりです。炉に火を焚き、供え物を投じて祈る密教の作法は、もとをたどれば火天に供える儀式でした。日本の寺で毎日のように焚かれる護摩は、この尊格につながっています。
火天の読み方と梵名
読みは「かてん」です。
「火天」は梵名アグニを意味で訳した形で、音で写した形が「阿耆尼」です。同じ尊格に、意味の訳と音の訳が両方あります。
仙人の姿に彫られるため「火仙」とも呼ばれます。 十二天のなかで、この呼び方をされるのは火天だけです。
火天(かてん)
もっとも広く使われる形。
火仙(かせん)
仙人の姿であることによる呼び方。
阿耆尼(あぎに)
梵名の音を漢字に写した形。
火神(かじん)
性格で呼んだ形。厳密には同じではない。
アグニ(Agni)
意味は「火」。インドできわめて古い尊格。供え物を天へ取り次ぐ役を負った。読みは「あぐに」。
火天の見分け方(印相・持ち物・姿)
髭の長い仙人の姿で、背に火焔を負うのが決め手です。天部らしくない見た目が目印になります。
姿 ─ 老いた仙人
髭を長く垂らし、痩せた体つきの老人として彫られます。甲冑も天冠も着けません。
十二天のなかで、仙人の姿をとるのは火天だけです。天部というより、山にこもる行者に近い見た目です。
インドで火をつかさどる尊格が、供え物を焚く行者の姿と重ねられた結果と考えられます。
背 ─ 火焔を負う
背に赤い火焔を負います。 光背が炎の形になっている、と言い換えてもよいでしょう。
明王も火焔の光背を負いますが、明王は忿怒の相で武器を持ちます。火天は静かな顔で、武器を持ちません。
炎の形が体の後ろで大きく広がるため、絵では遠目にもすぐ分かります。
持ち物 ─ 火炉と水瓶
三角の火炉、水瓶、数珠、杖などを持ちます。どれも行者が供養に使う道具です。
三角は火を表す形とされ、護摩壇の炉も三角に作られることがあります。
武器はいっさい持ちません。 供え物を受け取る役に徹した持ち物です。
護摩とのつながり
護摩は、炉に火を焚き、供え物を投じて祈る密教の作法です。その根には、火天に供えるという古い儀式があります。
護摩を始めるとき、はじめに火天を招いて供えるという次第が伝わっています。
火に投じたものが仏に届くという考えの、いちばん古い受け手が火天です。
火天のご利益
除災
火が穢れを焼き払うとされることによる。
願いを届ける
供え物を天へ取り次ぐ役によるとされる。
東南の守り
十二天のうち東南を受け持つことによる。
修法の成就
護摩の始めに招かれることによる。
火天に会える寺
火天をめぐる仏のつながり
火天の位階と、似た仏との違い
火天は天部の位に置かれます。十二天の一員として東南を受け持ちます。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。火天は天部です。
天部のなかでは、姿がもっとも変わっています。甲冑も天冠も着けず、仙人の姿で彫られる天部は、十二天のなかで火天だけです。 インドの古い儀式の担い手が、そのまま形になったものと考えられます。
不動明王 ─ どちらも火焔を負う
背に火焔を負う点が共通します。 遠目には紛らわしくなります。
見分けは顔と持ち物です。不動明王は忿怒の相で剣と羂索を持ち、岩の座に立ちます。火天は静かな顔の仙人で、火炉と水瓶を持ちます。
護摩の本尊は不動明王とされることが多く、その炉に招かれるのが火天です。役割の順序が違います。
仙人 ─ 姿がよく似ている
十二天 ─ 組と、その一員
火天は十二天の一員です。四方の四体に四隅の四体を加えた八方天のうち、東南を受け持ちます。
十二天として掛けるときは十二体そろって意味を持ちます。火天は護摩の始めに単独で招かれることがあり、その点で組から離れて扱われる機会が多い一体です。
火天についてよくある質問
火天はどう見分けますか。
髭の長い仙人の姿で、背に火焔を負います。三角の火炉や水瓶、数珠を持ち、武器は持ちません。
なぜ火天だけ仙人の姿なのですか。
供え物を火に投じる古い儀式の担い手が、そのまま姿になったためと考えられます。十二天のなかで仙人の姿をとるのは火天だけです。
火天と護摩はどう関係しますか。
炉に火を焚いて供え物を投じる護摩の作法は、もとをたどれば火天に供える儀式です。護摩の始めに火天を招く次第が伝わっています。
火天の像はどこで見られますか。
寺が持つ国指定の彫刻は確かめられませんでした。重要文化財の木造十二天面に火天の面がありますが、これは面で、所有者は国立文化財機構です。
不動明王と見分けがつきません。
どちらも火焔を負いますが、不動明王は忿怒の相で剣を持ちます。火天は静かな顔の仙人で、火炉と水瓶を持ちます。
火天と併せて覚えたい言葉・用語
護摩(ごま)
炉に火を焚き、供え物を投じて祈る密教の作法。
火炉(かろ)
護摩の火を焚く炉。三角に作られることがある。
八方天(はっぽうてん)
十二天から上下と日月を除いた八体。四方と四隅を守る。