大日如来から密教の教えを直に受け取った、最初の弟子。
金剛薩埵とはどんな仏か
金剛薩埵をひとことで言えば密教の第一の受け手です。大日如来が説いた教えを、いちばん最初に受け取った菩薩とされます。
真言宗では、教えの伝わった道筋を付法の八祖として並べます。第一祖が大日如来、第二祖が金剛薩埵、第三祖が龍猛、そのあと龍智・金剛智・不空・恵果と続き、第八祖が空海です。仏から人へ教えが渡る、その継ぎ目に立つのが金剛薩埵です。
大日如来が教えを説いたあと、金剛薩埵はそれを鉄の塔に納めて封じました。数百年ののち、龍猛がその塔を開いて教えを受け取ったと伝えられます。
この菩薩には、普賢菩薩と同じ仏だとする説があります。密教では金剛薩埵、顕教では普賢菩薩と呼び分けるという考え方です。ただし別の尊格として造り分ける寺もあり、決着はついていません。
日本では単独の像が少なく、大日如来とともに並ぶ形で伝わります。
金剛薩埵の読み方と梵名
読みは「こんごうさった」です。「薩埵」の二字は日ごろまず使いません。
「薩埵」は梵語サットヴァの音を漢字に写したもので、「心を持つ者」を意味します。菩薩という語も、正しくは「菩提薩埵」の略で、同じ「薩埵」を含みます。
つまり金剛薩埵の名は、「金剛のように堅い心を持つ者」という意味になります。
金剛薩埵(こんごうさった)
もっとも広く使われる形。
金剛手菩薩(こんごうしゅぼさつ)
同体とみる説がある。杵を手にすることによる。
執金剛(しゅうこんごう)
杵を執る者という意味。
普賢金剛薩埵(ふげんこんごうさった)
普賢菩薩と同体とみる立場での呼び方。
ヴァジュラサットヴァ(Vajrasattva)
意味は「金剛の心を持つもの」。「ヴァジュラ」が金剛、「サットヴァ」が心ある者を指す。読みは「う゛ぁじゅらさっとう゛ぁ」。
金剛薩埵の見分け方(印相・持ち物・姿)
金剛薩埵の見分けは、右手の杵と左手の鈴にあります。この組み合わせを持つ仏はほかにありません。
持ち物 ─ 五鈷杵と五鈷鈴
右手に五鈷杵を握り、胸の前に立てます。五鈷杵は両端が五つに分かれた金属の法具で、煩悩を砕く武器を表します。
左手に五鈷鈴を持ち、腰のあたりに当てます。柄が五鈷杵になった鈴で、教えの音を鳴らします。
杵と鈴を左右に持つ姿は、この菩薩だけのものです。密教の僧が修法で使う道具そのものを、菩薩が手にしている形になります。
姿 ─ 若い貴人の姿
若々しい貴人の姿で表されます。宝冠をかぶり、瓔珞・腕釧・臂釧を着け、上体をわずかにひねって座ります。
顔つきは穏やかで、明王のような怒りは見せません。
教えを受け取る側の菩薩であるため、力より受容を示す姿につくられます。台座は蓮華座です。
五秘密の中心
金剛薩埵を中心に、四体の女性の尊格を配した五秘密という組み合わせがあります。
欲・触・愛・慢という四つの心の働きを尊格の姿にしたもので、それを金剛薩埵が抱きかかえます。欲そのものを悟りに変えるという密教の考え方を、図に表したものです。
同じ考え方は愛染明王にも見られます。五秘密の像は日本にきわめて少なく、絵として伝わるものが主です。
普賢菩薩との重なり
金剛薩埵と普賢菩薩を同じ仏とみる説があります。普賢金剛薩埵という呼び名は、その立場から生まれました。
見分けたいときは乗り物を見ます。普賢菩薩は白象に乗り、金剛薩埵は蓮華座に座ります。
ただし普賢菩薩が象に乗らない作例もあり、その場合は手の持ち物で判じます。杵と鈴があれば金剛薩埵です。
金剛薩埵のご利益
悟りへの導き
教えを受け取る最初の者という役目による。
罪を消す
百字真言を唱えて懺悔する修法の本尊とされる。
学業成就
教えを受け継ぐ役目にちなむ。
心を堅くする
金剛のように堅い心という名にちなむ。
金剛薩埵に会える寺
金剛薩埵の像は数が少なく、大日如来とともに並ぶ形で伝わるのがほとんどです。
ここに挙げたのは、所有者が寺であることを文化庁の国指定文化財等データベースで確かめられたものだけです。
真言宗の寺では、灌頂という儀式の場でこの菩薩の名が唱えられます。像として堂に据えられていなくても、教えの流れのなかにつねに置かれている菩薩です。
金剛薩埵をめぐる仏のつながり
金剛薩埵の位階と、似た仏との違い
金剛薩埵は菩薩の位に置かれます。密教の教えを受け継ぐ第二祖にあたります。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。金剛薩埵は菩薩です。
菩薩のなかでは、教えを受け継ぐ役目を持つ点が特徴です。人を救うことより、大日如来の教えを次へ渡すことがこの菩薩の本領になります。
真言宗の付法の八祖では、大日如来に次ぐ第二祖に置かれます。
普賢菩薩 ─ 同じ仏とする説がある
密教では金剛薩埵、顕教では普賢菩薩と呼び分けるという考え方があります。普賢金剛薩埵という呼び名はその立場から生まれました。
見分けは乗り物です。普賢菩薩は六牙の白象に乗ります。 金剛薩埵は蓮華座に座ります。
持ち物も違い、普賢菩薩は合掌するか蓮華を持ち、金剛薩埵は杵と鈴を握ります。
大日如来 ─ 教えを渡す側と受ける側
大日如来が教えを説き、金剛薩埵が受け取ります。師と弟子の関係にあたります。
位階も違います。大日如来は如来、金剛薩埵は菩薩です。
見分けは手です。大日如来は右手で左手の人差し指を握る智拳印を結び、何も持ちません。金剛薩埵は杵と鈴を握ります。
執金剛神 ─ どちらも杵を執る
どちらも金剛杵を手にします。名も似ています。
位階が違います。 金剛薩埵は菩薩、執金剛神は天部です。
姿もまったく違い、執金剛神は甲冑を着け、目を見開いて怒りの表情を見せます。杵を持っていても、怒っていれば執金剛神です。
金剛薩埵についてよくある質問
金剛薩埵はどんな仏ですか。
大日如来から密教の教えを直に受け取った最初の菩薩です。真言宗の付法の八祖では、大日如来に次ぐ第二祖に置かれます。
金剛薩埵の読み方は。
「こんごうさった」です。「薩埵」は梵語サットヴァの音を写したもので、「心を持つ者」を意味します。
金剛薩埵はどう見分けますか。
右手に五鈷杵を胸の前に立て、左手に五鈷鈴を腰に当てます。この組み合わせを持つ仏はほかにありません。
金剛薩埵と普賢菩薩は同じですか。
同じ仏とする説があります。密教では金剛薩埵、顕教では普賢菩薩と呼び分けるという考え方です。ただし別の尊格として造り分ける寺もあり、決着はついていません。
金剛薩埵の像はどこで見られますか。
和歌山の根来寺大伝法堂に、大日如来・尊勝仏頂とともに並ぶ重要文化財の坐像があります。
金剛薩埵と併せて覚えたい言葉・用語
五鈷杵(ごこしょ)
両端が五つに分かれた密教の法具。煩悩を砕く武器を表す。
五鈷鈴(ごこれい)
柄が五鈷杵になった鈴。教えの音を鳴らす。
付法の八祖(ふほうのはっそ)
真言宗で教えが伝わった八人。大日如来から空海までを並べる。
五秘密(ごひみつ)
金剛薩埵を中心に四体の尊格を配した組み合わせ。
灌頂(かんじょう)
頭に水を注いで教えを授ける密教の儀式。