砂漠で玄奘を助けたとされる、髑髏を首に掛けた神。
深沙大将とはどんな仏か
深沙大将をひとことで言えば砂漠の守り神です。
経典を求めて西へ向かう玄奘三蔵が、流砂の砂漠で水を失い行き倒れかけたとき、この神が現れて助けたと伝えられます。
姿がきわめて特異です。首に髑髏を連ねた瓔珞を掛け、腹に童子の顔を持ち、両膝に象の顔を付ける。 下半身は蛇の皮をまといます。
体のあちこちに別の顔があるという像は、日本の仏像でほかにほとんどありません。 一つの体に複数の顔が付くという発想そのものが異例です。
首に掛けた髑髏には、いわれがあります。玄奘が過去世で幾度も流砂に呑まれて死に、そのときの頭骨だという話です。
『西遊記』の沙悟浄は、この神がもとになったとされます。物語の中で沙悟浄が首に髑髏を掛けているのは、この深沙大将の姿を受け継いだものです。
福井の明通寺、岐阜の横蔵寺、京都の金剛院、和歌山の金剛峯寺に重要文化財の像が伝わります。
深沙大将の読み方と梵名
読みは「じんじゃたいしょう」です。「しんしゃだいしょう」と読む例もあります。
「深沙」は深い砂、つまり砂漠を指します。玄奘を助けた場所がそのまま名になっています。
「大将」は軍を率いる者を指す語です。十二神将の一体ずつも「大将」と呼ばれ、護法の武神に共通する呼び方です。
深沙大将(じんじゃたいしょう)
もっとも広く使われる形。
深砂大将(じんじゃたいしょう)
「砂」の字を当てた形。
しんしゃだいしょう(しんしゃだいしょう)
「しんしゃ」と読む例もある。
深沙神(じんじゃしん)
略した呼び方。
ヴァイシュラヴァナ(Vaisravana)
意味は「よく聞くもの」。毘沙門天の原語。深沙大将を毘沙門天の化身とみる説による。ただし固有の梵名は確かめられなかった。読みは「う゛ぁいしゅらう゛ぁな」。
深沙大将の見分け方(印相・持ち物・姿)
深沙大将の見分けは、首の髑髏と腹の顔にあります。これほど特異な姿の像はほかにありません。
首 ─ 髑髏を連ねた瓔珞
首に、髑髏をいくつも連ねた瓔珞を掛けます。
瓔珞はふつう珠を連ねた首飾りです。それが髑髏に置き換えられています。
髑髏を身に着ける仏は、日本にほとんどありません。 玄奘が過去世で流砂に呑まれて死んだときの頭骨だという話が伝わります。
腹 ─ 童子の顔
腹の中央に、童子の顔が付きます。
目も鼻も口もある、小さな子どもの顔です。像の腹の位置からこちらを見ています。
体の一部に別の顔が付くという像は、日本の仏像でほかに例がありません。 見る人を落ち着かなくさせる、この像のいちばんの特徴です。
膝 ─ 象の顔
両膝に、象の顔が付きます。
左右の膝小僧の位置に、象の頭が彫り出されます。鼻と牙まで彫られる作例もあります。
首の髑髏、腹の童子、膝の象。三か所に別の顔を持つ像として、深沙大将は日本の仏像のなかで際立っています。
下半身 ─ 蛇の皮をまとう
下半身に蛇の皮をまといます。
腰から下を蛇の皮で覆う形で、鱗が彫り出されます。
上半身は裸で、筋肉を誇張して彫ります。砂漠という過酷な場所の守り神であることが、この荒々しい姿に表れています。
深沙大将のご利益
旅の安全
玄奘の旅を助けたことによる。
厄除け
異形の姿で災いを退けるとされる。
水を得る
砂漠で水を与えたという伝えによる。
学業成就
経典を求める旅を助けたことによる。
深沙大将に会える寺
深沙大将の像は全国でも数えるほどしかありません。ここに挙げたのは、所有者が寺であることを文化庁の国指定文化財等データベースで確かめられたものだけです。
執金剛神と対で伝わる例が複数あります。和歌山の金剛峯寺と京都の金剛院がそれで、どちらも二体をひとまとまりで扱っています。
どちらも異形の護法神であり、対として造る考え方があったと見られます。
金剛峯寺(こんごうぶじ)
重要文化財
深沙大将と執金剛神が二躯まとめて重要文化財に登録されています。
文化庁の国指定文化財等データベースで、所有者が宗教法人金剛峯寺と記されています。
どちらも異形の護法神で、対として造られたと考えられます。 同じ寺には国宝の木造八大童子立像、重要文化財の木造孔雀明王像もあります。
所在地は公式サイトで確かめた。
明通寺(みょうつうじ)
重要文化財
深沙大将が単独で重要文化財に指定された例です。
文化庁の国指定文化財等データベースで、所有者が明通寺と記されています。
同じ寺には木造降三世明王立像の重要文化財もあります。本堂と三重塔はいずれも国宝に指定されています。
所有者は文化庁の国指定文化財等データベースで確認した。
横蔵寺(よこくらじ)
重要文化財
文化庁の国指定文化財等データベースで、所有者が横蔵寺と記されています。
深沙大将の像は全国でも数えるほどしかなく、そのうちの一躯が岐阜の山中に伝わっています。
拝観の可否は寺に確かめる必要があります。
所有者は文化庁の国指定文化財等データベースで確認した。
金剛院(こんごういん)
重要文化財
文化庁の国指定文化財等データベースで、所有者が金剛院と記されています。
同じ寺には木造執金剛神立像の重要文化財もあります。高野山と同じく、執金剛神と深沙大将を対で伝える寺です。
拝観の可否は寺に確かめる必要があります。
所有者は文化庁の国指定文化財等データベースで確認した。
深沙大将をめぐる仏のつながり
深沙大将の位階と、似た仏との違い
深沙大将は天部の位に置かれます。仏法と旅人を守る護法神です。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。深沙大将は天部です。
天部のなかでは、特定の人物を助けたという由来を持つ点が変わっています。玄奘三蔵という実在の僧を、砂漠で助けたという物語が根にあります。
毘沙門天の化身とする説、多聞天の化身とする説がありますが、どれも決め手を欠きます。
執金剛神 ─ 対で伝わることが多い
和歌山の金剛峯寺と京都の金剛院では、この二体が対で重要文化財に登録されています。
どちらも異形の護法神という共通点があります。
見分けは装いです。深沙大将は首に髑髏を掛け、腹に童子の顔を持ちます。執金剛神は甲冑を着け、そうした飾りを持ちません。
毘沙門天 ─ 化身とする説がある
深沙大将を毘沙門天の化身とする説があります。
見分けは装いです。毘沙門天は甲冑を着け、宝塔を捧げ、邪鬼を踏みます。 深沙大将は上半身が裸で、髑髏の瓔珞を掛けます。
どちらも北方や砂漠といった、人の住みにくい場所と結びつきます。
大威徳明王 ─ 異形どうし
どちらも見る人を驚かせる姿をしています。
位階が違います。 深沙大将は天部、大威徳明王は明王です。
見分けは数と乗り物です。大威徳明王は六面六臂六足で水牛に乗ります。深沙大将は顔が一つ、腕が二本ですが、体のあちこちに別の顔が付きます。
深沙大将についてよくある質問
深沙大将とはどんな仏ですか。
経典を求めて西へ向かう玄奘三蔵を、流砂の砂漠で助けたと伝えられる護法神です。
深沙大将の読み方は。
「じんじゃたいしょう」です。「しんしゃだいしょう」と読む例もあります。「深沙」は深い砂、つまり砂漠を指します。
深沙大将はどう見分けますか。
首に髑髏を連ねた瓔珞を掛け、腹に童子の顔、両膝に象の顔を持ちます。体の三か所に別の顔がある像はほかにありません。
沙悟浄と関係がありますか。
あります。『西遊記』の沙悟浄は、この神がもとになったとされます。沙悟浄が首に髑髏を掛けているのは、深沙大将の姿を受け継いだものです。
深沙大将の像はどこで見られますか。
和歌山の金剛峯寺、福井の明通寺、岐阜の横蔵寺、京都の金剛院に重要文化財の像があります。全国でも数えるほどしかありません。
深沙大将と併せて覚えたい言葉・用語
玄奘三蔵(げんじょうさんぞう)
唐の僧。経典を求めてインドへ旅した。深沙大将に助けられたと伝わる。
流砂(りゅうさ)
砂漠。玄奘が旅の途中で越えた場所。
瓔珞(ようらく)
珠を連ねた首飾り。深沙大将は髑髏を連ねる。
沙悟浄(さごじょう)
『西遊記』の登場人物。深沙大将がもとになったとされる。