疫病を防ぐ神。頭に牛の頭を戴く。祇園祭の主。
牛頭天王とはどんな仏か
牛頭天王をひとことで言えば疫病の神です。疫病をもたらし、また防ぐ神として広く信仰されました。
祇園精舎を守る神だとされますが、インドの経典にその名は見えません。日本で生まれた神格と考えられています。
伝えられる物語はこうです。旅の途中で宿を乞うたところ、裕福な弟は断り、貧しい兄の蘇民将来は快く泊めた。のちに牛頭天王は弟の一族を滅ぼし、蘇民将来の子孫には「茅の輪を付けよ、疫病から守る」と教えた。
「蘇民将来子孫也」と記した札や、夏越の祓の茅の輪くぐりは、この話に由来します。
姿は、頭に牛の頭を戴き、忿怒の相をとります。牛の頭を戴く尊格はほかになく、見分けは容易です。
日本では素戔嗚尊と同体とされ、京都の八坂神社をはじめ各地の祇園社に祀られました。祇園祭はこの神の祭です。
ただし明治の神仏分離により、祀られる場所のほとんどが神社となりました。
牛頭天王の読み方と梵名
読みは「ごずてんのう」です。「ごづてんのう」と書く例もあります。
「牛頭」は牛の頭を指します。頭上に牛の頭を戴く姿がそのまま名になっています。
蘇民将来の話では武塔天神という名で登場します。同じ神が話ごとに違う名で呼ばれており、この神の出どころが一つでないことを示しています。
牛頭天王(ごずてんのう)
もっとも広く使われる形。
午頭天王(ごずてんのう)
「午」の字を当てた形。
武塔天神(むとうてんじん)
蘇民将来の話に出る名。
祇園さん(ぎおんさん)
日ごろの言い方。
天王さま(てんのうさま)
各地の呼び方。
ゴーシールシャ(Gosirsa)
意味は「牛の頭」。インドの地名にちなむ語。ただし牛頭天王は日本で生まれた神格とされ、これに対応する原語は確かめられなかった。読みは「ごーしーるしゃ」。
牛頭天王の見分け方(印相・持ち物・姿)
牛頭天王の見分けは、頭上の牛の頭にあります。これほど明快な目印はほかにありません。
頭 ─ 牛の頭を戴く
頭上に牛の頭を戴きます。角の生えた牛の顔が、人の顔の上に載る形です。
牛の頭を戴く尊格は、日本にほかにありません。 大威徳明王は牛に乗りますが、頭には戴きません。
頭の上に牛がいれば牛頭天王。迷う余地がありません。
顔と装い ─ 忿怒の相に甲冑
人の顔は忿怒の相をとります。目を見開き、牙をむき、髪を逆立てます。
甲冑を着け、手に剣や鉾を握ります。天部の武神に近い装いです。
穏やかな貴人の姿で表される作例もあり、疫病をもたらす面と防ぐ面の両方が、姿の振れ幅に出ています。
妃と八王子
牛頭天王には妃がいます。頗梨采女といい、竜王の娘とされます。
さらに八王子という八人の子がいると説かれ、八王子という地名の由来にもなりました。
福井には「木造牛頭天王坐像・木造女神坐像」という重要文化財があり、神と妃が対で伝わっています。ただし所有者は神社です。
茅の輪と蘇民将来
茅の輪くぐりは、この神の話に由来します。
宿を貸した蘇民将来に、牛頭天王が「茅の輪を付けよ」と教えたという物語です。子孫は疫病を免れるとされました。
夏越の祓で神社の鳥居に大きな茅の輪が置かれるのは、この教えによります。仏教の尊格の物語が、神社の行事として今も続いています。
牛頭天王のご利益
疫病除け
この神の本領。蘇民将来の話にちなむ。
厄除け
茅の輪くぐりの由来による。
無病息災
疫病を防ぐ働きによる。
家内安全
一族を守るという蘇民将来の話による。
牛頭天王に会える寺
牛頭天王の像で、寺が所有する国指定のものは確かめられませんでした。
文化庁の国指定文化財等データベースで「牛頭天王」を検索すると、重要文化財の木造牛頭天王坐像・木造女神坐像が見つかります。しかしその所有者は「宗教法人八坂神社」で、寺ではありません。 そのためこの欄には入れていません。
理由ははっきりしています。明治の神仏分離です。牛頭天王を祀っていた祇園社や天王社は、そのほとんどが神社となりました。京都の八坂神社もそのひとつで、祭神は素戔嗚尊に改められています。
寺として牛頭天王を祀る場所は、今ではきわめて限られます。この欄は空のままにしておきます。 確かめられないものを、それらしい寺で埋めることはしません。
牛頭天王をめぐる仏のつながり
牛頭天王の位階と、似た仏との違い
牛頭天王は天部の枠に置かれます。ただしこれは便宜の分類です。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。牛頭天王はこのどれにも、はっきりとは当てはまりません。
日本で生まれた神格で、インドの経典に根拠を持ちません。名に「天王」が入ることから天部の枠に入れて扱われます。
位階に収まらない尊格を、便宜上いちばん近い枠に置いているというのが実情です。 同じ事情の尊格に、蔵王権現・飯縄権現・妙見菩薩があります。
大威徳明王 ─ どちらも牛と結びつく
どちらも牛に関わります。大威徳明王は牛に乗り、牛頭天王は牛の頭を戴きます。
位階も違います。大威徳明王は明王、牛頭天王は天部として扱われます。
大威徳明王はインドにさかのぼりますが、牛頭天王は日本で生まれた神格です。
妙見菩薩 ─ 位階に収まらない尊格どうし
どちらも、インドの経典に根拠を持たない尊格です。分類の枠に収まりません。
明治の神仏分離を受けた点も共通します。妙見堂も祇園社も、その多くが神社になりました。
その結果、どちらも「寺で会える場所がほとんどない」という同じ状況になっています。
牛頭天王についてよくある質問
牛頭天王とはどんな仏ですか。
疫病をもたらし、また防ぐとされる神です。祇園精舎を守る神だとされますが、インドの経典に名は見えず、日本で生まれた神格と考えられています。
牛頭天王はどう見分けますか。
頭上に牛の頭を戴きます。牛の頭を戴く尊格はほかにないため、迷う余地がありません。
蘇民将来の話とは何ですか。
宿を貸した蘇民将来に、牛頭天王が茅の輪を付けよと教え、子孫は疫病を免れるとした話です。夏越の祓の茅の輪くぐりはこれに由来します。
祇園祭と関係がありますか。
あります。祇園祭はこの神の祭です。ただし明治の神仏分離により、八坂神社の祭神は素戔嗚尊に改められています。
牛頭天王の像はどこで見られますか。
寺が所有する国指定の彫刻は確かめられませんでした。福井に重要文化財の木造牛頭天王坐像がありますが、所有者は神社です。
牛頭天王と併せて覚えたい言葉・用語
蘇民将来(そみんしょうらい)
牛頭天王に宿を貸した兄。子孫は疫病を免れるとされた。
茅の輪(ちのわ)
茅で編んだ輪。夏越の祓でくぐって厄を払う。
頗梨采女(はりさいじょ)
牛頭天王の妃。竜王の娘とされる。
神仏分離(しんぶつぶんり)
明治初めに神社と寺を分けた政策。祇園社は神社になった。