香りだけを食べて生きる、天の楽人。
乾闥婆とはどんな仏か
乾闥婆をひとことで言えば香りを食べる楽人です。帝釈天に仕え、天の宴で楽器を奏でます。
もっとも変わっているのは食べ物です。香りだけを食べて生きるとされ、そのため「食香」「尋香」とも訳されます。
姿が定まらず、実体が薄いという性格が、この食べ方に表れています。 音楽もまた、形を持たず空気の中に消えていくものです。乾闥婆という尊格は、そうした「つかまえどころのなさ」を体で表しています。
八部衆と二十八部衆の双方に数えられます。歌をつかさどる緊那羅と対をなし、こちらは楽器を受け持ちます。
日本では、獅子の冠をかぶった姿で表されることが多く見られます。
子どもを守る神としても信仰されました。小児の病に効くとされ、乾闥婆を本尊とする修法が行われた記録があります。
乾闥婆の読み方と梵名
読みは「けんだつば」です。
「乾闥婆」は梵名ガンダルヴァの音を漢字に写したもので、字そのものに意味はありません。
梵名の「ガンダ」は香りを指します。意味で訳した名が「食香」で、香りを食べる者という意味がそのまま名になっています。
蜃気楼を「乾闥婆城」と呼ぶ言い方もあります。実体のない幻を、この尊格の名で表したものです。
乾闥婆(けんだつば)
もっとも広く使われる形。
乾闥婆王(けんだつばおう)
二十八部衆での呼び方。
食香(じきこう)
香りを食べることによる訳。
尋香(じんこう)
香りを探し求めるという意味の訳。
香神(こうじん)
略した呼び方。
ガンダルヴァ(Gandharva)
意味は「香りを食べるもの」。「ガンダ」が香りを指す。読みは「がんだるう゛ぁ」。
乾闥婆の見分け方(印相・持ち物・姿)
乾闥婆の見分けは、獅子の冠と楽器にあります。ただし作例が少なく、実物に会う機会は限られます。
冠 ─ 獅子をかたどる
頭に獅子をかたどった冠をかぶる作例があります。
奈良の興福寺の国宝の八部衆のうち一躯は、頭に獅子の顔を載せた冠をかぶります。これが乾闥婆とされます。
獅子の冠をかぶる尊格は多くありません。 愛染明王も獅子の冠をかぶりますが、あちらは全身が朱く、六本の腕を持つので迷いようがありません。
持ち物 ─ 楽器
楽器を持つ作例があります。琵琶、笛、鼓などです。
同じ音楽をつかさどる緊那羅が歌を受け持つのに対し、乾闥婆は楽器を受け持ちます。
ただし楽器を持たない作例も多く、持ち物だけで判じるのは難しいのが実情です。
姿 ─ 少年のように造る
興福寺の八部衆の一躯は、少年のような細い体つきに造られます。
腕は細く、腰は締まり、顔つきは幼さを残します。甲冑を着けません。
天平の八部衆はいずれもこの作りで、異形の神々を力ではなく若さで表した点に、当時の仏師の判断が表れています。
実体の薄さ ─ 蜃気楼の名にもなる
香りだけを食べ、姿が定まらないという性格から、乾闥婆は実体のないものの象徴になりました。
蜃気楼を「乾闥婆城」と呼ぶ言い方があります。空中に浮かぶ幻の城という意味です。
音楽もまた形を持たず、鳴ったそばから消えていきます。 香りを食べる者が音楽をつかさどるという組み合わせには、それなりの理屈があります。
乾闥婆のご利益
音楽の上達
楽器をつかさどることによる。
子どもの守り
小児を守る神として信仰された。
芸事の上達
天の宴に仕えることによる。
仏法の守り
八部衆の一員であることによる。
乾闥婆に会える寺
乾闥婆は、八部衆または二十八部衆の一員として会うのがふつうです。単独で祀られる例はほとんどありません。
文化庁の国指定文化財等データベースで「乾闥婆」を検索しても、単独の彫刻は確かめられませんでした。いずれも組み合わせの一員として登録されています。
ここに挙げたのは、所有者が寺であることを確かめられたものだけです。
興福寺(こうふくじ)
国宝
国宝の八部衆八躯のうちの一躯が乾闥婆です。
文化庁の国指定文化財等データベースでは、八躯ひとまとまりで国宝に登録され、所有者は興福寺と記されています。
獅子の冠をかぶった姿を確かめられる、日本でもっとも確かな場所です。 天平時代の乾漆像で、少年のような顔立ちをしています。
同じ組の一躯が阿修羅像にあたる。
三十三間堂 蓮華王院本堂(さんじゅうさんげんどう れんげおういんほんどう)
国宝
国宝の二十八部衆のうちの一躯が乾闥婆王です。
文化庁の国指定文化財等データベースでは、所有者が妙法院と記されています。
二十八躯のなかには緊那羅王も含まれます。音楽をつかさどる二体が同じ列に並びます。
同じ堂には千手観音坐像と千体千手観音立像がある。
乾闥婆をめぐる仏のつながり
乾闥婆の位階と、似た仏との違い
乾闥婆は天部の位に置かれます。八部衆と二十八部衆の双方に数えられます。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。乾闥婆は天部です。
天部のなかでは、帝釈天に仕える楽人の組に入ります。緊那羅と対をなし、天の宴で音楽を奏でます。
八部衆にも二十八部衆にも入る尊格は多くありません。 迦楼羅・緊那羅・乾闥婆がその例です。
緊那羅 ─ 楽器と歌
音楽をつかさどる二体です。乾闥婆が楽器、緊那羅が歌を受け持ちます。
見分けは頭です。乾闥婆は獅子の冠をかぶる作例があります。緊那羅は額に一本の角を持ちます。
どちらも帝釈天に仕え、八部衆と二十八部衆の双方に数えられます。
弁才天 ─ 音楽をつかさどる者どうし
どちらも音楽と結びつきます。弁才天は琵琶を抱く女性の姿です。
乾闥婆は少年あるいは男性の姿で、獅子の冠をかぶります。
弁才天は単独で祀られ、七福神にも数えられます。乾闥婆は組み合わせの一員としてしか祀られません。
愛染明王 ─ どちらも獅子の冠をかぶる
どちらも頭に獅子をかたどった冠をかぶります。
位階が違います。 愛染明王は明王、乾闥婆は天部です。
姿もまったく違い、愛染明王は全身が朱く、三つの目と六本の腕を持ちます。乾闥婆は肌の色をとどめ、腕は二本です。
乾闥婆についてよくある質問
乾闥婆とはどんな仏ですか。
帝釈天に仕え、天の宴で楽器を奏でる八部衆の一員です。香りだけを食べて生きるとされます。
乾闥婆の読み方は。
「けんだつば」です。梵名ガンダルヴァの音を漢字に写したもので、「ガンダ」は香りを指します。
乾闥婆はどう見分けますか。
獅子をかたどった冠をかぶる作例があります。楽器を持つ形もありますが、持ち物だけで判じるのは難しいのが実情です。
乾闥婆城とは何ですか。
蜃気楼を指す言い方です。空中に浮かぶ幻の城という意味で、実体のない乾闥婆の性格にちなみます。
乾闥婆の像はどこで見られますか。
奈良の興福寺の国宝の八部衆、京都の三十三間堂の国宝の二十八部衆に、それぞれ一躯が含まれます。
乾闥婆と併せて覚えたい言葉・用語
食香(じきこう)
乾闥婆を意味で訳した名。香りを食べる者。
乾闥婆城(けんだつばじょう)
蜃気楼を指す言い方。実体のない幻。
八部衆(はちぶしゅう)
仏法を守る八種の者たち。乾闥婆はその一員。
乾漆(かんしつ)
麻布を漆で貼り重ねて像を造る技法。