白い衣を頭からかぶる観音。水墨画の題材として広まった。
白衣観音とはどんな仏か
白衣観音をひとことで言えば白い頭巾をかぶった観音です。衣を頭からすっぽりとかぶり、その端が肩や腕を覆います。
密教では蓮華部の母とされます。曼荼羅を三つの部に分けたとき、観音たちが属するのが蓮華部で、その部を生む母がこの観音だという考え方です。白は清らかさを表す色です。
日本での広まり方には特徴があります。彫刻より絵、それも水墨画として広まりました。 禅宗の寺には白衣観音図が数多く伝わり、重要文化財の指定も絵画に集中しています。明兆・能阿弥・良全といった画家の作が、国の指定を受けています。
墨一色で描くとき、白い衣は塗るのではなく、紙の地を残すことで表します。何も描かないことで白を出すという描き方が、この観音の題材としての面白さでした。
三十三観音のひとつに数えられ、慈母観音として親しまれる姿とも重なります。
白衣観音の読み方と梵名
読みは「びゃくえかんのん」です。「はくえかんのん」と読む例もあります。
「白衣」を「びゃくえ」と読むのは呉音という古い読み方によります。医師や巡礼が着る白い衣も「びゃくえ」と読みます。
白処観音という訳もあります。梵名を「白い場所に住む者」と解した訳で、同じ梵名から二通りの漢訳が生まれた例です。
白衣観音(びゃくえかんのん)
もっとも広く使われる形。
白処観音(びゃくしょかんのん)
梵名を意味で訳した形。
白衣観自在母(びゃくえかんじざいも)
密教での正式な呼び方。
はくえかんのん(はくえかんのん)
「はくえ」と読む例もある。
パーンダラヴァーシニー(Pandaravasini)
意味は「白い衣をまとうもの」。「パーンダラ」が白、「ヴァーシニー」がまとう者を指す。読みは「ぱーんだらう゛ぁーしにー」。
白衣観音の見分け方(印相・持ち物・姿)
白衣観音の見分けは、頭から衣をかぶっているかどうかの一点でつきます。これほどわかりやすい目印を持つ仏はほかにありません。
衣 ─ 頭からかぶる
白い衣を頭からすっぽりとかぶります。端が肩から腕、背中へと垂れます。
ほかの観音は宝冠をかぶり、頭の形がはっきり見えます。白衣観音は衣に覆われて宝冠が隠れます。
頭巾のように布をかぶった仏を見たら、まず白衣観音です。地蔵菩薩は頭を丸めた僧の姿で、布はかぶりません。
座り方 ─ 岩の上でくつろぐ
絵に描かれるときは、海辺の岩の上に片膝を立てて座る姿が多く見られます。
この形は水月観音とも呼ばれ、水面に映る月を眺める場面として描かれます。くつろいだ姿勢が、ほかの観音の端正な立ち姿と対照をなします。
彫刻では、蓮華座に立つ形や座る形も造られます。
持ち物 ─ 蓮華か水瓶、あるいは何も持たない
手には蓮華か水瓶を持ちます。何も持たず、膝の上に置く形もあります。
持ち物より衣が決め手なので、手を見る必要はほとんどありません。
密教の図像では、右手に与願印を結び、左手に開いた蓮華を持つ形が説かれます。
なぜ絵が多いのか
白衣観音は、日本では彫刻より絵として伝わりました。
理由のひとつは、禅宗が中国から白衣観音図を持ち帰ったことです。水墨画の題材として好まれ、多くの画家が描きました。
もうひとつは、白い衣という特徴が墨一色でこそ生きることです。紙の地を残して白を出す描き方が、この題材と結びつきました。彫刻では、白であることを彩色に頼るしかありません。
白衣観音のご利益
安産
子を抱く姿と重ねられ、母としての性格を持つ。
子育て
慈母観音の姿と結びついて広まった。
病気平癒
清らかさを表す白の色にちなむ。
心の安らぎ
くつろいだ姿勢に描かれることによる。
白衣観音に会える寺
白衣観音の彫刻は、国指定のものがきわめて少ない仏です。文化庁の国指定文化財等データベースで確かめられたのは、高知の竹林寺の立像だけでした。
一方で絵画は数多く指定されています。京都・兵庫・静岡・愛知の寺に、白衣観音図が重要文化財として伝わります。明兆・能阿弥・良全といった画家の作が含まれます。
白衣観音に会いたければ、堂の中の像より、寺の宝物館に掛かる絵を訪ねるほうが確実です。
白衣観音をめぐる仏のつながり
白衣観音の位階と、似た仏との違い
白衣観音は菩薩の位に置かれます。三十三観音のひとつです。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。白衣観音は菩薩です。
観音には六観音・七観音という密教の枠組みと、三十三観音というもっと広い枠組みがあります。三十三観音は観音経に「三十三の姿に変じる」と説かれることから中国で整えられたもので、白衣観音はそのひとつです。
三十三観音には楊柳観音・魚籃観音・馬郎婦観音などが含まれます。六観音のような密教の位置づけではなく、絵の題材として整理された枠組みです。
楊柳観音 ─ 三十三観音どうし
どちらも三十三観音に数えられ、絵の題材として広まりました。
見分けは持ち物です。楊柳観音は柳の枝を持ちます。 白衣観音は衣を頭からかぶります。
どちらも中国と朝鮮半島から日本へ伝わった図像で、禅宗の寺に多く伝わります。
聖観音 ─ 頭が見えるかどうか
地蔵菩薩 ─ 頭を覆うかどうか
どちらも華やかな宝冠を見せません。ただし理由が違います。
地蔵菩薩は頭を丸めた僧の姿で、そもそも髪も冠もありません。白衣観音は冠の上から衣をかぶっています。
持ち物も違い、地蔵菩薩は錫杖と宝珠を握ります。白衣観音は蓮華か水瓶を持つか、何も持ちません。
白衣観音についてよくある質問
白衣観音とはどんな仏ですか。
白い衣を頭からかぶった姿の観音です。密教では蓮華部の母とされ、三十三観音のひとつにも数えられます。
白衣観音の読み方は。
「びゃくえかんのん」です。「はくえかんのん」と読む例もあります。
白衣観音はどう見分けますか。
衣を頭からすっぽりとかぶっています。宝冠が隠れて見えないため、ほかの観音とひと目で分かれます。
なぜ白衣観音は絵が多いのですか。
禅宗が中国から白衣観音図を持ち帰り、水墨画の題材として好まれたためです。墨一色で描くとき、紙の地を残して白を表す描き方がこの題材に合いました。
白衣観音の像はどこで見られますか。
高知の竹林寺に重要文化財の立像があります。彫刻の国指定はきわめて少なく、絵画のほうが数多く指定されています。
白衣観音と併せて覚えたい言葉・用語
蓮華部(れんげぶ)
曼荼羅を三つに分けた部のひとつ。観音たちが属する。
三十三観音(さんじゅうさんかんのん)
観音の三十三の姿を並べた枠組み。中国で整えられた。
水月観音(すいげつかんのん)
水面の月を眺める姿の観音。白衣観音と重なる図像。
明兆(みんちょう)
室町時代の画僧。白衣観音図を描き、重要文化財となっている。