四天王の西方。筆と巻物を持ち、悪を記録する。
広目天とはどんな仏か
広目天をひとことで言えば書記の武神です。四天王のうち西方を受け持ちます。
名は「目を広く持つもの」を意味します。ふつうの目には見えないものまで見通す、という力を表します。
見分けはきわめて明快です。右手に筆、左手に巻物を持ちます。四天王で武器を持たないのはこの一体だけで、筆を持つ像を見つければ広目天と判じてよい。 仏像の見分けのなかで、これほど確かな目印はそう多くありません。
役目は、見たものを書きとめて帝釈天に報告することです。世の中の善悪を記録する役目を負います。
武力ではなく、記録で世界を守る。 甲冑を着けた四体のなかにこういう一体が混じっているのは、仏教の考え方をよく表しています。
奈良の興福寺、大阪の観心寺、島根の寺などに重要文化財の像が伝わります。
広目天の読み方と梵名
読みは「こうもくてん」です。
名は梵名ヴィルーパークシャを意味で訳したものです。「さまざまな目を持つもの」「異形の目を持つもの」という意味で、そこから「広く見る」という訳が生まれました。
もとの梵名は「異様な目」に近い意味で、必ずしも「広く見わたす」ことを指しません。 訳の過程で意味がやわらいだ例です。
広目天(こうもくてん)
もっとも広く使われる形。
毘楼博叉(びるばくしゃ)
梵名の音を漢字に写した形。
西方天(さいほうてん)
方角で呼ぶ形。
広目天王(こうもくてんのう)
格を高めた呼び方。
ヴィルーパークシャ(Virupaksa)
意味は「さまざまな目を持つもの」。「ヴィルーパ」が種々の、「アクシャ」が目を指す。読みは「う゛ぃるーぱーくしゃ」。
広目天の見分け方(印相・持ち物・姿)
広目天の見分けは、筆と巻物にあります。四天王のなかでもっとも見分けやすい一体です。
持ち物 ─ 筆と巻物
右手に筆、左手に巻物を持ちます。
筆を構え、今まさに書きとめようとする姿です。巻物は広げた形にも、巻いた形にも彫られます。
四天王で武器を持たないのはこの一体だけです。 甲冑を着けた像が筆を握っていたら、それは広目天です。 迷う余地がありません。
顔つき ─ 眉をひそめて見る
眉をひそめ、目を細めて遠くを見る表情に彫られることがあります。
ほかの三体が口を開いて怒鳴るような顔をするのに対し、広目天は観察する顔をします。
奈良の東大寺戒壇堂の広目天像は、この静かな表情でよく知られます。四体のうち一体だけ、動きより思索を彫った像です。
足もと ─ 邪鬼を踏む
邪鬼という小さな鬼を踏みつけます。四天王に共通する特徴です。
筆を持っていても、足もとは変わりません。武力を使わないからといって、悪を許すわけではないという構えです。
邪鬼は苦しげな顔で這いつくばります。
立ち位置 ─ 堂の西側
堂の中では、本尊から見て西に立ちます。
多くの堂は南を向いて建てられるため、その場合は向かって左奥が広目天になります。
四天王を見分けるときは、まず広目天を探すのが早道です。 筆を持つ一体を見つければ、そこから残る三体の位置を割り出せます。
広目天のご利益
智慧を得る
見通す力と記録の役目による。
学業成就
筆と巻物を持つことにちなむ。
厄除け
四天王として堂を守ることによる。
眼病平癒
「目」を名に持つことによる。
広目天に会える寺
広目天は、四天王の一員として会うのがふつうです。単独で祀られる例は多くありません。
奈良の東大寺戒壇堂と法隆寺金堂の四天王立像は国宝で、いずれも広目天を含みます。長野・佐賀・島根・大分などにも重要文化財の像が伝わります。
ここに挙げたのは、所有者が寺であることを文化庁の国指定文化財等データベースで確かめられたものだけです。
興福寺(こうふくじ)
重要文化財
広目天が単独で重要文化財に指定された例です。
文化庁の国指定文化財等データベースで、所有者が興福寺と記されています。
所有者は文化庁の国指定文化財等データベースで確認した。
観心寺(かんしんじ)
重要文化財
観心寺の住所:大阪府(文化庁の国指定文化財等データベースで所有者を確認。詳しい住所は公式の情報を確かめられませんでした)
像:木造広目天立像・木造増長天立像 二躯/重要文化財
この像に結び付く願い:学業成就
広目天と増長天が二躯そろって伝わります。
文化庁の国指定文化財等データベースで、所有者が観心寺と記されています。
武器を持たない広目天と、鉾を握る増長天が並ぶため、四天王のなかの役目の違いがよくわかります。
同じ寺には如意輪観音の国宝の坐像もある。
黒石寺(こくせきじ)
重要文化財
四天王が四躯そろって伝わります。広目天はその一躯にあたります。
文化庁の国指定文化財等データベースで、所有者が黒石寺と記されています。
四体そろって残る例は多くないため、方角と持ち物の対応を確かめるには格好の場所です。
所有者は文化庁の国指定文化財等データベースで確認した。
広目天をめぐる仏のつながり
広目天の位階と、似た仏との違い
広目天は天部の位に置かれます。四天王のうち西方を受け持ちます。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。広目天は天部です。
天部のなかでは、帝釈天の配下にあたります。須弥山の頂に住む帝釈天が、中腹の四天王を指揮するという構えです。
四天王のなかで、広目天だけが武器を持ちません。武力ではなく記録で世界を守るという役目が、この一体に割り当てられています。
持国天 ─ 武器を持つかどうか
持国天は右手に刀を握ります。広目天は筆と巻物を持ち、武器を持ちません。
この違いは、四天王のなかでもっとも明快です。
顔つきも違い、持国天は口を開いて怒鳴るような顔、広目天は眉をひそめて観察する顔に彫られることがあります。
増長天 ─ 長柄の武器か筆か
増長天は鉾や戟という長柄の武器を握ります。広目天は筆を握ります。
手にしているものが武器か文房具か。 ここで分かれます。
大阪の観心寺では、この二体が並んで重要文化財に指定されています。
文殊菩薩 ─ 書くものを持つ仏どうし
どちらも書物や筆に関わります。文殊菩薩は左手に経巻を持ちます。
位階が違います。 文殊菩薩は菩薩、広目天は天部です。
姿も違います。文殊菩薩は宝冠と瓔珞を着け、獅子に乗ります。広目天は甲冑を着け、邪鬼を踏みます。
広目天についてよくある質問
広目天とはどんな仏ですか。
四天王のうち西方を受け持つ武神です。見たものを書きとめて帝釈天に報告する役目を負い、筆と巻物を持ちます。
広目天はどう見分けますか。
右手に筆、左手に巻物を持ちます。四天王で武器を持たないのはこの一体だけなので、筆を見つければ確実です。
なぜ武器を持たないのですか。
武力ではなく記録で世界を守る役目を負うためです。見たものを書きとめ、帝釈天に報告します。
広目天の名の意味は。
「目を広く持つもの」です。ただし梵名ヴィルーパークシャは「さまざまな目」「異形の目」に近い意味で、訳の過程でやわらいだと考えられます。
広目天の像はどこで見られますか。
奈良の興福寺、大阪の観心寺、岩手の黒石寺などに重要文化財の像があります。東大寺戒壇堂と法隆寺金堂の四天王立像は国宝です。
広目天と併せて覚えたい言葉・用語
巻物(まきもの)
紙を巻いた書物。広目天が左手に持つ。
邪鬼(じゃき)
四天王が足で踏みつける小さな鬼。
戒壇堂(かいだんどう)
僧に戒を授ける堂。東大寺のものが四天王像で知られる。
須弥山(しゅみせん)
世界の中心にあるとされる山。中腹に四天王が住む。