四天王の南方。鉾を構えて成長を守る。
増長天とはどんな仏か
増長天をひとことで言えば南を守る武神です。四天王のうち南方を受け持ちます。
名は「増し育てるもの」を意味します。五穀の成長を守るとされ、実りをもたらす方角である南に配されました。
日ごろ使う「増長する」という言葉は、この天部の名から来ています。今では「思い上がる」という悪い意味で使いますが、もとは「育つ」「増える」という良い意味の語でした。 仏の名が言葉として広まり、その途中で意味が反転した珍しい例です。
四天王のうち、増長天と持国天はもっとも見分けにくい二体です。どちらも武器を握り、甲冑を着け、邪鬼を踏みます。
目安は武器の形です。鉾や戟なら増長天、刀なら持国天。 ただし作例によって入れ替わることがあります。
奈良の称名寺、大阪の観心寺、京都の寺々に重要文化財の像が伝わります。
増長天の読み方と梵名
読みは「ぞうちょうてん」です。
名は梵名ヴィルーダカを意味で訳したものです。「広く育つもの」という意味で、それがそのまま「増長」となりました。
「増長する」という言葉が今では悪い意味で使われるのは、この語が仏の名から離れて広まる途中で変わったためです。 もとの経典には、思い上がるという意味はありません。
増長天(ぞうちょうてん)
もっとも広く使われる形。
毘楼勒叉(びるろくしゃ)
梵名の音を漢字に写した形。
南方天(なんぽうてん)
方角で呼ぶ形。
増長天王(ぞうちょうてんのう)
格を高めた呼び方。
ヴィルーダカ(Virudhaka)
意味は「増し育つもの」。「ヴィ」が広く、「ルーダ」が育つことを指す。読みは「う゛ぃるーだか」。
増長天の見分け方(印相・持ち物・姿)
増長天の見分けは、長柄の武器にあります。ただし持国天との区別は、思いのほか難しいものです。
持ち物 ─ 鉾または戟
右手に鉾または戟を握ります。長い柄の先に刃を付けた武器です。
床に石突きを置いて立てる形が基本です。左手は腰に当てるか、拳を固めます。
ただしこの決まりは、日本の作例では守られないことが多くあります。 刀を持つ増長天も珍しくありません。持ち物だけで断定するのは危うい仏です。
顔つき ─ 口を開くか結ぶか
四天王は、口の開き方で対をなすことがあります。
持国天が口を開き、増長天が口を結ぶという組み合わせや、その逆の作例があります。金剛力士の阿形・吽形と同じ考え方です。
ただしこれも決まりではなく、四体すべてが口を開いている作例もあります。
足もと ─ 邪鬼を踏む
邪鬼という小さな鬼を踏みつけます。四天王に共通する特徴です。
邪鬼は苦しげな顔で這いつくばります。天王の足の下で身をよじる姿が、四体それぞれに彫り分けられます。
邪鬼を踏まない四天王像はほとんどありません。
立ち位置 ─ 堂の南側
堂の中では、本尊から見て南に立ちます。
多くの堂は南を向いて建てられるため、その場合は向かって左手前が増長天になります。
位置で見分けるには堂の向きを知る必要があり、実際には持ち物で判じるほうが早道です。
増長天のご利益
五穀豊穣
成長を守るという名にちなむ。
厄除け
四天王として堂を守ることによる。
子どもの成長
増し育てるという働きによる。
商売繁盛
増えるという意味にちなみ、近世以降に広まった。
増長天に会える寺
増長天は、四天王の一員として会うのがふつうです。単独で祀られる例はほとんどありません。
滋賀・兵庫・京都・奈良には、二体だけが残って登録された重要文化財が数多くあります。四体そろって残るほうがむしろ少数です。
ここに挙げたのは、所有者が寺であることを文化庁の国指定文化財等データベースで確かめられたものだけです。
法隆寺 三経院(ほうりゅうじ さんぎょういん)
重要文化財
持国天と増長天が二躯そろって伝わります。
文化庁の国指定文化財等データベースで、所有者が法隆寺と記されています。
もっとも見分けにくい二体が並んで残っているため、その場で武器の形を見比べられます。
同じ寺の金堂には日本最古とされる四天王立像が国宝としてある。
称名寺(しょうみょうじ)
重要文化財
増長天が単独で重要文化財に指定された例です。
文化庁の国指定文化財等データベースで、所有者が称名寺と記されています。
四天王は四体一組で造られますが、火災や移動で欠けた例が多くあります。
所有者は文化庁の国指定文化財等データベースで確認した。
増長天をめぐる仏のつながり
増長天の位階と、似た仏との違い
増長天は天部の位に置かれます。四天王のうち南方を受け持ちます。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。増長天は天部です。
天部のなかでは、帝釈天の配下にあたります。須弥山の頂に住む帝釈天が、中腹の四天王を指揮するという構えです。
四天王の四体は、東の持国天、南の増長天、西の広目天、北の多聞天です。このうち多聞天だけが、単独で祀られるとき毘沙門天と名を変えます。
持国天 ─ もっとも見分けにくい相手
四天王のなかで、この二体がもっとも紛れます。どちらも武器を握り、甲冑を着け、邪鬼を踏みます。
目安は武器の形です。鉾や戟なら増長天、刀なら持国天。
ただし日本の作例ではこの決まりが守られないことが多く、持ち物だけで断定するのは危ういのが実情です。
広目天 ─ 筆を持つかどうか
広目天は右手に筆、左手に巻物を持ちます。四天王で武器を持たないのはこの一体だけです。
増長天は鉾や戟を握ります。
大阪の観心寺では、この二体が並んで重要文化財に指定されています。武器を持つ側と持たない側を、その場で見比べられます。
金剛力士 ─ 口の開き方で対をなす
どちらも口の開き方で対をなすことがあります。
金剛力士は、口を開けた阿形と口を結んだ吽形の二体一対が決まりです。四天王では決まりが緩く、四体すべてが口を開いている作例もあります。
姿も違います。金剛力士は上半身を露わにし、四天王は甲冑を着けます。
増長天についてよくある質問
増長天とはどんな仏ですか。
四天王のうち南方を受け持つ武神です。名は「増し育てるもの」を意味し、五穀の成長を守るとされます。
「増長する」という言葉と関係がありますか。
あります。この天部の名から来ています。もとは「育つ」「増える」という良い意味でしたが、広まる途中で「思い上がる」という悪い意味に変わりました。
増長天はどう見分けますか。
右手に鉾または戟という長柄の武器を握るのが目安です。ただし日本の作例では持国天と入れ替わることが多くあります。
増長天と持国天の違いは。
本来は持ち物で分かれます。鉾や戟なら増長天、刀なら持国天です。ただし入れ替わる作例も多く、断定は危険です。
増長天の像はどこで見られますか。
奈良の法隆寺三経院、奈良の称名寺、大阪の観心寺などに重要文化財の像があります。
増長天と併せて覚えたい言葉・用語
戟(げき)
長い柄の先に刃を付けた武器。増長天が握る。
邪鬼(じゃき)
四天王が足で踏みつける小さな鬼。
石突き(いしづき)
長柄の武器の下端。床に立てる部分。
阿形吽形(あぎょううんぎょう)
口を開けた像と結んだ像。二体一対で置かれる。