剣に黒い竜が巻きつき、剣先を呑もうとする姿。不動明王の化身。
倶利伽羅とはどんな仏か
倶利伽羅をひとことで言えば竜の巻きついた剣です。仏の形をとらない、たいへんめずらしい尊格です。
姿はこうです。地面に立てた一本の剣に、黒い竜が下から巻きつき、剣の先を口で呑もうとしている。人の形も、獣の形も、そこにはありません。 剣と竜だけで一つの尊格が成り立ちます。
由来は不動明王の物語にあります。不動明王が外道と法を争ったとき、不動明王は剣に姿を変えました。相手も同じく剣に変わります。そこで不動明王は竜となって相手の剣に巻きつき、これを呑みこんだ。倶利伽羅は、この場面をそのまま形にしたものです。
剣は迷いを断つ智慧、竜はそれを呑みこむ力を表します。
この形を刻んだ石塔を倶利伽羅不動と呼び、各地の滝や行場に立ちます。奈良の宝山寺、大分の小武寺に国指定の像が伝わります。
倶利伽羅の読み方と梵名
読みは「くりから」です。
「倶利伽羅」は梵名クリカの音を漢字に写したもので、字そのものに意味はありません。文化財の名称では「倶利迦羅」の字が使われます。
なお富山と石川の境に倶利伽羅峠という地名があります。源平の戦いの舞台として知られる場所で、名はこの尊格を祀った寺に由来するとされます。
倶利伽羅(くりから)
もっとも広く使われる形。
倶利迦羅(くりから)
文化財の名称にはこの字が使われる。
倶利伽羅竜王(くりからりゅうおう)
竜王として扱う呼び方。
倶利伽羅不動(くりからふどう)
不動明王の化身であることを示す呼び方。
倶利伽羅竜剣(くりからりゅうけん)
剣そのものを指す言い方。文化財の名称に使われる。
クリカ(Kulika)
意味は「黒い竜」。八大竜王のひとつの名でもある。「倶利伽羅」はこの音を漢字に写したもの。読みは「くりか」。
倶利伽羅の見分け方(印相・持ち物・姿)
倶利伽羅の見分けは、仏の姿をしていないという一点で足ります。剣に竜が巻きついていれば、それが倶利伽羅です。
形 ─ 剣と竜だけ
人の形をとりません。地面に立てた一本の剣と、それに巻きつく竜だけで一つの尊格をなします。
竜は剣の柄のほうから巻き上がり、剣先に口を向けます。今まさに呑もうとする一瞬です。
仏像で人の形をとらない例は、この倶利伽羅のほかにほとんどありません。 見れば必ずわかります。
竜 ─ 黒く、四本の足を持つ
竜は黒とされます。梵名クリカが「黒い竜」を意味することによります。
四本の足を持ち、爪で剣をつかみます。角は二本、目を見開き、口を大きく開けます。
八大竜王のなかにも倶利伽羅竜王の名が数えられ、竜としての性格と、不動明王の化身としての性格が重なっています。
剣 ─ 三鈷の柄を持つ
剣の柄は、三鈷杵の形になっているのが決まりです。
三鈷杵は先が三つに分かれた密教の法具です。柄が法具になっていることで、これがただの武器ではなく仏の智慧を表すものだとわかります。
不動明王が右手に握る剣も、同じ三鈷の柄を持ちます。
置かれる場所 ─ 滝と行場
倶利伽羅を刻んだ石塔は、滝や行場に立てられます。
修験道の行者が水に打たれる場所には、この石塔が置かれることが多くあります。水と竜の結びつきによるものです。
堂の中に安置される例より、屋外の岩に彫られた例のほうが多いのがこの尊格の特徴です。
倶利伽羅のご利益
悪縁を断つ
剣が迷いを断つことにちなむ。
厄除け
不動明王の化身であることによる。
雨乞い
竜が水をつかさどることによる。
修行の守り
滝や行場に祀られることによる。
倶利伽羅に会える寺
倶利伽羅の国指定の像は数が限られます。ここに挙げたのは、所有者が寺であることを文化庁の国指定文化財等データベースで確かめられたものだけです。
屋外の石塔としては、各地に数多く残ります。 滝のかたわら、峠の道端、修験道の行場などです。ただし国の指定を受けたものはほとんどありません。
「倶利伽羅」と刻んだ石を見かけたら、それがこの尊格です。 寺の堂の中より、山道で出会うことのほうが多い仏だといえます。
宝山寺(ほうざんじ)
重要文化財
宝山寺の住所:奈良県(文化庁の国指定文化財等データベースで所有者を確認。詳しい住所は公式の情報を確かめられませんでした)
像:木造不動明王及脇侍像・銅造倶利迦羅竜剣(本堂安置)五躯/重要文化財
この像に結び付く願い:厄除け
不動明王とその脇侍に加え、銅で造られた倶利迦羅竜剣がひとまとまりで重要文化財に登録されています。
文化庁の国指定文化財等データベースで、所有者が宝山寺と記されています。
倶利伽羅が不動明王の像とともに一件として登録されている点が、この尊格と不動明王の関係をよく示しています。
所有者は文化庁の国指定文化財等データベースで確認した。
小武寺(こぶじ)
重要文化財
小武寺の住所:大分県(文化庁の国指定文化財等データベースで所有者を確認。詳しい住所は公式の情報を確かめられませんでした)
像:木造倶利迦羅竜剣 一基/重要文化財
この像に結び付く願い:悪縁を断つ
倶利伽羅だけが単独で重要文化財に指定された例です。
文化庁の国指定文化財等データベースでは、員数が「一基」と記されています。躯ではなく基で数えるのは、これが仏の像ではなく、剣という物として扱われていることを示しています。
所有者は小武寺と記されています。
所有者は文化庁の国指定文化財等データベースで確認した。
倶利伽羅をめぐる仏のつながり
倶利伽羅の位階と、似た仏との違い
倶利伽羅は明王に分類されます。不動明王が姿を変えたものとされます。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。倶利伽羅は不動明王の化身なので、明王に置かれます。
ただし仏の形をとらないという点で、位階の枠に収まりにくい尊格です。剣と竜だけで成り立ち、顔も手もありません。
八大竜王のひとつとして竜王に数える立場もあります。同じ名が、明王の化身としても竜王としても使われているのがこの尊格の特徴です。
不動明王 ─ 同じ仏の別の姿
倶利伽羅は不動明王が姿を変えたものです。同じ仏の別のあらわれにあたります。
不動明王が右手に握る剣が、そのまま倶利伽羅の剣になります。柄が三鈷杵の形になっている点も共通します。
奈良の宝山寺では、不動明王の像と倶利迦羅竜剣がひとまとまりで重要文化財に登録されています。
八大竜王 ─ 竜としての顔
八大竜王のなかにも倶利伽羅竜王の名が数えられます。
見分けは形です。八大竜王は人の姿に竜の頭を戴く形で表されるのがふつうですが、倶利伽羅は剣に巻きついた竜そのものの姿です。
同じ名が、位階の違う二つの立場で使われている例です。
善女竜王 ─ どちらも竜
どちらも竜に関わる尊格です。善女竜王は雨乞いの祈りに応えた竜とされ、空海の伝えに登場します。
見分けは姿です。善女竜王は冠をかぶった人の姿で、頭上に小さな竜を戴きます。 倶利伽羅は人の形をとりません。
奈良の法隆寺には木造善女竜王立像の重要文化財が伝わります。
倶利伽羅についてよくある質問
倶利伽羅とは何ですか。
一本の剣に黒い竜が巻きつき、剣先を呑もうとしている姿の尊格です。不動明王が姿を変えたものとされます。
倶利伽羅はどう見分けますか。
人の形をとりません。剣と竜だけで成り立つ姿なので、見れば必ずわかります。剣の柄は三鈷杵の形になっています。
なぜ竜が剣に巻きついているのですか。
不動明王が外道と法を争ったとき、双方が剣に姿を変え、不動明王が竜となって相手の剣を呑みこんだという話によります。
倶利伽羅峠と関係がありますか。
富山と石川の境にある倶利伽羅峠の名は、この尊格を祀った寺に由来するとされます。源平の戦いの舞台として知られる場所です。
倶利伽羅の像はどこで見られますか。
奈良の宝山寺に銅造の倶利迦羅竜剣、大分の小武寺に木造のものが重要文化財として伝わります。屋外の石塔としては各地の滝や行場に残ります。
倶利伽羅と併せて覚えたい言葉・用語
倶利迦羅竜剣(くりからりゅうけん)
竜が巻きついた剣。文化財の名称に使われる。
三鈷杵(さんこしょ)
先が三つに分かれた密教の法具。剣の柄になる。
外道(げどう)
仏教以外の教え、またそれを奉じる者。
修験道(しゅげんどう)
山で修行して力を得る日本の信仰。滝に倶利伽羅を祀る。