不浄を火で焼き払う明王。便所に祀られることで知られる。
烏枢沙摩明王とはどんな仏か
烏枢沙摩明王をひとことで言えば便所の仏です。汚れたものを火で焼き、清らかに変える働きを持ちます。
名は「火をつかさどるもの」を意味します。穢れを避けるのではなく、焼いて変えてしまうというのがこの明王の考え方です。
禅宗の寺では、便所を東司と呼び、そこを守る仏としてこの明王を安置します。曹洞宗では東司を三黙堂のひとつに数え、そこでの修行を重んじます。
もっとも汚れた場所にこそ、もっとも清める力を持つ仏を置く。 この考え方が、日本の寺の便所に明王を招き入れました。
近年は、便所の掃除が福を呼ぶという言い伝えと結びついて、この明王の札を貼る家も増えています。
天台宗では、五大明王の北方に金剛夜叉明王に代えてこの明王を置くことがあります。ただし国が指定した彫刻は確かめられませんでした。
烏枢沙摩明王の読み方と梵名
読みは「うすさまみょうおう」です。「うすしつまみょうおう」と読む例もあります。
「烏枢沙摩」は梵名ウッチュシュマの音を漢字に写したもので、字そのものに意味はありません。当て字なので「烏枢瑟摩」「烏芻沙摩」など、いくつかの書き方が行われてきました。
意味で訳した名が穢跡金剛です。穢れを跡形なく消すという意味で、この明王の働きをそのまま表しています。
烏枢沙摩明王(うすさまみょうおう)
もっとも広く使われる形。
烏枢瑟摩明王(うすしつまみょうおう)
「瑟」の字を当てた形。
烏芻沙摩明王(うすさまみょうおう)
「芻」の字を当てた形。
穢跡金剛(えしゃくこんごう)
穢れを跡形なく消すという意味の訳。
火頭金剛(かずこんごう)
火をつかさどることによる呼び方。
ウッチュシュマ(Ucchusma)
意味は「焼き尽くすもの」。「烏枢沙摩」はこの音を漢字に写したもの。読みは「うっちゅしゅま」。
烏枢沙摩明王の見分け方(印相・持ち物・姿)
烏枢沙摩明王の見分けは、どこに祀られているかがもっとも確かな手がかりになります。姿だけではほかの明王と紛れます。
置かれる場所 ─ 便所
便所に祀られるというのが、この明王のいちばんの特徴です。
禅宗の寺では便所を東司と呼びます。そこに小さな厨子を設け、この明王を安置します。堂の本尊として大きく祀られることは多くありません。
仏像の見分けは姿で行うのが基本ですが、この明王だけは場所が最大の手がかりになります。 寺の便所に仏像があれば、まず烏枢沙摩明王です。
姿 ─ 忿怒の相と火焔
三つの目を見開き、髪を逆立て、背に火焔を負います。忿怒の相をとります。
腕は四本または六本が標準です。剣・羂索・杵・弓矢などを握ります。
姿だけを見ると、ほかの明王と区別がつきにくいのが実情です。腕の数と持ち物は作例によってばらつきます。
姿勢 ─ 片足を上げる
なぜ像が少ないのか
国が指定した烏枢沙摩明王の彫刻は確かめられませんでした。理由は祀られ方にあります。
便所という場所に置かれる像は、湿気と汚れにさらされます。木彫が長く保たない環境です。
また、堂の本尊ではないため、大きく丁寧に造る必要がありませんでした。小さく簡素に造られ、傷めば取り替えられる。 そうした扱いが、古い像の残らない理由だと考えられます。
烏枢沙摩明王のご利益
不浄を清める
この明王の本領。穢れを火で焼き変える。
下の病を除く
便所を守ることから、下半身の病に効くとされる。
安産
産の場の穢れを清めるとされたことによる。
家内安全
便所の掃除が福を呼ぶという言い伝えと結びついた。
烏枢沙摩明王に会える寺
烏枢沙摩明王の像で、国が指定したものは確かめられませんでした。 文化庁の国指定文化財等データベースで彫刻を検索しても、該当がありません。
これは像が無いという意味ではありません。禅宗の寺の便所には、今もこの明王が祀られています。 ただし小さな像がほとんどで、国の指定を受けたものはありません。
会いに行きたければ、曹洞宗や臨済宗の寺の東司をたずねるのが早道です。ただし多くの寺で東司は修行の場であり、拝観の対象ではありません。 訪ねる前に寺へ確かめるのが確実です。
この欄は空のままにしておきます。 確かめられないものを、それらしい寺で埋めることはしません。
烏枢沙摩明王をめぐる仏のつながり
烏枢沙摩明王の位階と、似た仏との違い
烏枢沙摩明王は明王の位に置かれます。天台宗では五大明王の北方に置かれることがあります。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。烏枢沙摩明王は明王です。
真言宗の五大明王では北方に金剛夜叉明王を置きますが、天台宗ではこの位置に烏枢沙摩明王を置くことがあります。
五大明王の五体のうち、四体は共通で北方だけが宗派で分かれる。 その分かれ目に立つのがこの明王です。
金剛夜叉明王 ─ 北方の枠を分け合う
真言宗の五大明王では北方が金剛夜叉明王、天台宗では烏枢沙摩明王が置かれることがあります。
見分けは目の数です。金剛夜叉明王は正面の顔に五つの目を持ちます。烏枢沙摩明王は三つが基本です。
置かれる場所も違います。烏枢沙摩明王は便所に祀られますが、金剛夜叉明王は堂の中に置かれます。
不動明王 ─ どちらも火を背負う
どちらも背に火焔光背を負い、忿怒の相をとります。姿だけでは紛れます。
見分けは腕の数と姿勢です。不動明王は腕が二本で、岩の座に座るか直立します。烏枢沙摩明王は腕が四本または六本で、片足を上げる作例があります。
不動明王は右手に剣、左手に羂索を持つのが決まりです。
蔵王権現 ─ どちらも片足を上げる
どちらも片足を高く上げる姿勢をとることがあります。
見分けは腕の数です。蔵王権現は腕が二本で、右手に三鈷杵を振りかざし、左手を腰に当てます。烏枢沙摩明王は四本か六本です。
蔵王権現は日本の山で生まれた尊格で、インドの経典には出てきません。烏枢沙摩明王はインドにさかのぼります。
烏枢沙摩明王についてよくある質問
烏枢沙摩明王とはどんな仏ですか。
汚れたものを火で焼き、清らかに変える働きを持つ明王です。禅宗の寺では便所を守る仏として祀られます。
なぜ便所に祀られるのですか。
もっとも汚れた場所にこそ、もっとも清める力を持つ仏を置くという考え方によります。穢れを避けるのではなく、焼いて変えてしまうのがこの明王の働きです。
烏枢沙摩明王の読み方は。
「うすさまみょうおう」です。梵名ウッチュシュマの音を漢字に写したもので、「烏枢瑟摩」「烏芻沙摩」とも書きます。
烏枢沙摩明王のご利益は何ですか。
不浄を清めることが本領です。便所を守ることから下半身の病に効くとされ、産の場を清めることから安産にも祈られます。
烏枢沙摩明王の像はどこで見られますか。
国が指定した彫刻は確かめられませんでした。禅宗の寺の東司には今も祀られていますが、小さな像がほとんどで、多くは修行の場のため拝観できません。
烏枢沙摩明王と併せて覚えたい言葉・用語
東司(とうす)
禅宗の寺で便所を指す語。烏枢沙摩明王を祀る。
穢跡金剛(えしゃくこんごう)
烏枢沙摩明王を意味で訳した名。穢れを跡形なく消す。
三黙堂(さんもくどう)
禅宗で口をきいてはならない三つの場所。東司・浴室・僧堂。
厨子(ずし)
仏像を納める扉つきの箱。