インドで最高神とされた神。仏教では踏まれる側に回る。
大自在天とはどんな仏か
大自在天をひとことで言えば踏まれる最高神です。
もとはインドで宇宙を創り、また滅ぼすとされた最高神でした。仏教に取りこまれ、色究竟天という天の最上部に住む天部になります。
しかし日本の仏像で、この神がもっともよく目にされるのは足の下です。降三世明王が、妃の烏摩とともにこの神を踏みつけています。
物語はこうです。大自在天が仏教に従わなかったため、降三世明王が力ずくで屈服させた。仏教が先行する神々の上に立つことを、足で踏むという形で示したものです。
そのあと大自在天は仏法を守る側に回ったとされます。打ち負かしてから味方にするという、仏教の護法神の作り方がここにも表れています。
三つの目と八本の腕を持ち、白い牛に乗る姿で表されます。日本では大黒天や伊舎那天と同体とみる説もあります。
単独の国指定の彫刻は確かめられませんでした。
大自在天の読み方と梵名
読みは「だいじざいてん」です。
名は梵名マヘーシュヴァラを意味で訳したものです。「マハー」が大、「イーシュヴァラ」が自在者、つまり思いのままにふるまう者を指します。
音を写した摩醯首羅天という表記も経典に見えます。
十二天の伊舎那天と同体とみる説があります。 どちらもインドの同じ神を出自とし、名の訳し方が違うだけだという理解です。
大自在天(だいじざいてん)
もっとも広く使われる形。
摩醯首羅天(まけいしゅらてん)
梵名の音を漢字に写した形。
自在天(じざいてん)
略した形。
伊舎那天(いしゃなてん)
十二天の一員。同体とみる説がある。
マヘーシュヴァラ(Mahesvara)
意味は「大いなる自在者」。「マハー」が大、「イーシュヴァラ」が自在者を指す。読みは「まへーしゅう゛ぁら」。
大自在天の見分け方(印相・持ち物・姿)
大自在天の見分けは、降三世明王の足もとを見ることがもっとも確実です。単独の像はほとんどありません。
足もとで見つける
降三世明王の左足の下に、仰向けに倒れているのが大自在天です。
右足の下に倒れているのは、妃の烏摩です。二体そろって踏まれます。
男女二体を踏む仏は降三世明王だけなので、足もとに男女が倒れていれば、それが大自在天と烏摩だと判じてよいでしょう。
姿 ─ 三目八臂で白牛に乗る
単独で表されるときは、三つの目と八本の腕を持ちます。額に縦の目をひとつ加えます。
白い牛に乗ります。牛に乗る尊格は多くなく、大威徳明王が水牛に乗るのと並ぶ例です。
手には三叉戟・輪・数珠などを握ります。ただし日本ではこの姿の像がほとんど造られませんでした。
踏まれた顔つき
降三世明王に踏まれる大自在天は、苦しげな表情に彫られます。
眉を寄せ、口をゆがめ、手足を投げ出します。かたわらの烏摩も同じく苦しげです。
最高神が踏みつけられて苦しむ姿を彫るというのは、たいへん思い切った表現です。 仏教が自らの立場を示すために、あえてこの構図を選んだことがわかります。
大黒天との重なり
日本では、大自在天の忿怒の姿が大黒天だとする説があります。
大黒天はインドでは戦いと破壊をつかさどる恐ろしい神でした。それが日本で福の神に変わったという経緯は、大自在天が持つ「創り、また滅ぼす」という性格と重なります。
同じ神が、踏まれる姿と福の神の姿の両方で日本に伝わったことになります。
大自在天のご利益
厄除け
仏法を守る側に回ったことによる。
願いをかなえる
思いのままにふるまう自在者という名にちなむ。
芸事の上達
伎芸天の生みの親とされることによる。
福徳
大黒天と同体とみる説による。
大自在天に会える寺
大自在天が単独で国の指定を受けた彫刻は確かめられませんでした。 文化庁の国指定文化財等データベースで検索しても、この名で登録された像はありません。
この神に会うには、降三世明王の足もとを見ることになります。京都の東寺講堂、大阪の天野山金剛寺金堂などで、その姿を確かめられます。
踏まれる姿でしか会えない神。 これほど徹底して「敗者」として造形された尊格は、日本の仏像でほかにありません。
東寺 講堂(とうじ こうどう)
国宝
国宝の五大明王のうち、降三世明王の足もとに大自在天が踏まれています。
文化庁の国指定文化財等データベースでは、所有者が宗教法人教王護国寺と記されています。
大自在天そのものが指定されているのではなく、降三世明王像の一部として彫られています。 単独の像ではありませんが、この神の姿を確かめられる場所です。
同じ堂には国宝の帝釈天半跏像、梵天坐像もある。
天野山金剛寺 金堂(あまのさんこんごうじ こんどう)
国宝
国宝の降三世明王坐像の足もとに、大自在天が踏まれています。
文化庁の国指定文化財等データベースで、所有者が天野山金剛寺と記されています。
坐像の降三世明王は例が少なく、踏まれる大自在天の姿も立像とは違って見えます。
所在地は公式サイトで確かめた。
大自在天をめぐる仏のつながり
大自在天の位階と、似た仏との違い
大自在天は天部の位に置かれます。色究竟天という天の最上部に住むとされます。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。大自在天は天部です。
天部のなかでは、もとインドの最高神だった者にあたります。梵天・帝釈天も同じ来歴を持ちます。
ただし梵天と帝釈天が釈迦の左右に立つ高い位置を与えられたのに対し、大自在天は踏まれる側に回りました。 同じ最高神でも扱いが分かれています。
降三世明王 ─ 踏む側と踏まれる側
降三世明王が、大自在天とその妃の烏摩を足もとに踏みつけます。征服する側とされる側の関係です。
大自在天が仏教に従わなかったため、力ずくで屈服させたという話によります。
仏教が先行する神々の上に立つことを、足で踏むという形で示した構図です。
大黒天 ─ 同体とする説がある
日本では、大自在天の忿怒の姿が大黒天だとする説があります。
大黒天はインドでは戦いと破壊をつかさどる恐ろしい神でしたが、日本で頭巾をかぶり打出の小槌を持つ福の神に変わりました。
同じ神が、踏まれる姿と福の神の姿の両方で日本に伝わったことになります。
伎芸天 ─ 生みの親と子
伎芸天は、大自在天の髪の生え際から生まれたと説かれます。
父と娘に近い関係にあたります。
姿はまったく違います。大自在天は三つの目と八本の腕を持ち白い牛に乗ります。伎芸天は顔も腕も一組ずつで、乗り物を持ちません。
大自在天についてよくある質問
大自在天とはどんな仏ですか。
インドで宇宙を創り、また滅ぼすとされた最高神です。仏教に取りこまれ、天の最上部に住む天部となりました。
なぜ降三世明王に踏まれているのですか。
大自在天が仏教に従わなかったため、降三世明王が力ずくで屈服させたという話によります。仏教が先行する神々の上に立つことを示す構図です。
大自在天はどう見分けますか。
降三世明王の左足の下に仰向けに倒れているのが大自在天です。右足の下は妃の烏摩です。単独の像はほとんどありません。
大自在天と大黒天は同じですか。
日本では、大自在天の忿怒の姿が大黒天だとする説があります。ただし大黒天は日本で福の神に変わっており、姿はまったく違います。
大自在天の像はどこで見られますか。
単独の国指定の彫刻は確かめられませんでした。京都の東寺講堂や大阪の天野山金剛寺金堂で、降三世明王の足もとにその姿を見ることができます。
大自在天と併せて覚えたい言葉・用語
烏摩(うま)
大自在天の妃。降三世明王の右足に踏まれる。
色究竟天(しきくきょうてん)
天の最上部。大自在天が住むとされる。
摩醯首羅天(まけいしゅらてん)
大自在天の梵名を音で写した名。
三目八臂(さんもくはっぴ)
目が三つ、腕が八本の形。