全身に蛇を巻きつけた、五大明王の南方。
軍荼利明王とはどんな仏か
軍荼利明王をひとことで言えば蛇を巻いた明王です。五大明王のうち南方を受け持ちます。
名の「軍荼利」は梵名クンダリーの音を写したものです。「とぐろを巻くもの」という意味で、蛇のとぐろを指すとも、瓶を指すともいわれます。
姿の決め手は蛇です。腕・首・足に蛇を巻きつけます。全身に蛇をまとう仏は、この明王だけです。
蛇は毒の象徴です。同時に、脱皮して生まれ変わる生きものでもあります。毒であると同時に、その毒を制する力でもある。 この両面を身にまとうのが軍荼利明王です。
もとはインドの甘露を守る尊格だったとされます。甘露は不死の水で、それを狙う者から守る役目を負っていました。
五大明王の南方は、宝生如来が怒りの姿をとったものとされます。宝を生む穏やかな如来と、蛇をまとう明王が同じ仏の表と裏だという理解です。
軍荼利明王の読み方と梵名
読みは「ぐんだりみょうおう」です。
「軍荼利」は梵名クンダリーの音を漢字に写したもので、字そのものに意味はありません。「軍茶利」と書く例もあります。
軍荼利夜叉明王という呼び方もあり、文化財の名称にも使われます。夜叉はもともと人を害する鬼神を指す語で、この明王がそこから転じたことを示しています。
軍荼利明王(ぐんだりみょうおう)
もっとも広く使われる形。
軍荼利夜叉明王(ぐんだりやしゃみょうおう)
文化財の名称にも使われる形。
軍茶利明王(ぐんだりみょうおう)
「茶」の字を当てた形。
甘露軍荼利(かんろぐんだり)
甘露を守る役目にちなむ呼び方。
クンダリー(Kundali)
意味は「とぐろを巻くもの」。蛇のとぐろ、あるいは瓶を指すとされる。読みは「くんだりー」。
軍荼利明王の見分け方(印相・持ち物・姿)
軍荼利明王の見分けは、体に巻きついた蛇にあります。ほかに紛れる相手がありません。
蛇 ─ 腕・首・足に巻きつく
腕・首・足に蛇を巻きつけます。二の腕に一匹ずつ、首に一匹、足首に一匹という形が基本です。
蛇の頭が肩や膝からのぞく形に彫られ、遠目にも異様な姿になります。
全身に蛇をまとう仏は、軍荼利明王だけです。 弁才天の頭に載る宇賀神も蛇の姿をとりますが、あちらは頭上の一体だけで、体に巻きつきません。
印相 ─ 腕を交差させる大瞋印
胸の前で両腕を交差させ、掌を外に向けて指を伸ばす印を結びます。大瞋印といいます。
「瞋」は怒りを意味する字です。怒りをそのまま形にした印だとされます。
腕を交差させる印は降三世明王も結びますが、降三世印は小指を絡めて手の甲を合わせるのに対し、大瞋印は掌を外へ向けて指を開きます。
顔と腕 ─ 一面八臂
顔は一つ、腕は八本が標準です。
五大明王のなかで、顔が一つなのは不動明王と軍荼利明王だけです。降三世と金剛夜叉は三面、大威徳は六面あります。
三つの目を見開き、牙をむき、髪を逆立てます。八本の手には三鈷杵・輪・羂索・鉞などを握ります。
位置 ─ 五大明王の南
五大明王では、中央の不動明王から見て南に置かれます。
南方は宝生如来にあたるので、軍荼利明王は宝生如来が怒りの姿をとったものとされます。
大阪の尊延寺には「木造降三世軍荼利明王立像」として、降三世明王と二躯まとめて登録された重要文化財があります。五体そろわず二体だけが残った例です。
軍荼利明王のご利益
厄除け
五大明王として災いを払う。
毒を消す
蛇の毒を制する力にちなむ。
病気平癒
甘露を守る役目にちなみ、不死と健康が祈られる。
悪縁を断つ
怒りの力で障りを除くとされる。
軍荼利明王に会える寺
軍荼利明王は、五大明王の一員として会うことも、単独の像として会うこともできます。
京都の大覚寺には「木造不動明王軍荼利明王大威徳明王像」として三躯まとめて登録された重要文化財があります。滋賀の延暦寺には「木造軍茶利夜叉明王立像」の重要文化財があります。
ここに挙げたのは、所有者が寺であることを文化庁の国指定文化財等データベースで確かめられたものだけです。
金勝寺(こんしょうじ)
重要文化財
軍荼利明王が単独で重要文化財に指定された例です。
文化庁の国指定文化財等データベースで、所有者が金勝寺と記されています。
五大明王の一員としてではなく、一躯だけで指定された像は数が限られます。
所有者は文化庁の国指定文化財等データベースで確認した。
常楽院(じょうらくいん)
重要文化財
常楽院の住所:埼玉県(文化庁の国指定文化財等データベースで所有者を確認。詳しい住所は公式の情報を確かめられませんでした)
像:木造軍荼利明王立像 一躯/重要文化財
この像に結び付く願い:悪縁を断つ
関東に伝わる軍荼利明王の重要文化財です。
文化庁の国指定文化財等データベースで、所有者が常楽院と記されています。
明王の像は近畿に集まる傾向がありますが、関東にもこうした例があります。
所有者は文化庁の国指定文化財等データベースで確認した。
尊延寺(そんえんじ)
重要文化財
尊延寺の住所:大阪府(文化庁の国指定文化財等データベースで所有者を確認。詳しい住所は公式の情報を確かめられませんでした)
像:木造降三世軍荼利明王立像 二躯/重要文化財
この像に結び付く願い:毒を消す
降三世明王と軍荼利明王が二躯まとめて登録されています。
五大明王のうち二体だけが残った例です。文化庁の国指定文化財等データベースで、所有者が尊延寺と記されています。
二体の名を一つの名称にまとめた登録は、二躯で一件として扱われていることを示しています。
所有者は文化庁の国指定文化財等データベースで確認した。
軍荼利明王をめぐる仏のつながり
軍荼利明王の位階と、似た仏との違い
軍荼利明王は明王の位に置かれます。五大明王のうち南方を受け持ちます。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。軍荼利明王は明王です。
五大明王は、中央が不動明王、東が降三世、南が軍荼利、西が大威徳、北が金剛夜叉です。それぞれ五智如来が怒りの姿をとったものだとされます。
軍荼利明王は南方で、宝生如来が怒りの姿をとったものとされます。
不動明王 ─ どちらも顔が一つ
五大明王のなかで顔が一つなのは、この二体だけです。
見分けは腕と蛇です。不動明王は腕が二本、軍荼利明王は八本です。軍荼利明王は全身に蛇を巻きます。
不動明王は剣と羂索を持ち、岩の座に座ります。
降三世明王 ─ 腕の数が同じ
どちらも腕が八本です。腕の数では分かれません。
見分けは足もとと蛇です。降三世明王は大自在天と烏摩を踏み、軍荼利明王は蛇を巻きます。
印も違います。降三世印は小指を絡めて手の甲を合わせ、大瞋印は掌を外へ向けて腕を交差させます。
弁才天 ─ どちらも蛇と結びつく
どちらも蛇と関わります。ただし関わり方が違います。
軍荼利明王は全身に蛇を巻きつけ、弁才天は頭上に宇賀神という蛇身の神を載せます。
位階も違います。軍荼利明王は明王、弁才天は天部です。姿もまったく違い、弁才天は琵琶を抱く女性の姿です。
軍荼利明王についてよくある質問
軍荼利明王とはどんな仏ですか。
五大明王のうち南方を受け持つ明王です。腕・首・足に蛇を巻きつけた姿で表されます。
軍荼利の読み方と意味は。
「ぐんだり」です。梵名クンダリーの音を漢字に写したもので、「とぐろを巻くもの」を意味します。蛇のとぐろとも瓶ともいわれます。
軍荼利明王はどう見分けますか。
全身に蛇を巻きつけています。腕を胸の前で交差させ掌を外へ向ける大瞋印を結び、顔は一つ、腕は八本です。
なぜ蛇を巻いているのですか。
蛇は毒の象徴であると同時に、その毒を制する力の象徴でもあります。また、もとは不死の水である甘露を守る尊格だったとされます。
軍荼利明王の像はどこで見られますか。
滋賀の金勝寺、埼玉の常楽院、大阪の尊延寺、京都の大覚寺などに重要文化財の像があります。
軍荼利明王と併せて覚えたい言葉・用語
大瞋印(だいしんいん)
胸の前で腕を交差させ掌を外に向ける印。軍荼利明王が結ぶ。
甘露(かんろ)
不死をもたらすとされる水。軍荼利明王が守るとされた。
夜叉(やしゃ)
もとは人を害する鬼神。のちに仏法を守る側に回った。
五大明王(ごだいみょうおう)
不動・降三世・軍荼利・大威徳・金剛夜叉の五体一組。