法華経の説法を証明するため、塔とともに地から現れた過去の仏。
多宝如来とはどんな仏か
多宝如来をひとことで言えば証人になった仏です。法華経の見宝塔品という章に、その登場の場面が語られています。
釈迦が法華経を説いていると、突然、宝で飾られた巨大な塔が地の底から湧き出して空にとどまりました。塔の中から声がして、「釈迦が説いていることはすべて真実である」と証言します。声の主が多宝如来でした。
この仏ははるか昔に世を去っており、生前に誓いを立てていました。どこかで法華経が説かれるなら、塔ごとそこへ出向いて証明しようという誓いです。自分の教えを広めるためではなく、他人の説法を裏づけるために現れるという、変わった役目を負っています。
そのあと多宝如来は塔の中の座を半分あけ、釈迦を招き入れました。二体が横に並んで座るこの場面を二仏並坐といい、多宝如来を表すときの決まった形になっています。
日蓮宗では、題目を書いた中央の柱の左右に釈迦如来と多宝如来を置き、一塔両尊と呼んで本尊とします。
多宝如来の読み方と梵名
読みは「たほうにょらい」です。
名は梵名プラブータラトナを意味で訳したものです。「多くの宝」という意味がそのまま漢字になっています。
なお多宝塔という建物の名も、この仏が現れたときの塔に由来します。ただし日本の多宝塔に多宝如来を安置する例はほとんどなく、中には五智如来や大日如来が納められています。
多宝如来(たほうにょらい)
もっとも広く使われる形。
多宝仏(たほうぶつ)
法華経ではこの形が多い。
大宝仏(だいほうぶつ)
古い訳に見える形。
二仏並坐(にぶつびょうざ)
釈迦如来と並んで座る姿を指す言い方。
プラブータラトナ(Prabhutaratna)
意味は「多くの宝」。「プラブータ」が多い、「ラトナ」が宝を指す。読みは「ぷらぶーたらとな」。
多宝如来の見分け方(印相・持ち物・姿)
多宝如来のいちばんの目印は、同じ大きさの如来が二体、横に並んで座っていることです。単独の像はまれです。
姿 ─ 二体が横に並ぶ
二仏並坐が、この仏を表す決まった形です。釈迦如来と多宝如来が、同じ大きさ、同じ姿で横に並んで座ります。
仏像で二体が対等に並ぶ形は、ほかにほとんどありません。三尊像は中央の仏が大きく、脇侍は小さく造られます。大きさの等しい如来が二体並んでいたら、まず二仏並坐です。
どちらが多宝如来かを外から見分けるのは難しく、光背や台座の飾りで区別する例もあります。
塔 ─ 塔の中に納まる
法華経の場面では、二体は宝塔の中に座っています。そのため像も塔の形をした厨子に納めることがあります。
奈良の東大寺に伝わる重要文化財の銅造の像も、塔とともに伝えられてきました。
塔の内側に二体が並ぶ姿は、法華経の場面をそのまま立体にしたものです。
印相 ─ 決まった形はない
多宝如来の手の形には、これと定まった決まりがありません。
作例によって、指の輪をつくる定印、掌を上げる施無畏印、両手を膝に置く形などさまざまです。手の形で多宝如来と判じることはできません。
これは、この仏が姿より場面で表される仏であることを示しています。誰であるかより、どういう場に居合わせたかが大事にされてきました。
日蓮宗での表し方
日蓮宗では、多宝如来が本尊の一部に組みこまれます。
中央に「南無妙法蓮華経」の題目を書いた柱を立て、向かって右に釈迦如来、左に多宝如来を配します。これを一塔両尊といいます。
さらに四菩薩を加えた形もあり、こちらは一塔両尊四士と呼びます。像として造られるほか、掛け軸に描かれることも多くあります。
多宝如来のご利益
真実を明らかにする
説法を証明した役目にちなむ。
法華経の功徳
法華経を説く場に必ず現れると誓ったことによる。
約束を守る
生前の誓いを果たし続ける仏であることによる。
福徳
名に「多くの宝」を含むことによる。
多宝如来に会える寺
多宝如来を本尊として祀る寺は、日本にほとんどありません。釈迦如来と並んだ二仏並坐の形で伝わるのがほとんどです。
なお、東京の根津美術館にも重要文化財の銅造の二仏並坐像がありますが、所有者は美術館であり寺ではないため、ここには挙げていません。
日蓮宗の寺では一塔両尊の一部として祀られますが、多くは掛け軸に描かれたもので、立体の像は限られます。
東大寺(とうだいじ)
重要文化財
釈迦如来と多宝如来が並んで座る、二仏並坐の像です。
文化庁の国指定文化財等データベースでは、二躯ひとまとまりで重要文化財に登録され、所有者は東大寺と記されています。
銅で造られた二仏並坐の像は数が少なく、法華経の場面を立体で伝える貴重な例です。
同じ寺には国宝の毘盧遮那仏坐像、不空羂索観音立像、執金剛神立像がある。
多宝如来をめぐる仏のつながり
多宝如来の位階と、似た仏との違い
多宝如来は如来の位に置かれます。すでに悟りを開き、世を去った過去の仏にあたります。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。多宝如来は最上位の如来です。
如来のなかでは、過去の仏という区分に入ります。釈迦如来より前に悟りを開き、すでに世を去っている仏です。同じ区分には燃燈仏などがあります。
釈迦如来 ─ 並んで座る相手
二仏並坐では、この二体が並びます。外から見分けるのは容易ではありません。
多くの場合、向かって右が釈迦如来、左が多宝如来とされます。ただし作例によって入れ替わることがあり、絶対の決まりではありません。
日蓮宗の一塔両尊でも、この左右の配置が用いられます。
阿弥陀如来 ─ 過去の仏と現在の仏
阿弥陀如来は今も西方の極楽浄土で説法を続けている仏です。多宝如来はすでに世を去った過去の仏にあたります。
見分けは手の形です。阿弥陀如来は指で輪をつくります。多宝如来には決まった印がありません。
多宝如来が単独で表されることはまれなので、まず並んでいるかどうかを見ます。
毘盧遮那仏 ─ どちらの経典の仏か
毘盧遮那仏は華厳経の仏、多宝如来は法華経の仏です。よりどころとする経典が違います。
姿もまったく違い、毘盧遮那仏は単独で巨大に造られることが多く、多宝如来は二体並んで小さく造られます。
奈良の東大寺には、両方の像が伝わります。同じ寺で経典ごとの仏の違いを見比べられる、珍しい場所です。
多宝如来についてよくある質問
多宝如来はどんな仏ですか。
法華経に説かれる過去の仏です。法華経が説かれる場に塔ごと現れ、その内容が真実であると証明すると誓いました。
二仏並坐とは何ですか。
釈迦如来と多宝如来が横に並んで座る形です。多宝如来が塔の中の座を半分あけ、釈迦を招き入れた場面を表します。
多宝塔には多宝如来が入っていますか。
ほとんど入っていません。多宝塔という名はこの仏が現れた塔に由来しますが、日本の多宝塔には五智如来や大日如来を安置するのがふつうです。
日蓮宗の一塔両尊とは何ですか。
中央に題目を書いた柱を立て、左右に釈迦如来と多宝如来を配した本尊の形です。多宝如来はこの左に置かれます。
多宝如来の像はどこで見られますか。
奈良の東大寺に重要文化財の銅造二仏並坐像があります。東京の根津美術館にも重要文化財の像がありますが、所有者は寺ではありません。
多宝如来と併せて覚えたい言葉・用語
二仏並坐(にぶつびょうざ)
釈迦如来と多宝如来が横に並んで座る形。
見宝塔品(けんほうとうほん)
法華経の章のひとつ。多宝如来の塔が現れる場面を説く。
一塔両尊(いっとうりょうそん)
題目の柱の左右に釈迦如来と多宝如来を置く日蓮宗の本尊の形。
厨子(ずし)
仏像を納める扉つきの箱。塔の形に造ることもある。