大日如来を中心に、五つの智慧を五体の仏に分けた組み合わせ。
五智如来とはどんな仏か
五智如来をひとことで言えば五体で一組の如来です。密教で説く五つの智慧を、それぞれ一体の仏に割り当てたものです。
並びは決まっています。中央に大日如来、東に阿閦如来、南に宝生如来、西に阿弥陀如来、北に不空成就如来。金剛界曼荼羅の中心に描かれる五体なので、金剛界五仏とも呼びます。
五つの智慧とは、鏡のようにありのままを映す大円鏡智、すべてを等しく見る平等性智、違いを見分ける妙観察智、実際に成し遂げる成所作智、そしてそれらを束ねる法界体性智です。一人の仏の中にある五つの働きを、五体に分けて目に見えるようにしたものだと考えるとわかりやすくなります。
日本では多宝塔の中に安置する形が広まりました。塔の内部に五体を配することで、建物そのものを曼荼羅に見立てるという考え方です。
胎蔵界にも五体一組の如来があり、そちらは大日・宝幢・開敷華王・無量寿・天鼓雷音の五体です。ただし彫刻としてはほとんど残っていません。
五智如来の読み方と梵名
読みは「ごちにょらい」です。「五智」は五つの智慧を指します。
一体の仏の名ではなく、五体をまとめて呼ぶ名である点がほかと違います。四天王や十二神将と同じ組み合わせの名にあたります。
なお「五智」を寺号に用いる例もあり、新潟には五智国分寺という寺があります。寺の名に五智とあれば、五智如来を祀る堂を持つ場合が多いといえます。
五智如来(ごちにょらい)
もっとも広く使われる形。
金剛界五仏(こんごうかいごぶつ)
曼荼羅での位置を示す呼び方。
五仏(ごぶつ)
略した呼び方。堂の名では「五仏堂」となる。
五智仏(ごちぶつ)
同じ組み合わせを指す別の言い方。
パンチャ・ブッダ(Pancabuddha)
意味は「五体の仏」。「パンチャ」が五、「ブッダ」が仏を指す。読みは「ぱんちゃぶっだ」。
五智如来の見分け方(印相・持ち物・姿)
五体は顔つきも衣もそろえて造られるため、見分けは手の形だけにかかっています。五つの印を覚えると、どの寺の五智如来も読み解けるようになります。
印相 ─ 五つの手の形を覚える
中央の大日如来は、右手で左手の人差し指を握る智拳印を結びます。指を組んでいる像が中心です。
東の阿閦如来は右手を垂らし、指先で台座に触れる触地印。南の宝生如来は右手を下げ、掌を前に向ける与願印。西の阿弥陀如来は両手で指の輪をつくる定印。北の不空成就如来は右手を上げる施無畏印です。
右手の高さで並べると、下から阿閦・宝生・不空成就の順になります。この覚え方が実際の堂で役に立ちます。
装身具 ─ 五体そろって冠をかぶることがある
如来は本来、冠も瓔珞も着けません。しかし五智如来では、五体そろって宝冠と装身具を着ける形が多く見られます。
中心の大日如来が冠をかぶるため、残りの四体もそれにそろえたものです。この形を宝冠五仏と呼ぶことがあります。
装身具を着けているからといって菩薩ではありません。如来の位のまま冠をかぶるのが、密教の像の特徴です。
置かれ方 ─ 多宝塔の中
五智如来は多宝塔の中に安置されることが多い仏です。
多宝塔は下が四角、上が丸い二重の塔で、内部に心柱を立て、その周囲に五体を配します。塔の中に入ると、曼荼羅の中心にいることになる、という仕掛けです。
和歌山の金剛三昧院、和歌山の高野山、大阪の天野山金剛寺など、密教の寺に例が集まります。塔の内部は普段閉じられており、公開の日が限られます。
数え方 ─ 四体しかない組もある
五体そろって残っているとはかぎりません。火災や移動で欠けた組も多くあります。
奈良の西大寺には、阿弥陀・釈迦・阿閦・宝生の四躯が重要文化財として伝わります。大日如来を欠き、代わりに釈迦如来が入るという珍しい組み合わせです。
こうした例があるため、「四体しか無いから五智如来ではない」とは言い切れません。手の形をひとつずつ確かめる必要があります。
五智如来のご利益
智慧を得る
五つの智慧を表す組み合わせであることによる。
所願成就
五体それぞれの働きが合わさるとされる。
厄除け
塔に納めて四方を守る形をとることによる。
先祖供養
五仏を刻んだ石塔が墓に立てられてきたことによる。
五智如来に会える寺
五智如来は、真言宗と天台宗の寺の多宝塔にまとまって残ります。ここに挙げたのは、所有者が寺であり、かつその寺で像を保管していることを文化庁の国指定文化財等データベースで確かめられたものだけです。
塔の内部は普段閉じられていることが多く、拝観できる日は限られます。訪ねる前に寺へ確かめるのが確実です。
なお五智如来で唯一の国宝である京都の安祥寺の五躯は、所有者こそ寺ですが、保管施設が京都国立博物館と登録されています。寺へ行っても会えないため、この欄には入れていません。
天野山金剛寺 五仏堂(あまのさんこんごうじ ごぶつどう)
重要文化財
五体を安置するために建てられた堂が、そのまま「五仏堂」と呼ばれています。
金堂には国宝の大日如来坐像と不動明王・降三世明王の坐像があり、密教の像の組み合わせを一つの境内でまとめてたどれる寺です。
女人高野とも呼ばれ、女性の参詣を早くから受け入れてきました。
所在地は公式サイトで確かめた。
金剛三昧院 多宝塔(こんごうさんまいいん たほうとう)
重要文化財
金剛三昧院 多宝塔の住所:和歌山県(文化庁の国指定文化財等データベースで所有者を確認。詳しい住所は公式の情報を確かめられませんでした)
像:木造五智如来坐像(多宝塔安置)五躯/重要文化財
この像に結び付く願い:先祖供養
高野山の寺で、多宝塔の中に五体が納められています。
塔は鎌倉時代のもので、国宝に指定されています。塔と像がそろって残る貴重な例です。
北条政子が源頼朝の菩提を弔うために建てたと伝えられます。
所有者は文化庁の国指定文化財等データベースで確認した。
遍明院(へんみょういん)
重要文化財
瀬戸内の島に伝わる五智如来です。
近畿から離れた土地に五体そろって残る例は少なく、密教の教えが各地へ広がった証しとして注目されてきました。
拝観の可否は寺に確かめる必要があります。
所有者は文化庁の国指定文化財等データベースで確認した。
五智如来をめぐる仏のつながり
五智如来の位階と、似た仏との違い
五智如来は如来の位に置かれます。五体すべてが如来で、菩薩や天部は含みません。
仏には如来・菩薩・明王・天部という四つの位階があります。五智如来は最上位の如来だけを五体そろえた組み合わせです。
四天王や十二神将が天部の組み合わせであるのに対し、五智如来は如来だけで組まれた、位階のいちばん高い組み合わせにあたります。
大日如来 ─ 五体の中心にいる
大日如来は五智如来の中央にあたります。単独で祀られることも多い仏です。
五体並ぶなかでいちばん大きく造られ、宝冠と装身具を着け、指を組む智拳印を結びます。
大日如来を見つけたら、その左右に四体そろっているかどうかを確かめると、五智如来かどうかが判じられます。
五大明王 ─ 五体一組どうし
どちらも五体で一組をなします。五智如来は穏やかな顔、五大明王は怒りの顔という違いが、ひと目でわかります。
密教では、同じ仏が穏やかな姿と怒りの姿の両方をとると説きます。五智如来が怒りの姿をとったものが五大明王だとする見方もあります。
大阪の天野山金剛寺では、五仏堂の五智如来と金堂の不動明王・降三世明王を同じ境内で見ることができます。
阿弥陀三尊 ─ 組み合わせの性格が違う
阿弥陀三尊は、中心の阿弥陀如来と脇の観音・勢至という位階の違う三体の組み合わせです。
五智如来は五体すべてが如来で、上下の関係がありません。主従ではなく、五つの働きを並べたものです。
なお阿弥陀如来は五智如来の西方にも数えられます。同じ仏が二つの組み合わせに顔を出すことになります。
五智如来についてよくある質問
五智如来とは何ですか。
密教で説く五つの智慧を、それぞれ一体の如来に割り当てた五体一組の仏です。中央に大日如来、東に阿閦如来、南に宝生如来、西に阿弥陀如来、北に不空成就如来を置きます。
五智如来はどう見分けますか。
手の形で見分けます。指を組むのが大日、地に触れるのが阿閦、掌を下げるのが宝生、指の輪をつくるのが阿弥陀、掌を上げるのが不空成就です。
五智如来はどこに安置されますか。
多宝塔の中に置かれることが多い仏です。塔の内部を曼荼羅に見立てる考え方によります。五仏堂という専用の堂を建てる寺もあります。
五智如来と五大明王は同じですか。
別の組み合わせです。五智如来は穏やかな顔の如来五体、五大明王は怒りの顔の明王五体です。ただし同じ仏の別のあらわれとみる説もあります。
国宝の五智如来はどこにありますか。
所有者は京都の安祥寺で、彫刻の五智如来で国宝はこの一件だけです。ただし文化庁の国指定文化財等データベースでは、保管施設が京都国立博物館と登録されています。
五智如来は必ず五体そろっていますか。
そろっていない例もあります。奈良の西大寺には、大日如来を欠き釈迦如来を加えた四躯が重要文化財として伝わります。
五智如来と併せて覚えたい言葉・用語
金剛界曼荼羅(こんごうかいまんだら)
大日如来の智慧の面を図に表したもの。中心に五智如来を描く。
智拳印(ちけんいん)
右手で左手の人差し指を握る形。金剛界の大日如来が結ぶ。
多宝塔(たほうとう)
下が方形、上が円形の二重の塔。内部に五智如来を安置する。
宝冠五仏(ほうかんごぶつ)
五体そろって宝冠と装身具を着けた形の五智如来。
五輪塔(ごりんとう)
五つの形を積み上げた石塔。五仏を表すものとされる。